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許嫁ガチャは⭐︎5だらけ  作者: 我妻 ベルリ
第一章 好感度UP作戦♡編
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第8話 今日はトクベツ③

 時刻は12時24分。後ろのパレードの音は段々と聴こえなくなって行く。人混みを掻き分けて、僕の手を握って走る二奈の背中だけを見つめながら走る。


 「はぁっ。はぁっ。はぁー。結構走りましたね。」

 「ふぅ。そうだな。で?なんでこんな事したんだ?」

 「え?それは、メリーゴーランドに乗るために決まってるじゃ無いですか!もう、先輩何言って」

 「違う。なんで僕だけなんだ?あの場には三和と四羽も居たはずだ。」

 「…………。」

 「いや。最初から二奈だけ、()()行く事にこだわっていた。こうして2人っきりになった訳だが。こうした訳を教えて貰えないか?」

 「そ、それは。その………。」

 

 先輩にされた質問は、何故か心がキュッと締め付けられる様な感覚がした。ずっと機会を伺ってた。この時を待っていた。多少強引だったかも知れない。でも、もう戻れない。


 「とりあえず、メリーゴーランド。乗りませんか?乗りながら話しましょうよ。」


 メリーゴーランドに乗り込んだ。僕は白馬、二奈は黒馬に乗ってゆっくりと動き始めた。煌びやかに光る金色のライトに照らされながら、二奈は重い口を開いた。


 「先輩は、許嫁を選ばなくちゃいけない事をどう思っていますか?」

 「急にだな…。………最初は、正直言うとあまり乗り気じゃ無かったんだ。それに、弱みも握られたたしね。笑」


 メリーゴーランドは回り続ける。2人の時間はゆっくりと、そして確実に進んでいく。


 「でも、二奈が自分の為だと教えてくれた時に、気が付いたんだ。僕はずっと向き合って来なかっただけなんだって。弱みだとか、家の為とか理由を考えていたんだ。今では、自分の為に5人の中から許嫁を選びたいと思ってる。」

 「………そうですか。ありがとうございます。じゃあ、なんで次は私の番ですね。」


 周りからは、子供のはしゃぐ声、メリーゴーランドの外から手を振る親の姿。時間と景色は流れる様に変化している。二奈は、真の顔を見ずに段々と話し始める。


 「なんで、私がこんな事をしたかですよね。パレードの邪魔してすみません。でも、どうしても2人で話したかったんです。………先輩は疑問に思った事はありませんか?私は佐倉家の次女です。本来、そのまま家を継ぐのはお姉ちゃん。でも、2人でお見合いをした。なんで家を継がない私もお見合いをしたのか。」

 

 言われてみればそうだ。何故気がつかなかったのだろう。普通のお見合いならともかく、このお見合い、この許嫁は、家同士の関係にも直結する。家を継がない二奈はお見合いをするメリットが無い。いや、これも僕が気付かぬうちに目を逸らして来た結果なのかも知れない。


 「私の家族は皆んな音楽関係の仕事をしています。楽器が弾ける。歌が歌える。それが当たり前の家なんです。お姉ちゃんも歌が上手いっす。でも、私に音楽の才能はありませんでした。………絵が好きで何度も賞をとってきても、誰も褒めてくれない。そんな家なんです。」


 メリーゴーランドの終了を知らせるブザーが鳴り響く。徐々にスピードを緩めて、メリーゴーランドが停止する。2人で会話できる所を探して、ベンチに座る。朝は雲一つない快晴だったが、見上げると少し雲がかかっていた。


 「私、先輩に選んで貰えば、認めてもらえると思ったんです。家にない居場所を作り出せると思ったんです。でも、先輩も、皆んなも、真剣に向き合っている。私だけなんです。許嫁を利用しようとしてる人。何としてでも、選んでもらおうと思ったたんですけど、私だけ身勝手ですよね………。」


 二奈の顔は下を向いているから見えない。でも、暗い表情をしているに違いない。今日はやけに、いろんな一面を見る。それだけ信頼されている証拠でもある。あんな紙、要らなかったんだな。

 皆んなが自分を出してくれている。今度は僕の番だ。

 「二奈が、自分のために恋愛をしても良いって言ってくれたんだ。それに、そんな事を気にする事はない。」

 「え?どう言う意味ですか?」

 「二奈は絵が描けるんだ。それを誇るべきだよ。佐倉家はそうかも知れないけど、僕の前にいるのは、二奈だ。」


 その言葉を聞くだけで、心が安堵する。いや、先輩の事だから、私を責める事は言わない。それでもその言葉に救われる。先輩は求めている言葉をくれる。自分では気づいていないかも知れない。けど、その人柄に救われる人は大勢居るんだ。


 「先輩はそう言うところ。気をつけて下さいね?」

 「え?どう言う意味?」

 「何でもないです!なんか、スッキリしました!さぁ!みんなと合流しましょう!三和にも謝らないと。」

 「…くすっ。そうだな。行こうか。」


 2人で合流場所へと向かう。今日だけで色んなことが起きた。一華、五花、四羽、三和、二奈。それぞれの思いがあり、それを僕に信頼して打ち明けてくれる。出会った時に比べて本当に親しくなれたのだと実感した。


