第7話 今日はトクベツ②
「ほら、何してんっすか?早く皆んなを見つけなきゃっすよ?」
「あ、ああ。そうだな。」
遊園地に来た僕と許嫁候補の5人は迷子になり、バラバラになってしまった。
なんとか一華を見つけ、トラブルはあったものの、5人のうち1人とは合流出来た。………本当に凄いトラブルが、あった。
観覧車を降りた後、隣にあるジェットコースターにやって来た。ここは、五花が行きたいと言っていたアトラクションだ。しかし、同じ場所に留まるとは限らない。ジェットコースターを乗った後にどこか別の所に移動してしまっているのでは無いか。半信半疑でジェットコースター乗り場に向かう。
「真?どうっすか?五花いるっすか?」
「う、うーん。み、見当たらないな。」
「ん?なんすか?ソワソワしちゃって。」
「くっ。……誰のせいだと。」
観覧車の後から一華に対しての反応に困る。あんな事があったのに、本人はなんとも思ってないようだし。いや、あれが一華の本心ならなんとも思わないのは当たり前か。
横を歩く一華の唇から目が離せない。もし、あのままキスされていたら、どうなっていたのだろう。
そう考えていると、僕の視線に気が付き、一華が、ニヤリと口角を上げる。そんな顔にドキッと心が波打ってしまう。上目遣いで、小悪魔の様な笑みを浮かべながら、僕をいじる様に話しかけて来る。
「そんなにしたかった?キス。まぁ今度からは指じゃなくて、口にしても良いよ?もう偽ることもないし、ね?真♪」
「べ、別にそんなんじゃ!」
「えぇ?じゃあなんで私の方見てたのかな?」
そう言うと、一華はリップを塗った後の様に、唇でパッと音を鳴らす。完全に僕を弄りに来ている。自分で性格が悪いと言っていたが、こう言う事だったとは。今更になり不安になって来た。
「そ、そんな事より!五花だ!ち、近くに居なそうだな!」
「そうっすね。もう乗り終わって他の所に行った。っと考えた方が良いかもっすね。」
「そうだな。もしかしたら、とっくに遠くの方に………。一華。あれは何だ?」
そこには、ジェットコースター乗り場で係員数人とその係員に止められている五花が居た。「もう一回!もう一回だけ!」と言う迷惑客(17歳)と「何回乗るんですか!?他のお客様もいらっしゃいます!」と言う正論をぶつける係員。それを白い目で見る周りの人達。
「えぇっと…。私たちのお友達の五花ちゃんっすね。………どうするっすか?無視して置いて行くっすか?」
「そうしたいのは山々だか、流石に可哀想だ。回収しよう。一華。頭を下げる準備は出来たか?」
「土下座までする覚悟っす!」
「よし!行くぞっ!」
駄々をこねる五花を、全力で頭を下げて回収する。こんな事になるくらいなら、迷子センターの方がマシだっただろう。その後、一華のキツーイお仕置きを受けた五花は、反省した様子でベンチに座っている。
「す、すみませんでした。ジェットコースターが楽しすぎて。つ、つい。」
「まぁ、合流できて何よりだ。さぁ残りは、二奈、三和、四羽だな。」
「………真。ここは二手に別れないっすか?その方が効率良いし、すれ違いは起きないっす。集合場所だけ決めておけば、なんとかなる気がするっす。」
「確かに。そうしよう。僕は右回りで回っていく。一華は左回りで回ってくれ。集合場所は…そうだな、入り口の所にあった噴水でどうだ?」
「あのー?私は?」
「五花は私とっす!また、どこかに行かれないように私がしっかり見張ってあげるっす!」
「ひぇえ〜…」
「じゃあ、噴水集合で!また後でっす。」
2人と別れて、さっき言ったルートを回り始める。一華が僕を信じてくれた。信じて託してくれたんだ。確かに、僕は5人の事を何も知らない。でも、この少しの期間で、そこには確かに築き上げられた信頼があるのだと感じた。
観覧車の反対側にあるフードエリアに来た。四羽は「フルーツパフェ」を食べたがっていた。恐らくここに居るはずだ。
しかし、一向に四羽の姿見えない。それもそうだ。五花みたいに馬鹿じゃない。何度もフルーツパフェを、おかわりしてるはずないんだ。もう違う場所に行ってしまったに違いない。
そう考えながら歩いていると、ふと一つの店が目に止まる。「キュートキャットカフェ」と書かれた看板には猫のイラストが描かれていて、大きな窓から中の様子が見られる。中では可愛い猫と戯れる人々の姿があった。アレルギーとか大丈夫なんだろうか。
そんな事を考えながら店の中を覗いていると、中にいる女性と目が合う。
「あ。四羽。」
「あ。」
店の中に入ると、入り口でアレルギー確認と簡単な体調チェックを受けた。やっぱしっかりしてるんだ。
その後、入店するとそこには、腕に一匹。両肩にそれぞれ一匹。足元に二匹の猫に囲まれた四羽がいた。
