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許嫁ガチャは⭐︎5だらけ  作者: 我妻 ベルリ
第四章 雪のプレゼント編
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第60話 チョコレート

 二奈のバレンタイン。


 今日はバレンタイン。先輩の為にチョコレート作りをしようと思っていた。

 けど、私は部活もあったし、1から作れるような腕前も無かった。先輩もぐちゃぐちゃなチョコを渡されても困ると思った。だからショッピングモールにある有名なチョコレート専門店でバレンタインチョコを買って来た。

 決して先輩への想いがないわけじゃない。これは、私なりの想いの伝え方だ。

 お姉ちゃんは、自力でチョコを作った。それも凄いことだと思う。私は買ったものを渡す。想いがこもってないとか、そう考える人もいるだろう。

 でも、少なからず先輩はそんな事は言わないし、思わない。

 玄関で先輩達と別れた後、こっそり先輩の下駄箱へと戻る。

 先輩の事だから下駄箱の中にチョコがあるかも知れない。そんなことを考えていたが、中には先輩の靴しかなかった。

 私には面と向かって渡すのは…少し恥ずかしくて下駄箱にチョコを置いておくことにした。学年が違う事も理由の一つだ。一年生が二年生の教室を訪ねたら、注目を集めるのは自然な流れ。迷惑をかけるかも知れない。

 なら、最初から先輩しか見る事のない渡し方をする方がいいと判断した。


 「これで良しっ!」


 先輩の下駄箱に買ったままの包装がされたチョコの箱を置いて、下駄箱を閉める。

 そして心の中で少し祈ってから自分の教室へと向かう。

 先輩に私の想いが届きますように。


 ◇ ◇ ◇


 三和のバレンタイン。


 昼休みになり、周りの生徒は自由に過ごし始める。

 食堂へと向かう生徒。教室で購買のパンを食べ始める生徒。他のクラスへと向かう生徒。様々な生徒が居る中、私はスマホをバレないように取り出し、ある人物にメールを送った。

 メールを送った後、私はいつものように食堂へと向かう。いつもの様に、皆んなで食堂で食事をする。

 食べ終わった後、いつもは皆んなと一緒に雑談をして過ごすが、今日は部活の集合があるからと嘘をついて食堂を後にする。

 少し時間をずらして彼が私の後をついてくる。メールで送った通りに人気のない場所を探す。偶然、空き教室を見つけたので中に入る。ようやく2人きりになれた。


 「わざわざ人気のない場所に連れ込んで。どうした…って聞くのは意地悪か?」


 真は私の考えがわかっている。その上で、確認の意味を込めて私に質問を投げかける。

 

 「…ううん。…時間をとってくれてありがとう。…その……なんで呼び出したか…わかってるよね?」

 「ま、まぁな」


 真は恥ずかしがって視線を私から外す。

 私も真の顔を直視出来ない。

 今、私はどんな顔をしているんだろう。自分でもわかるくらい赤くなっている。恥じらいが表情に現れることに、更に顔が熱くなる。

 お互い気まずい空気が流れる。沈黙が続き、私はようやく制服のポケットから小さな箱を取り出す。


 「…こ、これっ!…市販のチョコを溶かしただけなんだけど…。…その、喜んでくれたら嬉しいなって…」

 