 時刻は2時14分。約束した噴水で全員と集合する。

 午後は全員で園内を回る。ご飯を食べて、乗り物に乗って、お土産を見る。計画通りには、いかなかった。しかし、いかなかったからこそ、今日、5人との距離を縮められたと思う。5人の笑顔がより一層、そうなのだと実感する。


 「…真!次はあれやろうよ。…2人でボールを使って的を倒すんだって。…私の実力見せてあげる。」

 「じゃあ、僕もやろうかな!」

 「真?あんなボール遊びなんかより、あのお化け屋敷に行こうっす!1人じゃ怖くていけないから、真はついて来てくださいっす!」

 「…ん。真は私と行くの。…一華は1人で行って。そもそも怖いなら行かなくて良い。」

 「三和は分かってないっすね。暗闇の中を2人でドキドキしながら進むのが楽しいんじゃないっすか。それに、暗闇なら何しても偶然で片付くよ?真?」

 「…!?ダメ、絶対!…真はどっちと行きたい?」


 美少女2人に、選択を迫られるのは嫌な気がしない。しかし、どっちかなんて選べない。どうすれば…。


 「じゃあ、三和と一華で的当てゲームをやって、その後、3人でお化け屋敷に行ったら?マコトっちもそれで良いよね!」

 「え、ああ!そうだな!休憩がてら2人のゲームを見てるよ!」

 

 ありがとう!五花!見直したぞ!

 心の中で五花を褒めちぎってから、言われた通りに回る。人生初めての遊園地はとても楽しかった。こんなに楽しい場所があったのか。いや、家族で来ていたら、こんなに満足していなかっただろう。この5人だから、僕はこんなに楽しいんだ。


 


 時刻は午後3時01分。空は少しづつ雲で覆われていく。50分くらい経った時には、ポツリポツリと雨粒が地面に落ちる。雨が地面に沁み込み、丸い模様を作り出す。徐々に雨脚が強くなる。シャワーの様な夕立が6人を襲う。僕たちが雨宿りのために、お店の屋根に着く頃には全員びしょびしょになっていた。


 「急に降ってきましたね。どうしましょう、洋服も濡れてしまいました。」

 「そうだね。夕方のパレード見られるかな?」

 「…この雨なら、仕方ないよ。」

 「あれ?真?なんでさっきからそっぽを向いて………。ふぅーん?」

 「な、なんだよ。僕はただ、雨を見てただけで…。」

 「先輩。そんな風に見たたんですか?エッチ。」

 「まぁー。真も、オトコノコって事だよね?」

 「っ!!」


 やはり佐倉姉妹は手強い。見ようとしなくても、目に入ってしまう。若干透けた洋服。雨で濡れて、水滴が滴る髪。目の前で、そんなものを見せつけられるこっちの身にもなってくれ。


 「な、なぁ。このお店で着替えでも買ったらどうだ?このままだと、全員風邪引くし。」

 「…それもそうだね。……それに、誰かさんが見てくるから。」

 「そうしましょう。では、私たちは中で洋服を買ってきます。真。変な事しないでくださいね?」

 「へ、変な事なんてしない!!」

 「じゃあ、行こっか!」


 5人がお店の中に入って行く。僕はオーニングの下で彼女達のことを待つ。スマホを取り出して天気予報を確認する。2時間もすれば、天気は元に戻るらしい。今は午後4時02分。パレードの時間は8時からだ。問題なく見れるだろう。

 スマホをポケットにしまい、そのまま入れ替える様に一枚の紙を取り出す。最後に楽しかったと思える事が重要なんだ。計画でガチガチに時間を決めてしまってはつまらない。そんな事を今日は学べた。


 紙を折りたたんでポケットにしまって5人のことを待つ。雨が少しづつ僕の体温を奪う。濡れた服の冷たさに、肌が少しづつ慣れていく。

 不意にお店のドアが開き、店員が僕に話しかけてくる。


 「あの、すみません。先程の女性のお客様の…彼氏様ですか?」

 「え?いや、ん…そうとも言える…のかな?」


 許嫁候補って言うわけにもいかない。しかし、この関係はなんと言うのだろう。僕のあやふやな答えに、少し困った顔をした店員が紙袋を僕に渡してくる。


 「お連れ様が、商品を受け取り忘れてしまいまして。現在、お買い求めされた洋服をご試着中ですので、その商品を渡すことも出来ず…。」

 「あ、いや。あとで渡して貰えば充分で…」

 「そ、その…。こちら、女性の肌着でして…。今頃、お困りになられているのではと思い。彼氏様に、こちらを渡していただきたいと思いまして。お願い出来ますでしょうか。」


 試着室の廊下に案内された僕は、目の前の5つある扉の前で頭を抱える。店員さんは5人のうち1人しか見ていない。それが誰かわからないらしい。確率は5分の1。普段やっているゲームのガチャよりはマシか。いやいや、ゲームの中とは訳が違う。そのまま少しの間考えた。

 そして、覚悟を決めて試着室のドアを開ける。中に誰が居るのかは、結局わからなかった。でも、謎の確信があった。このガチャは当たる。そんな気がしていた。


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