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許嫁ガチャは⭐︎5だらけ  作者: 我妻 ベルリ
第四章 雪のプレゼント編
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第58話 バレンタインはとろける

 1月14日。

 3学期が始まり1週間が経った。このクラスと一緒に居られる時間も少なくなってきた。

 来年は三年生だ。受験も始まり、それぞれの道へと旅立つ事になるだろう。

 休み時間。次の授業の準備をし終わり、特にする事もないので進路の事についてぼーっと考える。

 有名大学に合格して、門川不動産を継ぐ。そんな道は自ら捨てた。なら、俺はこれから何をすべきなのか。最近はそんな事を考えたりしている。

 6時間目のチャイムが鳴り、号令が教室に響き渡る。考える事をやめて授業に集中する。

 はあ、と溜息が漏れる。最近は溜息ばかりしているな。



 「はぁ………」

 

 私は最近溜息が増えた気がする。その理由は自分でもわかっている。

 理由は、バレンタインだ。

 私、佐倉一華は可愛い。これは、自惚れているのではなく、客観的な感想だと考えている。アイドル活動を始めて、お客さんは熱心に応援してくれる。私を推しにしてくれる人も少なくない。自分が一番。そのくらいの自尊心が無いとアイドルは務まらない。

 だけど、私は初めて恋をして、初めてバレンタインに挑戦しようとしている。去年は友達同士で作り合ったけど、今年は違う。好きな彼に想いを込めてチョコを作る。

 しかし、ここで一つの問題が発生する。それは、私は料理が出来ない、と言う事だ。

 市販のチョコを溶かすだけ。と言う手もあるが、それは気持ちがこもっていないような気がして抵抗がある。かと言って、私がバレンタインチョコを作ろうとすると、必ず焦げたり固まらなかったりしてしまう。

 去年は二奈に手伝って貰ったが、今年は…なんとなく1人で作ってみたかった。


 「どうしよう……私1人じゃ…。やっぱり頼るしか無いのかな…?」


 1人でやるにしてもやはり無理があった。変な味を捨てて料理上手な人物に頼る事も一つの手だ。そう理解しているつもりだが、中々行動に移せていない。


 ○ ○ ○


 1月18日。

 佐倉家のキッチンからは甘い香りが漂っていた。

 1ヶ月前から準備してるのに、満足する物が作れない。私は遂に諦めて助けを求める事にした。私が知る中で一番正確な舌を持ち、一番料理上手な子。

 彼女の事を考えていると、丁度家のインターホンが鳴り、私は玄関まで出迎える。


 「お邪魔しま〜す」

 「いらっしゃい五花。ほら、寒いでしょ?上がって」


 梅里五花。親は大手食品企業の代表取締役。幼少期から徹底した英才教育を施され、本人も料理が上手い。マンションでの食事は当番制だが、五花の時はいつも美味しい。彼女の腕は日頃から彼女の料理を食べている私が保証する。

 五花をキッチンへと連れて来て状況を伝える。

 彼女は持参したエプロンをさっと身につける。その瞬間、目の色が変わり、彼女の雰囲気ががらりと変化する。まるで職人のような真面目なオーラに少し驚く。


 「それじゃあ始まるよ!一華!」

 「は、はい!五花先生!」

 

 彼女と早速チョコ作りを始める。

 やはり、私1人でやるのとでは次元が違う。見た目もいいし、美味しい。改めて五花の技術の高さに驚かされる。

 何より、彼女は楽しそうに料理をする。作っている姿が一番輝いていて、多分渡す時よりも喜んでいる。

 彼女の笑顔を見ていると心に靄がかかった感覚がした。何かが突っ掛かり、一つの質問を五花にぶつける。


 「ねぇ、五花は………真の事…好き?」

 「えっ?…どうしたの?急に。マコトっちは優しくていつも頼りになるし、大好きだよ?」


 大好き。そう言っているが、それは友達としてだ。

 さらりとはぐらかされた事に少し腹を立てる。更に私は、話題を切り込んでいく。


 「違う。異性として好きかどうか聞いてるんだけど」

 「えぇ〜?どうかな?」

 「そんな感じなの?私は好きだよ。真の事。異性として大好き」

 「………」

 

 五花は黙ってしまう。チョコを刻む音だけが聞こえる。


 「五花はどうなの?真の許嫁やってるけど、真が家出してる以上、真が私達を選ぶとは限らない。契約じゃないしね。それに、選ばれるのは1人だけ。私は真に振り向いてもらいたい。だからチョコを作るんだけど」

 「わ、私は………。…まだよくわかってないって言うか…嫌いじゃないけど、それでも、まだわからない。真のことを本当に好きとは言えない気がする」

「………まだ気がついてないみたいだし………ね。」

 「え?最後なんて言った?」

 「まだ決まってないって言ったのっ」


 五花は会話を遮るようにチョコを切り終わり、ボウルにチョコを移す。湯煎でチョコレートがゆっくりと滑らかに溶けていく。

 手こそ止めることはなかったが、表情、口調は揺らいでいるように感じた。本心なんだろう。

 五花の本心が聞けて心の引っ掛かりが消えた気がした。

 私が引っ掛かりを感じたのは、多分嫉妬心だ。私には出来ないことが出来る五花に嫉妬してたんだ。だから、そんな彼女の気持ちを確かめたくなったのかもしれない。

 ゆっくりと時間をかけて五花にチョコ作りを学ぶ。彼への想いを込めて。


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