第68話 お邪魔します!
4月7日。
のんびりとした日差しに、心地良い風が柔らかく通り過ぎる。
一年の間で一番過ごしやすい季節と言っていいこの日。百花学園は入学式を迎えていた。
とは言っても、生徒会以外の生徒は登校していない。体育館の装飾、掃除、生徒会長の挨拶が仕事になっている。
体育館は綺麗に装飾され、ひかれた赤い絨毯を見ると2年前のことを思い出す。玄江先輩に無理矢理、生徒会室に連れてこられた時のことを。あれが無かったら今の俺は無かった。今じゃそう思える。
入学式の準備が終わると、生徒会長を除いた生徒会メンバーは基本的に必要ない。仕事を終えた俺達は解散になる。
玄関で靴を履いていると、後ろから四羽から話かけられる。
「真はこの後どうします?」
「そうだな。大人しく帰ってもいいけど…まだ9時だしな〜」
準備だけだったので早めの解散。学校に残って自習…とはいかないだろう。微妙に暇。時間の潰し方を決めあぐねる。
「もし、時間が空いてるなら少し付き合ってもらえませんか?」
「ん?どこか行きたいのか?」
「まぁ…そうですね」
四羽から意外な誘いを受けたが、特に問題はない。それどころか、丁度時間が潰せる。
「丁度時間が余ってたし、いいよ。どこに行くんだ?」
「う〜ん。本屋とお菓子屋さんに!」
「うん。じゃあ行こっか」
軽く返事を返し、俺は四羽と歩き出す。
学校から出て少し歩いた所で、1人の女子を見つける。
その子は、1人でフラフラと道を行ったり来たり。まるでどこに行けばいいのかわからなくなった子供のようだった。
無視するわけにもいかず、四羽と俺は迷っている様子だったので声をかけた。
「あの、大丈夫ですか?」
「へぇ!?」
四羽の声かけに驚いたのか、女子生徒は変な声を上げる。
「新入生?その制服、百花学園のだよね?」
「あ…もしかして、お二人もですか?」
「百花学園の生徒会です。学校はあっちですよ?」
新入生は最近越して来て、道に迷っていたらしい。にしても、学校はすぐそこなのに…よく迷えるな……。
「あ、ありがとうございます!助かりました!」
「大丈夫ですよ!遅れないように気をつけてください」
「はい!失礼します!」
そう言うと、慌ただしく走り出していった。
その姿を見届けた後、俺と四羽は本屋とお菓子屋へと向かった。
○ ○ ○
本屋とお菓子屋に行った後、俺はなんの予定もなく歩いていく。
四羽の手には、本屋で買った参考書とお菓子屋で買った駄菓子が詰まったビニール袋が握られている。
「この後どうする?」
「そうですね〜。真は何も用事はないんですか?」
「そうだな。今日は暇だし、何もする事はないな」
今も四羽について行っているだけ。する事も無いし、時間を持て余している。
「じゃあ、ちょっとついて来てくれませんか?」
「ん?まだどこか行くのか?」
「私の家です」
「…………ん?」
○ ○ ○
四羽の家。何気に初めて来た。
女子5人と同棲していた癖に、なぜか今更ドキドキしてしまう。
誰もいない静かな家。男女2人きり。何も起こらないはずもなく………?
「勉強を教えてください!」
「ですよね〜」
四羽の部屋へと案内された俺は、机の上に広げられた参考書をぼーっと眺めていた。
「次の中間テストは満点をとりたくて!」
「…なんだか、去年の期末試験を思い出すな」
「え?あ〜…そんな事もありましたね。なんとなく…あの時の事は思い出したくないです」
「泣いちゃったから?」
「わざわざ思い出したくないって言ったのに!!」
怒った四羽に左腕をポコポコと殴られる。痛くない。
少し笑った後に、ここまで仲良くなれた事を改めて不思議に思う。
「なんだか不思議だな。こんなに仲良くなれるなんて」
「確かにそうですね…でも、真の力でもあるんじゃないですか?」
「え?」
そう言うと、四羽はこちらに向き直って正面から訴えるように話し始める。
「真が私達に向き合ってくれたから。逃げずに問題を解決してくれる。そんな所を皆んな好きになっていくんだと思うんです」
四羽の素直な言葉に、2人とも照れてしまう。顔が火照ってきて部屋に気まずい静けさが溜め込む。
「さ、さあ!勉強!教えてください!」
「お、おう!」
一緒に暮らしていても2人きりは、なぜか緊張する。
今にして思えば、この時から皆んなとの関係は変わり始めていたのかもしれない。