第57話 今年も終わり
12月31日。
大晦日。特にする事もないのでテレビ特番を齧り付く様に見ている。
「今年も終わりだよ〜?マコトっち〜」
「そーだなー。もう終わりだな」
「なんもしたくないっすねー」
クリスマスが終わったと思ったらすぐに年末。本当に一瞬だ。冬休みは特に予定が無い…と言うか、去年までは門川家の親戚が集まったりして挨拶に行かされたりしていたが、家出してしまったので関係ない。今年は特に自由な年末年始が過ごせる。
キッチンでは四羽と三和と二奈が年越し蕎麦の準備を進めていた。
「…これくらいで良いかな?」
「そのくらいでいいでしょう。そろそろ茹で上がりますかね?」
「あと1分だよー」
こたつで待っている組はのんびりと年越し蕎麦を待っている。
テレビはCMに入り、ふと窓の外を眺める。すると、雪が降っているのが目に入る。
「お、雪降ってるぞ」
「えっ!本当だー!雪だー」
「今日寒いっすもんね。積もるっすかね?」
「ベランダに出てみようよ!」
こたつから飛び出した五花は窓を開けてベランダに飛び出る。それを追うように俺と一華もベランダに出て、ゆらゆらと揺れながら落ちる雪を眺める。
「綺麗だねー!明日は雪合戦だ!」
「しないよ。明日はお詣り行くんだろ?」
「そうっすよ!それにこんな寒い中で雪合戦したら風邪引くっす」
「風邪引いちゃうなら外に出ないでくれるー!?せっかく温かいお蕎麦作ったのに冷めちゃうんですけど!?」
幻想的な雪景色に見惚れていた俺たちは、部屋の中から四羽に怒られる。こたつの上には7つの蕎麦が並べられていた。
そろそろ来るはずなんだが……。そう思っていた瞬間、部屋にチャイムが鳴り響く。
三和が玄関へと向かい、1人のお客さんを連れてくる。
「こんばんわー!うぅ〜外寒いよ〜」
「いらっしゃい叶ちゃん!お蕎麦できてるから食べて温まって!」
「わぁ!ありがとうございます!お兄ちゃんは美人さんに囲まれながらお蕎麦を食べるなんて、贅沢だねー?」
「うるせぇ、良いだろ。ほら、手洗って来い」
叶はニヤリと笑いながら洗面所に行く。
あれから父とは程よい距離を保っているらしい。今日も父に、俺の家に泊まると直談判したが、思っていたような反応は無かったらしい。俺には無関心になったと言う事だろう。
とりあえず、あれから叶を縛るものも無く、楽しく過ごせているらしい。叶を…縛るものは無い。
「よし、じゃあ叶も来た事だし!いただきます!」
『『『『『『いただきまーす!』』』』』
この一年。もっと言えば半年間。色んなことがありすぎた。
半年前に突然、俺の弱みを握った5人の許嫁が出来た。最初は衝突もしたけど、気がついたら距離を詰めることができていた気がする。遊園地に行った時は皆んなの事をより深く知ることができたと思う。
夏休みは偶然リゾート地で集合してしまったりした。そこで初めて皆んなの力を借りて、困難を乗り越えた。昔の友達とも出会い、成長するきっかけになった。
その後は文化祭があって、生徒会選挙があった。結局、生徒会長の座を降りることになったが、その結果に不満はない。その結果のお陰でずっと悩んでいた父との関係をきっぱりと断ち切ることが出来た。今もこうして好きな人達と同じ空間で同じ物を口にできている。
修学旅行では、なんか…色んなことがあった。だけど、一生の思い出になる素晴らしい体験だった。
改めて時間の進む速さに驚く。一瞬だった。この半年で色んなことを経験して、色んなものが変わった。
そんな事を考えながら蕎麦を食べる。
こうして、2024年は終わりを迎えた。皆んなで歌合戦を見ながら楽しく年を越した。
○ ○ ○
2025年1月1日。
時刻は10時過ぎ。気づけば雪は止み、地面には薄く積もった雪が白い絨毯のように道を白めている。
初日の出を見事に寝過ごした俺たちは、近所にある神社に初詣に来ていた。
流石に元旦は人が多い。屋台も出ており、人でごった返した鳥居を一礼してからくぐり抜ける。
しかし、先ほどから視線を感じる。周りの人がこちらをじーっと俺達を見ている。いや、俺達じゃないな。彼女達だ。
初詣に行く為だけに朝から着替えた着物は、元々の美貌を更に輝かせる。それが5人も居るのだから、周りの人の視線を釘付けにしてしまうのも理解できる。だが、なんだかムズムズとした嫌な感覚が俺を襲う。
そんな俺に気がついたのか、叶は俺の脇腹を、つんつんっと突きながらジト目で話しかけてくる。
「あれ〜?お兄ちゃん?」
「な、なんだよ」
「もしかして嫉妬してる?そりゃそうだよね?こんなに可愛い許嫁さんが、皆んなからの視線を独り占めしてるんだから!俺の許嫁なのに、ね?」
「勝手なこと言うなっ!そ、そんな事思ってねぇよ」
「う〜ん?本当かな?」
叶は頭が良い。そして、いい意味で人の顔を伺うのが上手い。だからこそ、こう言うところに気がついてしまう。
不覚にも気持ちを当てられて、新年早々悔しい気持ちになる。
「ほら、さっさと行くぞ!」
「あ、真!待ってください!」
「私、綿飴欲しー!」
「…五花、お詣りしてからね」
長い列を並び、ようやく賽銭箱の前にやって来た。7人同時に小銭を投げ入れ、礼を2回手を2回叩いて目を瞑る。
「今年は…アイドル活動を………いや、」
「えぇっと…絵画コンクールで……やっぱり、」
「…全国大会………でも、」
「受験が成功しますように………そ、それと、」
「皆んなで楽しく過ごして………そして、」
『『『『真と結ばれますように!!!!』』』』
横一列に並んで願い事をしている。一番端にいる彼のことをうっすらと瞳を開けて、5人は横目に見る。
願い事が終わり、人混みから少し距離を置く。神社の端の方で、おみくじを一斉に開ける。
「あ!私大吉っす!」
「え?お姉ちゃんも?私もだよ?」
「…ん、私も大吉」
「私も大吉です……」
「あ、私も大吉だ!凄いね!5人皆んな大吉なんて!」
5人の恐ろしいまでに息の揃った豪運に俺は呆然とする。そんな事があるのか?
「私は吉だ〜。お兄ちゃんは?」
「ええっと………げっ、凶だ」
俺の結果に6人は笑い合う。俺だけ凶。新年早々縁起が悪い。
肩を落として短いため息をつくと、5人が俺の両手を掴んで、強引に屋台へと連れて行く。
「真は私達と居れば大吉って事っすよ!」
「そうだね!運気を分けてあげれるかも!」
「…今年もいい年になるよ!」
「ほら、落ち込んでないで楽しみましょう!」
「マコトっち!行こっ!」
5人に手を引っ張られるがまま、屋台へと向かう。
この5人の許嫁が居れば、どんな事が起きても大丈夫。そんな気がしていた。
多分。私だけだ。
皆んなは真と結ばれたいと思ってる。でも、私は違う。
後藤八重と真をくっつけようとしたけど、失敗した。まぁ、真ならこんな手に引っかからないとは思っていたけど。
私と真が結ばれる事はない。私には………結ばれる資格が無いのだから………。




