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許嫁ガチャは⭐︎5だらけ  作者: 我妻 ベルリ
第四章 雪のプレゼント編
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第53話 ホワイトサンタガール①

 12月2日。

 叶の結婚相手を決める父との勝負が終わり、叶のお見合い話は無事に破談となり、叶は門川家に帰って行った。気まずそうで無理に帰らなくて良いと伝えたが、「お兄ちゃんに助けられたから、今度は私の番」と言って自分の足で帰って行った。叶も成長しているのだ。いつまでも子供扱いは出来なくなっていた。

 いつもの日常が戻る。そう思っていた。

 放課後の外は冬の寒さが更に強まり、冷え切った風が顔に吹きつけられ思わず目を閉じる。コートのポケットに手を突っ込み、マフラーが顔半分を覆う。手袋を買う為に電車でそこそこ大きいショッピングモールへと向かっていた。駅からショッピングモールに向かう道に真冬の風が容赦なく吹き荒れる。

 最近の夕方は特に寒い。日が落ちるのも早いし、良いことがない。

 冬の寒さに嫌気が刺していたところに1人の女子生徒が「す、すみません!」と話しかけて来た。グレー色のさらりとした長髪。右側だけ三つ編みにしてあってたらりと右肩に垂れている。黒いダウンジャケットを着込んでいるが生脚を晒しており、上下真逆の服装に驚きを隠せない。絶対寒い。

 持っている鞄や顔つきから高校生だと言うことはわかったが、誰かはわからない。自分の記憶を必死に遡っていると、彼女はまじまじとしながら話し始める。


 「あ、あの…すみません突然声をかけて…。私、百花学園1年3組の後藤八重(ごとうやえ)と言います!門川先輩ですよね?生徒会の」

 「あ、ああ。そうだけど…。俺になんか用?」

 「その、道をお尋ねしたくて………ここら辺詳しくないんです。ショッピングモールって何処ですか?」


 後藤さんは眉をハの字にしてスマホの画面を見せて来た。画面には地図アプリが映し出されていた。どうやら本当に迷っている様だった。


 「俺も丁度ショッピングモールに行くんだ。一緒に行くか?」

 「え!?良いんですか!じゃあ、お願いします!」


 彼女はその場でぴょんと跳ねて喜ぶ。彼女は俺の後ろをペットの子犬の様についてくる。なんだかこの状況と全く同じ状況を最近経験した気がするな………。

 ショッピングモールに辿り着き、自動ドアを通った瞬間に暖房で温められた空気が2人を包み込み、寒暖差で鳥肌が立つ。暖房とは人間が生み出した発明史上、最高傑作だ。そんな馬鹿な事を本気で思っている程に2人の体は冷え切っていた。


 「じゃあ俺はここで」

 「あ、ちょっと待って!まだお礼もしてないですし…」

 「お礼なんていいよ。後輩を助けるのは当たり前だし、大したことはしてない。それじゃあまたね」

 

 そう言い残して立ち去ろうとするが、俺のことを回り込んで思いっきり両手を広げて進路を塞ぐ。

 

 「そう言うわけにはいきません!せめて何かお手伝いさせて下さい!なんでも良いので!」

 「うっ………わかったよ。それじゃあ………」


 後藤さんの誘いを断れなかった俺は、そのまま手袋を買いに店に入った。


 「どれが良いとかあるか?」

 「ん〜そうですね〜。これとかどうです?モフモフであったかいですし、見た目もかわいいです!」

 

 後藤さんが手に取ったのは白色の暖かそうな手袋だった。手首の所には小さなリボンが付いており、試着してみると、指先まで暖かかった。


 「良いなこれ。でも、少し可愛すぎないか?男がつけるには違和感が…」

 「そうですか?良いじゃないですか!男子もこのくらいかわいい方が良いですって!」

 「そ、そんなものなの…か?」

 

 疑問は残ったが、他にいいものも無かったので結局買う事にした。正直皆んながどんな手袋をつけているかわからなかったが、助かった。1人で来ていたら、軍手みたいなのを買うところだった。

 その後は、用も済んだので別れようとしたが別れづらく、そのまま後藤さんについて行く事にした。食器や調理器具を売っている店に寄った後藤さんはゴムベラや、キッチンペーパー、ボウルをささっと買って来た。買い慣れているし、普段から料理をするのだろうか。

 これで帰ろうとしたが「お茶しませんか?私が奢るので!」とカフェに誘われ、当然断れるはずもなくついて行くことにした。

 普段行っているカフェとは違い、少し狭い店内にはお年寄りや高校生がゆったりとした時間を過ごしていた。飲み物を買ってカウンター席に座る。ガラス越しにショッピングを楽しむ人達が横切って行く。


 「今日はありがとうございました!すみません…ずっと私のわがままに付き合わせてしまって…。飲み物も奢ってもらっちゃって。申し訳ないです」

 「いや、全然大丈夫だよ。後藤さんの助言がなかったら軍手みたいな手袋買ってただろうし。それに後輩に奢ってもらう先輩なんて居ないでしょ?」

 「それは居ると思いますよ?でも、何から何までありがとうございます。先輩ってやっぱ優しいですね」


 彼女は頬を少し赤らめて視線を自分の飲み物に落とす。ブラックコーヒーには彼女の赤くなった顔が映し出されていて、俺はココアを飲みながらコーヒーの水面越しに彼女の顔を覗く。

 女子なのにブラックコーヒーなんて珍しい子も居るんだな。さっきの調理器具も普段から使っているからこそ、迷いなく商品を選んでいたのだろう。店の照明に照らされた髪は銀色に輝き、天使の輪と呼ばれる光り方は、艶やかさが見るだけで伝わってくる。毎日丁寧に手入れされているのだろう。

 彼女の事を観察していると、さっきまで会話が無かったからか、無理矢理後藤さんが話しかけてくる。


 「せ、先輩は、好きな人とか………いるんですか?」

 「え?」


 あまりに唐突な質問に思わず聞き返してしまう。後藤さんも自分の発言にはっとしたらしく、急に慌てて訂正する。


 「ご、ごめんなさい!初対面なのにこんなこと聞くなんて失礼ですよね!わ、忘れてください!」

 「お、おう。俺は気にしてないよ」

 「あ、ありがとうございます。………じゃ、じゃあ。せ、先輩………連絡先…交換してくれませんか?」

 

 顔を真っ赤にさせながらぷるぷると震えた手をぐっと俺の前に突き出す。手にはスマホが握られており、画面にはQRコードが写っていた。

 距離の詰め方がだいぶおかしいとは思ったものの、断る理由もないのでそのまま了承した。


 「あ、ありがとうございます!」

 「良いよこのくらい。じゃあ、俺はこれで。後藤さんも顔つけて帰ってね」

 「はい!わかりました!」


 ぺこりと頭を下げる後藤さんの姿を見てからショッピングモールを立ち去った。外はすでに日が沈んでおり、冬の夜空には星々が浮かび、月がはっきりと見えた。暖められた体を冬の風が冷ます。



 「えへへ。やっと連絡先交換出来た…。これからよろしくお願いしますね…せ・ん・ぱ・い♪チュッ♡」


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