第50話 家出シスターと家嫌いお兄ちゃん②
父との電話が終わった後もゲームセンターを楽しんだ。UFOキャッチャーでは、何度も失敗しながら大きな熊のぬいぐるみをゲットした。ぬいぐるみを嬉しそうに抱く叶の顔は、とても嬉しそうで良い意味で子供の様だった。その顔を見るとこちらも幸せな気分になる。
ゲームセンターから帰ってきた叶は、ぬいぐるみを抱きながらこたつで寝てしまった。久々にはしゃいだんだから当然だ。夕食まで寝させてあげよう。
リビングで夕食をのんびりと待つ。今日の食事当番は三和と四羽だ。三和は…ともかく、四羽は料理上手でいつも難しい料理も簡単に作ってしまう。本人は、レシピを見て、きっちり測ってやれば料理は簡単らしい。それが難しいんだけど…。
キッチンから良い匂いが漂ってきた所で、ポケットが震える。スマホを取り出して、ホーム画面を確認するとメールが一件来ていた。父だ。
自室に戻ってからメールを確認すると、内容は叶の結婚相手(仮)の情報だった。
竹内裕介。隣の学校の一山高校の3年生。前回の全国模試で6位。顔は………なんかチャラそうな顔をしている。
しかし、成績は確かに良い。去年の全国模試、俺は12位だった。確かに頭はいい様だ。でも、父はステータスでしか人を判断しない。彼がいい人間かどうかは判断出来ない。何より、叶が嫌がっている。負けるわけには行かない。
すると、扉からノックする音が聞こえ、「お兄ちゃーん?ご飯だよー」と叶が俺の事を呼びに来た。慌ててスマホをポケットに放り込み、何事もなかった様にリビングへと向かう。
○ ○ ○
11月18日。
学校が終わり、生徒会も解散した後。放課後は先週の様に飯塚さんと勉強するつもりだったが、飯塚さんは予定があって急遽時間ができた。一度家に帰ってから夕食の買い出しに行こうとすると「私も行くよ!手伝ってあげる」と言い、叶と一緒に買い出しに行く事にした。
家から10分程離れた所にあるスーパーで買い物をする。頼まれた食材をカゴの中に入れて、レジで会計を済ませる。袋に買ったものを詰めていく。
「お兄ちゃんって変わったね」
「そうか?そんなに変わらないだろ。身長も伸びてないし」
「そうじゃなくて………なんか、生き生きしてるって言うか…。凄い家庭的だしさ」
「まあ、それは共同生活をする上でせざるを得ない事だったからな。自然と身についたかな?」
「ふぅ〜ん?」
小さい袋を持たせて、スーパーを出る。帰ろうとした瞬間に、叶の顔が一瞬で曇る。叶の視線の先には、昨日メールで確認した彼がいた。
「あ!門川叶さんですよね?はじめまして!やっと会えましたね!」
「えぇっと………はい…」
「いやー偶然ですね!こんな所で会えるなんて!」
叶は俺の後ろに隠れてひょっこりと顔を覗かせている。背中をぎゅっと握りしめて。
「ところで…あなたは?」
「門川真。叶の兄だ。貴方ですよね?叶の結婚相手になりそうな人って」
俺と彼の空気がピリつき、静かにお互いに噛みつき合う。直接的に言えば簡単だが、敢えて言わない。京都人の様に(勝手な思い込み)相手を間接的に貶す。
「あー、貴方でしたか。君のお父さん、実さんから聞いてるよ。2年生にしては勉強が得意な様だね?」
「いえいえ、先輩ほどじゃありませんよ。先輩こそ、受験勉強忙しいでしょう?模試と受験。両立出来るように頑張ってくださいね?」
「…そうだね。帰って勉強の続きをする事にするよ。それじゃあ叶さん。また今度」
そう言い残し、彼は俺たちとは反対の方向へと進んで行く。気に食わないが、実力だけなら彼の方が上だろう。俺も全力を尽くさなければ。
「お兄ちゃんって竹内さんの事知ってたの?」
「へぇ!?ま、まぁな!ほ、ほら!全国模試で名前は知ってたし!隣の学校だからな!」
「隣の学校って…学校まで知ってるの?」
「くっ!!…ま、まぁそんな事はどうでも良いだろ?ほら、早く帰ろう!な?!」
「なんで焦ってるのさ…。まぁ良いけど」
危ない。彼との勝負を知ったら、叶は、「自分のせいだ」と罪悪感を感じるかもしれない。それに、この勝負は俺が勝手にやった事だ。自分の事は自分でやる………。いや、今回ばかりは俺がやわなきゃダメなんだ。兄として、1人で。
○ ○ ○
11月26日。全国模試まであと3日。
黒板の文字が眠気で霞んで見える。目をゴシゴシと擦って、黒板に書かれた文字をノートに書き写す。
ここ最近まともに寝ていない。飯塚さんを教えた後に、皆んなと勉強会。そこから更に自分の勉強をしている。眠い。でも、まだ足りない。もっと集中して勉強しなければ。
「ねぇ………ねぇってば!」
「………ん?」
先生にバレないように小声で飯塚さんが喋りかけてくる。
「凄い眠そうだね。ちゃんと寝なよ?倒れちゃうよ?」
「大丈夫だ…まだ………倒れてないだろ?」
「うわっ………重傷者だ。倒れて時はアウトなんだよ。本気で言ってんだよ?ちゃんと休まないと。今日は教えてくれなくても良いよ?」
「いや、駄目だ。毎日の積み重ねだし、最後までやり切る………よ」
「そんな状態で言われても………」
眠気と戦いながら学校を終えて、飯塚さんと勉強した後、家に帰ってからも今日の復習をする。
しかし、こたつの中は暖かくて気持ちいい。段々と………意識が………。
そのまま真は眠りについてしまった。死んだように深い眠りに就く。