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第9話 脱出

「…っ…は…っ…あ…で、できました! できました! 魔力の圧縮できましたよぉ!!!!」


「凄いね…! 本当に二ヶ月間でそのレベルまで会得するなんて…天賦の才があるね」


 修行開始から六十日目にしてリアが魔力圧縮を会得した。

 バリア解体が終わる日までに頑張って間に合わせたのだ。

 根性でどうこうなる難しさではないはずなのだが。


 ロスタノがリアに手を伸ばすと不可視の壁にぶつかる。

 人差し指と中指の第二関節で軽く叩くと籠った音がする。

 程よい密度である。


「よし…これなら外に出ても不安はあまり無いね。もうバリアは壊せるけど早速壊して良い? 一日くらい待とうか?」


 リアは直ぐには返事をせず、壁に背を向ける。


 眼前には大地一面に広がる薄紅色のスケートリンク。

 氷の花は花弁が散るようにぽろぽろと崩れ始めている。

 嗅ぎなれたひんやりとした冷気を肺いっぱいに溜め込む。


 フォルタン地区。

 最初は、絶望の果てに到達した死を確定する最悪の終着点、という印象であったが、今こうして振り返ってみるとリアにとって最大のターニングポイントだった。


 名残惜しさすら感じながら、リアはロスタノの方へ向き直る。


「いえ、行きましょう」


「そうかい」


 ロスタノの繊手がバリアに触れる。


「『門番の馘首 (Demontage)』」


 小さく呟くとフォルタン地区全域を覆う半球のバリアが徐々に、霞の如く消失していく。

 魔力を認識できるようになったリアの瞳にはバリアは、水にインクを垂らすように魔力が拡散していく様が映っていた。


 魔力が大地に沈殿し始めた頃にはバリアは無く、壁が辺りを囲うのみだった。


「『大地との離別(schwimmend)』」


 ロスタノとリアの身体が重みを失う。

 彼女らの足裏が地から離れる。


 リアは少々驚きながら足元を見る。

 食べ尽くしたドラゴンの骨と鱗が山積みになっている。

 次第にその山が小さくなっていく。


 彼女らの身体は壁面を越える。

 そのとき、二人の瞳は新鮮な緑を浴びて視界がチカチカ光る。

 しばらく白と黒、おまけに薄紅しか彩りを見ていなかった彼女らにはその草原は新鮮に感じられた。


 ロスタノ達が薄茶色の草の生えた地面に降り立つ。

 遠くの景色は新緑に輝いていたが、不毛のフォルタン地区のすぐそこはまだ土地に栄養がないようだ。


「これからどこ行くんです? ロスタノさん… ってあれ」


 横にいたはずのロスタノがいない。

 と思いきや、壁に設置された機械を興味深そうに見ていた。


「なるほどね…機械音声で詠唱してバリアを維持していたのか……でも六百年前はできなかったのに…訛りや細かなイントネーションの再現が難しかったはずなのだけどね…」


 興味津々といった様子でブツブツと喋っている。


 壁面に設置されている鈍色の小型機械はバリアの維持を担っていたものである。

 形状が半球であり、色も相まって甲冑の兜を髣髴とさせた。

 そんな機械が壁面に三列ほど並んでいる。


 壁面は遠くまで同じ顔をして続いており、はるか遠くで緩やかにカーブして視界から隠れていった。

 そこでリアは疑問に思った。


「フォルタン地区って警備とか門扉とかないんですかね?」


「んんー?」


 辺りの魔力が蠢く。

 魔力探知の動きである。


「七キロくらい先の方に門があるみたいだよ。守衛もいるね。少ないけどね」


「わぁ〜、魔力探知の範囲本当に広いですね…」


 景色がかすみ始める程度の距離までロスタノの魔力探知の「網」が展開されているのが何となく分かる。

 リアの魔力探知など、起伏の無い大地に広がる見応えのない枯れ草と無機質な壁が探知できるだけである。

 視覚で見るより範囲が狭い。


「……ん…?」


 ロスタノの目の焦点が小型機械から外れる。


「あぁ…しまったね…。リア、近くに村落があるからそこへ急ごう」


 ロスタノの目つきが険しくなる。


「私のせいで魔物が暴走しそうだね。村が襲撃されるかも」


「…! せ、戦闘になりますかね?」


 リアの表情が強ばる。


「いや、間に合えばひとまずは防げるね」


「それなら急ぎましょう!」


 ロスタノは若娘の身体で軽快に走り出し、リアが追随した。

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