第54話 ホワイトサンタガール②
12月17日。
いつもと変わらない放課後。いつものように生徒会の仕事をこなす。
皆んなで談笑しながら生徒会室で仕事をしていると、勢いよく生徒会室の扉が開けられる。
「し、失礼します!だ、誰か一緒に来てくれませんか?」
女子生徒が険しい顔つきでそう叫ぶ。バレー部のユニフォームを着ていて顔も見た事がある。確か、夏休みのリゾートの時に協力して貰った部員の子だ。
焦っているバレー部員に白猫は静かに言葉をかける。
「まず落ち着いて下さい。入って来ていきなり要件だけ言われても困りますわ」
「あ……そ、そうですよね。私は1年3組の加藤って言います。今、体育館で女子バスケ部と女子バレー部が体育館の使用を巡って言い合いになってて!生徒会の皆さんにその場を沈めて欲しくて……」
うちの生徒会では生徒たちの悩みやいざこざを解決することも少なくない。特に、白猫が生徒会長になってからは頼られる事が多くなった。それは信頼されている証だが、逆にこう言った事にもよく巻き込まれるようになった。
「はぁ……気軽に頼るように言ったのは私ですけど、これは考えものですね………わかりました。体育館ですね?すぐに伺いますね。あなたは体育館で待っていてもらえます?」
頭を深く下げてバレー部員は体育館へと帰っていた。額に手を当てて溜息をつく白猫を見ると、去年の俺を見ているようだった。俺も生徒会長に選ばれてから苦労することも多かった。あんな風に頭を抱える事もあった。いや、毎日だったか。
「白猫さん私が行きます!」
「いえ、大丈夫です。四羽よりも適任者がいますわ。ねぇ?門川くん?」
「え?俺か?」
「ええ、生徒会選挙の時にバレー部と協力したって仰ってましたよね?それに、前生徒会長の腕前もあります。場を沈めるのは門川くんの方が得意な筈です。私は先生を呼んできますから、ね?」
こじつけな気もするが、白猫の言っている事も一理ある。前までの生徒会は俺と白猫が対応していた。この場で白猫と俺以外に場を沈める事ができる人材は居ない。でも、白猫は先生を連れてくるとか言って絶対に逃げたな。
短い溜息をついて体育館の扉を開ける。そこでは激しい言い合いが行われていた。
「あ、三和先輩!門川先輩が来てくれました!」
「…え?…あ、真!ごめんねこんな事に付き合わせちゃって」
「良いんだよ。それで?状況は?」
三和が言うには、体育館の使用面積を言い争っているらしい。反面じゃ足りないバスケ部とそれを拒否するバレー部。言い合いはどんどんとエスカレートして行き、収集が付かないと判断した三和が後輩に頼んで俺達に助けを求めたらしい。
「バスケ部は大会でも結果出してないんだから半面で十分よ!」
「はぁ!?結果出すために全面使わせろって言ってんの!逆にバレー部こそ実力あるんだから良いじゃない!」
それぞれの怒りが爆発していて入る隙がない。しかし、諦めるわけにもいかないので仕方なく間に割って入る。
「はい!そこまで!」
「か、門川くん!?丁度いいところに来た!門川くんからもなんか言ってやってよ!」
「門川くんはこっちの味方だよね!?夏の合宿の時も手伝ってあげたもんね!?」
「一旦落ち着け!双方の代表者、来てくれ。他の人は一歩下がる!」
吠えるように俺が言葉を発する。騒がしい場にようやく沈黙が訪れ、静かに両方のキャプテンが出てくる。
「バスケ部は体育館を半面じゃなくて全面にしたい。逆にバレー部は今までと同じ互いに半面を使用する事を望んでる。違いはないな?」
2人のキャプテンが俺の言葉に頷く。
この場合、バスケ部が一方的な無理を言っている。バレー部にはなんのメリットも無い。だが、ここでバスケ部をあっさりと切り捨てるのはいい判断とは言えない。振り出しに戻しても、後々面倒な事になるだけだ。バスケ部にはストレスが溜まり続けて2つの部活の関係に深い溝を作る事になりかねない。
悩んでいると、誰かにじっと見られている感覚を感じた。その方向に目をやると、バスケ部の集団の中に見慣れた顔があった。マネージャーらしきその人物と目が合い、俺は一つの案を思いつく。
「じゃあこれならどうだ?毎日の練習のうち、バスケ部は体育館を全面使う時間を設ける。バレー部はその時間はボールを使わない練習する」
バスケ部から歓声、バレー部から罵声が沸き起こる。その声を跳ね除けるように話を続ける。
「まだ続きがある!その代わり、バスケ部が全面を使って練習出来る時間はいつもの半分。残りの半分はいつもと同じ様にバレー部と半分で使う。そして、バレー部にバスケ部のマネージャーを貸す事。バレー部の練習時間を削ってるから当然だ。これでフェアじゃないか?」
バレー部にはマネージャーは居ない。俺が夏合宿の時にマネージャーの代わりをしていたのだから。
お互いのキャプテンはお互いに確認し合い、俺の提案で手を打つ事にした。そこに丁度、白猫が先生を連れてやって来た。
「あら?もう解決してしまいましたか?流石ですね門川くん」
「まあ、なんとかな」
その後、先生が場を収めてくれてなんとか問題を解決した。体育館の隅で一息ついていると1人の女子生徒が話しかけてくる。
「門川先輩、ありがとうございました!お久しぶりです」
「ああ、後藤さん。まさかこんな所で再開するなんてね。それにしてもごめんね?後藤さんを利用する様な提案しちゃって」
「いえ、この前の借りもありましたし!」
バスケ部のマネージャーは後藤さんだった。あの時、マネージャーである後藤さんを見つけてこの提案を思いついた。少しずるい気もするが、後藤さんを利用する形で場を収めた。
「いや、無理させちゃってごめん」
「いえいえ、そんな!あっ…でも、一つだけ………私も無理言ってもいいですか?」
「ああ。いいけど」
「来週のクリスマスイブ。私とデートしてくれませんか?」
「え?」
○ ○ ○
12月18日。
授業終了のチャイムが鳴り、休み時間になる。皆んなが背を伸ばしたり、友達と雑談をしている中、俺はぼーっと黒板を眺める。
そんな俺を隣に座る飯塚さんは不思議そうに見ている。
「門川くん?大丈夫?」
「…え?ああ、大丈夫だよ」
「嘘だよ。全然大丈夫じゃなさそうだよ?なにかあった?」
飯塚さんにそう言われ、俺は昨日の放課後を思い出す。
突然のデートの誘いに動揺している。何度も告白されて来た俺が。と言うか、少し怖い。こんなすぐに誘うものだろうか。悶々と底知れない彼女を考える。返事はしていないが、どうすれば良いのかわからずにいた。
「ねぇ…本当に大丈夫?」
「え……うおっ!?」
ずっとぼーっとしていた俺を心配したのか、飯塚さんが俺に詰め寄っていた。顔がすぐにあり、綺麗な茶髪の髪と長いまつ毛がより鮮明に見える。咄嗟に距離を取って後退りする。
「あ、ごめんごめん!驚かすつもりなかったんだけど、今日ずっとそんな感じだからどうしたのかな?って」
「い、いや、こっちも心配させてごめん。でも、本当に大丈夫だよ」
「そう?ならよかった」
平常心でいなければ。デートくらいで動揺してどうする。何度も告白を断って来たろ。
そう言い聞かせて小さく深呼吸をする。
しかし、真は更に動揺し、悩む事になる。
「そういえばさ〜来週クリスマスじゃん?門川くんさ、私とデートしようよ」
「へぇ?」