「あ、あの!真、これには深い訳が!」
「ふぅーん?じゃあ、その深い訳を聞かせてもらおうか?」
「…うっ!んんん〜〜〜!」
特に何も考えてなかった四羽は、顔を真っ赤にして河豚のように頬を膨らませる。少しからかい過ぎただろうか。
「まぁ。見つかってよかったよ。さぁ、行こう。皆んな待ってる。」
「あ!も、もうちょっと!もうちょっとだけ…可愛がって行きませんか?」
「………仕方ないな。あと10分で良いか?」
四羽は大きく頷き、その場に座り込んで猫と戯れる。しかし、今日は意外な一面をよく見る。いつも真面目でかわいいものとは無縁そうなのに。こんなに猫が好きだなんて。
猫に囲まれる四羽を見ながら考えていると、怒られてしまう。
「な、なんですか?私だってかわいいものに興味くらいあります!特に、猫は昔から好きなんですよね。」
「そうなのか。飼ったりはしないのか?」
「…したいですけど、親が許してくれませんでした。ですから、このお店を見つけたら、パフェよりもこっちの方が気になってしまって。」
「そうだったのか。」
四羽は、膝の上で寝ている猫の頭を撫でながら話してくれた。猫はとても気持ちよさそうに寝ている。その姿を見ているだけで、こっちも気分が落ち着いていた。2人だけの時間がゆったりと流れる。その間、会話はあまり無かったが、それでも癒されるものを共有する事で不思議と居心地は良かった。
「はぁー!癒されました!ここ最近は、勉強しかしてなかったので余計に!」
「それは良かったよ。あとは、二奈と三和か。」
「もうすぐでお昼です。三和が見たがっていたパレードは、確か12時からだったはずです。」
スマホの時計を見ると11時55分だった。急いでパレードが行われる場所まで移動した。
「ど、どうですか?三和は居ますか?」
「いや、見えない。くそっ、人が多すぎる。」
パレードが行われる道の周りには、家族やカップル。そして、多くの子供達でごった返していた。この中から1人を見つけ出すことなんて出来るはずなかった。普通なら。
「……あはは…。三和って大きいから、わかりやすい…ですね。」
「なんで!皆んな!こうなんだ!」
パレードを心待ちにする最前列の子供の中に、身長178㎝の女子高生が混じっていた。三和は五花の様にはならないと思っていたのに…。子供たちの中から三和を引き抜き、変わりの見やすい所に連れて行く。
「…一番前で見たかった……。」
「何歳だよ!それに大人気ないぞ。」
「…好きに年齢は関係ないもん。」
「くっ。どんだけ好きなんだよ。ほら、ここからでもよく見えるだろ。」
最前列では無いが、少し離れている分、パレードの全体が見えてとても綺麗な場所だ。
パレードが始まると、楽しげな音楽と共に、華やかなダンス、それぞれのプリンセスを模した乗り物が登場し、子供も大人も盛り上がる。
隣にいる四羽と三和も、小ジャンプしながらパレードを見ている。また知らない一面を知る事になった。
「…真!見て!見て!凄いよ!?」
「お、おう。そんなに盛り上がるんだな。意外だよ。」
「…え?」
三和はハッと我に帰った様な顔をした。まずい、水を差す様な事を言ってしまった。
「い、いや!変な意味じゃなくて!楽しんでくれて良かったよ。」
「…うん。でも、それは真と一緒に見てるからだよ?」
「え?」
「あの勉強会で真が、私のことを認めてくれたから。褒めてくれたから、今の私がいる。そんな真が一緒に居てくれるから私も楽しめるんだ。」
パレードの音が遠のいて、三和の声だけがよく聞こえる。パレードの華やかなライトに照らされた瞳。綺麗でサラサラとした長い髪。そして、どうしても目に入ってしまう可愛らしい桃色の唇。三和の顔がいつもより、輝いて見えた。
「………いつも寝る時ね。前までは目を閉じると、不安な事とか、嫌な事だけが浮かんできてたの。でも、真に褒められてからは、目を閉じると、嬉しくて暖かい気持ちになって、嫌なことなんて忘れられるの。…今も目閉じればその気持ちが溢れて来るんだ。………あ、あのね!?わ、わ私!真の事が!………………あれ?真?」
三和が目を開けるとそこに真の姿は無かった。辺りを見回しても姿が見えなかった。まるで、最初から居なかったかの様に。
「はぁっ!はぁっ!」
「に、二奈!?なんで走るんだ!?三和達とパレードを!」
「ダメです!先輩!先輩は私と一緒にメリーゴーランドに乗るんです!」
三和と話している途中で、急に後ろから手を引っ張られて、そのままパレードから離れて行く。
二奈に手を引かれてメリーゴーランドまで走って行く。二奈の顔は薄い紅色に染まっていた。
様々な一面を見る事ができる遊園地は、これから更に真を心を揺れ動かす事になる。