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第8話 修行

(1日目)


「リアは魔力を感じとれる? 視覚的にはモヤのようなものが漂っているように映るんだけど」


「いえ、感じとれたことないです。多分、僕に巨人種(ゴードラド)の血が流れているので」


「なるほどね、じゃあ、魔力を感知できるようになろうか」


 ロスタノがそう言うと、リアの全身が不思議な感覚に包み込まれた。

 麻の布を纏っているような、ただ、麻とは違ってとても滑らかな肌触りである。


「フォルタン大地に広げていた魔力探知の網の一部を君の周りに集中させているよ。数日もすれば魔力を感じとれるようになると思うよ」



(3日目)


「どう?」


「感じます!感じます! ロスタノさんの周りは特に濃いですね」


「バリア解体のために魔法詠唱中だからね」


 丸二日ほど掛かったが、ロスタノの補助がなくてもリアは魔力を感じ取れるようになった。


「次は魔力の吸収と放出を覚えようか」



(6日目)


 リアが魔力の吸収を覚えるのは早かった。

 要領は肺呼吸と似ていたからだ。

 放出も同様であった。


 しかし、ロスタノが魔力の放出の応用を出したので、それの習得に苦戦していた。

 その内容は、地面や空気などの物体に魔力を伝わせること。


 全身からテキトーに魔力を出すと煙のように拡散してしまうので、一点に絞って魔力を放出する必要があるのだ。


「あはは」


 なかなかに上手くいかないが、リアは笑っていた。


 思えば今までこれほどまでに一つのことに熱中して取り組んだことがなかった。

 全身の血潮が潮騒のごとく賑やかに動いている。



(7日目)


「ロスタノさんって、身体に沢山の口がありますけど生まれつきなんですか?」


 修行以外にドラゴン肉を食べることくらいしかない暇人リアはロスタノに訊いてみた。


 これからロスタノと行動を共にするにあたって彼女のことを知っておきたいと思ったからだ。

 加えて、冷酷に生殺与奪の判断を下す彼女が怖いので、彼女の人柄や過去などを知っていき親近感を持てるようになることで恐怖を減らそうという魂胆もある。


「そうだよ。魔族(ティタン)種というヒトの(しゅ)の先天的性質でね。魔法が得意な人種だったから同時に多種の魔法を詠唱できるように進化したんだよ」


 ロスタノの鼻下の口が喋る。

 それ以外の口はバリア解体のための詠唱作業に勤しんでいる。


「ふふ」


「…? どうしたんですか?」


 ロスタノが突然笑った。


「私は鼻下の口も含めて身体に十三あるんだけどね、昔、『君の口は十四あるだろう、股座(またぐら)にあるじゃないかもう一つ〜』ってからかわれてね。多分、女陰のことを言ったんだろうね…。

 その後、彼の男根切り落として傷口に穴を開けて女陰を作ってあげたよ。ふふふっ…懐かしいなぁ」


 リアは恐怖した。



(12日目)


 リアはドラゴンの鱗を持ち、浅く息を吐く。

 鱗を掴む五指を意識する。


 指に僅かに痺れる感覚がする。

 魔力が通っている証だ。


「うん、確かに魔力の伝導ができているね」


「やった…! ちょっと難しかったです…!」


「魔力も感じとれなかった状態から二週間でここまでとは、才能あるかもね。よく頑張ったね、ようやくスタートラインだ」


 ロスタノの言葉にリアは少し驚く。

 魔力操作の会得は最低でも数十年かかると言われて大変さを分かっていたつもりだった。

 しかし、魔力操作の基本をトントン拍子で学び取っていたのでスタートラインから二三歩程歩いている気でいた。


 気を引き締めなければならない。

 一歩一歩ゆっくり歩いて行くのだ。


「それでは、魔力の圧縮ができるようになろうか」



(19日目)


「あの、かなり今更なんですけど…そのバリアを破るのに二ヶ月もかけなきゃいけないんですか? この前の水魔法みたいに大質量の攻撃で一気に破壊できないんですか?」


 リアが以前から気になっていたことについてとうとう尋ねた。

 修行難易度が上がってなかなかコツが掴めず燻っていたので、気分を変えるため質問した次第であった。


「このバリアは割れるとガラスみたいに破片になって飛び散るんだ。我々より巨大なサイズのがね。バリアの外側に何があるかは知らないが、木々があれば軒並み破壊されるだろうし地面も抉れるだろうね。人家があった場合は…言うまでもないね」


「なるほど…尤もな理由ですね。てっきり僕の修行のために時間をとってくれているものだとばかり…」


「それもあるよ。魔力操作を途中まで会得して、ある程度怪力を手懐けれるようになってから外に出たかった。私がそばに居るとはいえ、万が一はあるからね」


 リアにその気がなくても人を殺してしまったり、理性を失って大量殺人を行ってしまったりするかもしれない。

 ロスタノはそれを危惧していたのだ。


「バリア解体終了までに魔力の圧縮を会得するのが望ましいね。かなりシビアだけど。 まぁ、私が居るから、憂い無くゆっくり修行してくれていいよ」


『私が居るから』。

 この発言にリアは心がじわじわと暖まっていくのを感じた。


 恐怖の対象でしか無かったロスタノの強さにこれほどの頼もしさを感じたのは初めてである。

 リアはロスタノに対して、少しではあるが我が子を慈しむ母性に近いものを感じた。

 リアの肉親からは全く感じ取れなかったものである。




(46日目)


 魔力圧縮の修行を始めてから三十四日経過した。


 リアは段違いの難易度に日々唸り声をあげていた。

 体内と体外では魔力操作の難しさは天地の差があるのだ。

 今までは前転や側転の練習をしていたのに、空中でしばらくバク宙し続ける練習をし始めたようなものだ。


「…ん〜、説明するのはかなり難しいんだけどね…魔力の流れ…向きを意識してそれに合わせて掴むというか…。こればかりは何人に教えてきてもこれだ、という説明ができないのだよね…。ごめんね、私が教えると言ったくせにね…」


「いえ、覚悟はできています。ロスタノさんに覚悟決めさせられましたしね」


「そうか…。ありがとうね。

 …魔力圧縮さえ会得できれば次のレベルはもっとマシな指導ができるのだけど…」


 ちょっと強い言葉で小突けばポロポロと崩れそうな程に弱々しい口調のロスタノが言い訳を並べる。


 老婆の姿に似つかわしい薄弱なロスタノを見るのは初めてである。

 彼女の人間味ある一面を見れたことにリアは安心感を得たのだった。


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