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許嫁ガチャは⭐︎5だらけ  作者: 我妻 ベルリ
第四章 雪のプレゼント編
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第45話 思いもボールも直球で!③

 試合開始のホイッスルが鳴り響き、ドリブルで相手陣地に乗り込む。前から2人が立ち塞がるが、左にいる古谷にパスを出す。

 抜き去った瞬間に周りから歓声が上がる。古谷とワンツーで更にゴールに切り込んでいく。ゴール目の前、キーパーを目の前で右脚を大きく振りかぶりシュートモーションに入った。その瞬間、足元にあったボールが消えた。いや、正確に言い表せば奪われた。


 「よしっ!すぐに行くぞ!」


 梶谷が華麗にボールを奪い取り、一瞬で立場が逆転する。すぐに追いかけるが、既に追いつかない速度で梶谷は走り出していた。流れる様なパス繋ぎから、常人離れしたドリブル技術で一気に人を抜き去ってそのままゴールネットを揺らす。

 周りからは歓声と野次が飛び交い、俺と古谷は梶谷の喜ぶ背中を眺める事しか出来なかった。

 この感覚はさっき味わった。三和と一華の試合は、やっていない観客ですら実力差があり過ぎている事を理解出来た。その感覚だ。少し運動が出来る位ではどうやっても勝てない。

 1-0で前半戦が終わり、なんとか一点差にしたが、正直勝てる気はしない。気づけば観客は結果を理解して退屈そうにしている。クラスの皆んなでさえ諦めた様な表情を浮かべている。全員の顔に(もや)がかかり、モチベーションも下がり切っている。

 しかし、その中でも自分を応援し続ける五つの視線と声があった。


 「マコトっちー!頑張ってー!」

 「まだ負けてないっすよー!弱気になっちゃダメっす!」

 「真、頑張って…!」

 「先輩なら大丈夫ですよ。信じてましょう!」

 「…うん。…結果がどうであれ、真は諦めない」


 大声で応援していたり、祈る様にしてたりなど、方法は違えど俺の許嫁は諦めずに信じてくれていた。それがわかった瞬間に折れかかった自信がもう一度蘇る。まるで、倒れそうになった背中に5本の腕が支えてくれているかの様に、どうしようもない安心感が湧き上がる。

 心の中で覚悟を決めて、蛇口から流れる水道水をがぶ飲みする古谷に歩み寄る。


 「なぁ、古谷ちょっと良いか?」

 「え?なんだよ…」


 後半戦のホイッスルが鳴り、梶谷がトップスピードでこちらに向かってくる。梶谷の周りにはベストポジションで動き続けるクラスメイト、完璧なボールタッチで自陣に攻め込んでくる姿は、宛ら日本代表選手だ。

 しかし、相手は同じ学校に通う高校生だ。梶谷に古谷を含めた5人が突っ込む。


 「なっ!?」

 「おりゃー!門川!行けっ!」


 一気に5人から来られたら流石に対応出来ない。戦力の半分を梶谷を封じる事に使う。普通の部活動ならあり得ない戦術だろう。だが、これは球技祭だ。梶谷を失ったチームは徐々に崩壊していく。その隙をたった1人で突破して行く。皆んなの信頼を背負って敵陣を相手を交わしながら突き進む。

 ゴールまで残り30m。そこで横からのスライディングで、ドリブルしていた筈の目の前にあったボールが宙に舞う。


 「なっ…!?」


 その場に居た選手と観客は高く上がるボールを追う様に上を見上げる。そのボールは弧を描いて徐々にスピードを上げて落ちて行く。落ちる場所は観客席だ。落ちる場所を見ると、見慣れた5人が居る。