 両手を突き出し、目を瞑りながらチョコレートを渡す。その姿はまるで告白のようだった。


 「ありがとう。三和」


 真はそっと私のチョコレートを受け取る。目を開けた私と目が合い、顔がまた更に熱くなる。でも、視線は外さない。なんなら、もっと見つめ合う。


 「…その、味は問題ないと思うからさ…。…私から貰った感想、聞かせてもらってもいい?」


 その後、時間が許すまで静かな空き教室で2人きりの時間を過ごした。


 ◇ ◇ ◇


 四羽のバレンタイン。


 放課後になり、生徒会室で仕事をする。

 部屋には真と2人きり。白猫(しろねこ)さんと南条(なんじょう)さんは職員室に書類の確認へ。青木(あおき)くんは卒業式に必要になる書類の印刷に向かった。

 渡すなら今しかない。そう思っているのに動き出せないでいた。

 妙に緊張してしまう。ただチョコを渡すだけ。そう自分に言い聞かせても、鼓動はますます早まる。

 こんなに緊張したのは、生徒会選挙の時以来だ。全校生徒の前で告白なんて、今振り返っても馬鹿げた行動だと思う。

 なんであんなことをしてしまったのか。

 いや、理由は自分が一番理解できてる。彼が本気で好きだから。それだけだ。

 最初は、凄く嫌な奴。そんな印象だった。私より成績は上。更に、武田先輩に生徒会長に推薦される程の実力の持ち主。どれだけ勉強しても、学年順位は変わる事がなかった。

 どんな人物かと思ったら、屋上で隠れてゲームをしている適当な生徒だった。更に、そんな人が許嫁だなんて…当時は認めたくなかった。

 しかし、彼と向き合う内にそんな感情は払拭されていった。逃げずに向き合う姿。そんな姿に私は惚れたのかも知れない。

 今も、横で真面目に作業している。夕陽に照らされた横顔は、私には輝いて見えた。

 私は覚悟を決めて、足元に置いていた鞄からチョコを取り出し、彼の前に置いた。


 「ん?これは?」

 「バレンタインチョコです。あなたの事ですから、何個か貰っているんでしょうけどね」


 彼は作業を辞め、私が差し出したチョコの箱を受け取る。


 「嬉しいよ。ありがとう四羽」

 「どういたしまして。あっ。因みに、中には2種類のチョコが入ってるんです」


 市販のチョコを溶かしただけど、それなりに時間をかけて試行錯誤したものだ。それに、きちんと私の意味が込められたチョコレートだった。


 「へぇ。なんで2種類なんだ?」

 「一つは尊敬の意味を込めました。そして、もう一つは…ハート型のチョコです。私の気持ちって事です…」


 自分で言っていて恥ずかしくなるが、全校生徒の前で告白したんだ。彼に直接気持ちを伝えるくらいどうって事ない。

 私の言葉を聞いて、彼は頬を赤らめる。なんだか愛らしく感じた。

 放課後の生徒会室には、普段と違う空気が漂っていた。


 ◇ ◇ ◇


 五花のバレンタイン。


 時計は午後7時過ぎをさしている。生徒会の仕事が終わった筈。そのタイミングを見計らってメールを送る。

 私は部活にも、委員会にも所属してない。4時過ぎには下校する筈だった。でも、彼を待つ為に近くのカフェや本屋などによって時間を潰していた。

 この時間まで時間を潰すのは、自然と苦痛に感じなかった。それよりかは、あっという間に過ぎたくらいだ。

 どうやって渡すか。どんな言葉をかけるのか。どんなシチュエーションが一番効果的か。そんな事を永遠と妄想していた。膨らませる度に不安が襲いかかる。

 それでも、諦める事はない。彼への気持ちは変わらないから。

 ポケットが震え、スマホの画面を見ると真から返信があった。すぐに向かう。簡単な返信なのに、その一言に胸が高鳴る。

 この感覚は夏祭りの時に似ている。迷子になりかけた時、彼がずっと居てくれた。一華に好きかどうか聞かれた時は、焦って返答を逃してしまった。

 けど、今なら自信をもって言える。私は真が好き。

 10分ほど待った後、彼の姿が見えた。


 「あ、マコトっち!こんな時間に呼び出してごめんね?」

 「いや、良いよ。俺も待たせてごめんな?寒かったろ?少し…確認したい事があって。それじゃあ帰ろっか?」


 私は頷いて一緒に歩き出す。

 少し遠回りをして帰りたい。そんな変なメールにも彼は文句の一つ言わずに付き合ってくれる。

 街はバレンタインのポスターや広告があちらこちらに飾られており、自然と会話はチョコの話になる。


 「マコトっちはやっぱりチョコ貰ったの?」

 「ああ。皆んなからと、同級生と後輩から。その2つは友チョコらしいけどな」


 真は鞄を開けて見せてくれた。

 中には、4人が渡したであろう4つの箱。それと、真が言っていた同級生と後輩のチョコがあった。

 4つの箱は、皆んなが準備していたのを見ていたから既視感がある。でも、残りの2つは見た事がない。

 一つは、袋に入っていて可愛くラッピングされていた。多分自分で作ったんだろう。

 もう一つは多分市販の。ショッピングモールかなんかで買われたものだろう。丁寧に包装されている。店員さんがラッピングしなければこんなに綺麗に出来ない。


 「へぇー?やっぱりモテるんだ?」

 「友チョコって言ってるだろ?そんな疑わなくても、浮気なんてしないよ」


 彼はそう言いながら笑う。もう少し意地悪な質問をしてやろうと思ったが、彼の笑顔を見た瞬間、そんな気持ちは消えてしまった。

 彼の開けられた鞄にぽいっと私の箱を入れる。


 「え?」

 「私のチョコ。その……は、恥ずかしいから!バレないように食べてね?」


 急に顔が火照る。本当なら、もっとロマンチックに渡すつもりだったけど、現実はそんなこと出来ないほど緊張している。


 「ふふっ。ありがとう五花」

 「あっ!笑ったな!?人がせっかく思い切って渡してあげたのに!もう良い!回収!」


 チョコを入れた真の鞄に手を突っ込み、自分のチョコを取り出そうとする。

 真は謝らながらそれを阻止する。(はた)から見たらカップルがイチャついているように見えるのだろうか。

 そんな事を妄想しながら、2人で楽しく家へと帰った。


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