 誰かが「危ないっ!」と吠える。5人は動けずにただボールを見ていることしか出来ない。ボールが彼女達に落ちる。5人は、落ちて来る恐怖に耐えられずに目を瞑る。

 ドォンッ。

 ボールと何が強く当たる音が聞こえる。彼女達が目をゆっくり開けると、宙に浮かぶ真の姿が見えた。

 彼女達に当たるよりも速く駆けつけ、その勢いのまま強く地面を踏み込み、飛び上がる。オーバーヘッドで左脚を振り上げてボールを空に弾き飛ばす。飛ばされたボールはゴール前に飛んで行く。そこに古谷が走り込み、落ちて来るボールに右脚を合わせてゴールネットを揺らす。

 全方向から歓声が湧き上がる。しかし、ぼんやりとしか聞こえない。オーバーヘッドの後、地面に激しく倒れ込んでしまい、目が開けられない。

 段々と意識がはっきりして来て、瞼をぱちぱちと瞬きさせてようやく視界が戻る。


 「先輩!?大丈夫ですか!?」

 「…真?!…自分の事覚えてる?わ、私の名前は?」

 「大丈夫だよ。自分の事も三和の事もわかるよ」

 「はぁ〜本当に心配したっすよ」

 「もう、マコトっち無理しすぎだよ!」

 「本当です。怖かったんですから!」


 5人の安堵の表情と少し震えた声が、体の痛みを少しだけ和らげた気がした。


 ○ ○ ○


 放課後になり、辺りを静寂が包み込む。

 試合の途中で俺は保健室へと運ばれ、白いベットで休んでいた。廊下からは生徒の声が微かに聞こえ、1人取り残された孤独感を感じる。

 ぼーっと保健室の年季の入った天井を見上げていると、ベットを囲むカーテンが、シャラシャラと音を立てて開けられる。


 「真?体調は大丈夫っすか?ホームルーム終わったっす。帰るっすよ」

 「どうですか?気分は悪かったりしませんか?」

 「いや、大丈夫だ。あの時少しだけ目眩がしただけなんだよ。大した事ない…むっ!?」

 「…それでも休んでなきゃダメだよ」


 俺の言葉を遮る様に三和が人差し指で口元を抑える。そこで冷静に考えると、心配してくれている相手に「平気だ」と言うのは間違いな気がして来た。出かけた言葉を飲み込み、違う言葉を5人にかける。


 「心配かけたよ…心配してくれてありがとう」

 「はい!こちらこそ、助けてくれてありがとうございます!」


 保健室の小さなベットの中で球技祭の結末をの話を聞く。

 俺が抜けた後、試合は負けてしまったらしい。しかし、俺と古谷のスーパープレーは今日のMVPに選ばれたらしい。表彰されなかったけど…。

 保健室で談笑していると、ガラガラと扉が開かれる。


 「!?だ、誰か入って来たよ!?」

 「と、とりあえず隠れるっす!」

 「…は、早く!」


 5人は隣のベットに移り、カーテンで姿を隠した。

 現れたのは古谷だった。


 「よぉ門川!お前のおかげでMVPだってよ!本当にありがとうな!」

 「あ、ああ。それは…良かったよ…」

 「にしても、あんなに足が早かったなら最初から言ってくれよな」

 「え?なんのことだ?」


 ぽかんとした顔をした俺を見て、古谷は眉を顰めた。


 「だって、あそこに居た女子を助けた時だけめちゃくちゃ速かったぞ?あの子たちの前だけ覚醒したみたいに…」

 「!?」

 「〜っ!!??」


 古谷の言葉を聞いた瞬間にあの時の事を思い出す。5人が危なかったから咄嗟に動いたんだ。それを近く瞬間に顔が熱くなるのを感じだ。

 カーテンの向こうからも驚いた様な声が漏れ聞こえた。顔は見えなくても、皆んなの表情が容易く想像できた。


 「ん?隣にも誰か居んのか…?」

 「な、なぁ!俺の荷物を持って来てくれないか!?悪いけど、もうちょい寝ておきたくて!」

 「そうか!わかった、ちょっと待ってろ」


 そう言うと古谷は小走りで保健室を出て行った。

 荷物を受け取った後、顔を真っ赤にさせながら6人で帰った。


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