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許嫁ガチャは⭐︎5だらけ  作者: 我妻 ベルリ
第四章 雪のプレゼント編
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第44話 思いもボールも直球で!②

 午前の部が始まって2時間が経った。体育館ではボールが地面に激しく打ちつけられ、靴のキュッと言う音が四方八方から聞こえてくる。どちらかのクラスの得点が入るたびに女子も男子も声を上げる。

 環境席でぼーっと試合を眺めていると、青木が後ろから声を掛けてきた。


 「よお、真のクラスはどうだった?」

 「初戦敗退だったよ。青木のクラスは…三和が居るからな」


 球技祭はトーナメント制で、青木のクラスは、全国大会常連のバレー部キャプテンである三和が無双状態だった。

 時間はあっという間に過ぎ去り、次の試合が決勝戦だ。残っていたクラスは三和のクラスと一華のクラスだった。


 「やっぱり決勝は白百合さんのクラスか……よし!頑張ろうね!佐倉さん!」

 「え?そ、そうっすね!頑張るっす!」


 しかし、一華の視線は2回の観客席に向けられていた。

 ここでアピール出来れば…でも、相手は三和。バレーボールで勝てるわけないか…。

 浅いため息を吐いてから円陣を組んだ。


 「やっぱり白百合さん凄いよ!このまま優勝しちゃおう!」

 「………。…え?ごめん聞いてなかった」

 「いや、このまま頑張ろうって…大丈夫?調子とか悪い?ぼーっとしてたから」

 「…ううん!大丈夫。…私に任せて、全部決めるから」


 三和の視線も観客席に向けられていた。

 このままアピールする。そうすれば…。一華には悪いけど、このまま勝たせてもらう。


 辺りが一気に静寂に包まれる。コートに緊張が走り、腰を下ろして構える。試合開始の笛が鳴ったその瞬間…「バァァン」。破裂音の様な音が体育館に響き渡る。辺りは静まり返り、一華のクラスは誰も動けずに居た。三和の放ったサーブは、笛が鳴った瞬間に相手のコートに叩き込まれた。誰も反応出来ない速度で。この場にいた全員が高校女子バレーの頂点を実感する事になった。観客席から歓声ではなく、その圧倒的な実力に、ざわざわと、どよめいていた。


 「や、やべぇな。人ってあんな速度でボールを打てるんだな…」

 「ああ。三和ってやっぱり凄いんだな…」


 普段はクールで、時々女の子らしい可愛らしい三和とはまるで別人だ。真剣な三和を初めて見た気がする。


 「ええ〜…あれ誰が止められるのよ」

 「ちょっとあれは別次元過ぎないっすか?」


 コートに立つと、三和の姿が更に大きく見える。ボールの軌道すら見えない。これが選手と一般人の違いなのだろう。

 アピールしようなんて考えが甘かった。ここは大人しく諦めて…


 笛がなり、もう一度三和がサーブを打つ体制に入る。高く上げたボールにあわせて助走し、地面を強く踏み込んで飛び上がる。美しいフォームから高速のサーブが放たれる。

 しかし、そのサーブはコートの外側に落ち、アウトになった。


 「…ねぇ、一華」

 「え?」


 サーブを打ち終わって、一華のクラスのサーブを準備していた試合のちょっとした時間に、ネット越しに三和が話しかけてきた。


 「…私、手抜かないから。…一華も抜かないで。…私、真にアピールするから」

 「………!」


 三和はわざわざそれだけを言う為に。

 そうだ。勝ち負けじゃない。全力で頑張ってる姿を見てもらいたい!真に私を見てもらいたい!


 「皆んな、ちょっと集合してくれるっすか?」


 一華のクラスはもう一度円陣を組んだ。その姿を見て三和もどこか嬉しそうな表情をしていた。

 一華のクラスの放ったサーブは簡単に拾われ、三和のスパイクに繋がる。その瞬間、前にいた一華と二人の女子が三和の跳躍に合わせて飛び上がる。両手を上げてまるで壁の様に三和の前で飛び上がり、一華の腕にスパイクにが当たり、ボールが弾かれた。


 「…!?」

 「きゃっ!!」


 一華の決死のブロックで三和のスパイクを弾いた。まさに奇跡と言えるブロックは、体育館中が歓声に包まれる。


 「〜っ!!痛ったぁ……でも、これで真は少しくらい私を見てくれたっすよね?」

 「…私も、負けないから」


 2人は観客席を見つめる。そこに居た男子が「俺を見てるぞ!?」や、「いいや、俺の事を見てくれてるだ!」と軽い言い合いが起きている。俺はその視線が完全に自分に向けられているものだと気づき、苦笑いを浮かべた。


 「お姉ちゃん凄いですね!」

 「うおっ!二奈か…お疲れ様」

 「私達もいますよ。それにしても盛り上がってますね」

 「一華ってあんなに運動できたんだね。私達知らなかったよ」


 体育館中が盛り上がるなか、試合場の2人はばちばちと火花を散らしていた。その後もバレー部キャプテンに果敢に攻めて行き、試合結果は…。


 「いやーボロ負けっすね。まだ手が痛いっすよ」


 一華のクラスはあの一点だけしか取れず、負けてしまった。一華のクラスが弱いと言うより三和が強すぎたのだ。


 「ても、お姉ちゃん凄かったよ!見直しちゃった!」

 「そうですね。あれはかっこよかったです!」

 「うん!一華は凄いよ!」

 「…ねぇ私、一応優勝してるんだけど…」


 一華だけが誉められていた三和は頬をぷくっと膨らませて拗ねてしまう。二奈が慰めようと、三和の頭を撫でようとしてプルプルと震えながら背伸びをする。それに気づいた三和は少し屈んで二奈に頭を差し出す。満足そうに頭をよしよしされる三和と二奈の姿はまるで親子だった。

 体育館から人がずらずらと流れ出ていく。そして、皆んなはそのままグラウンドに向かう。午後の男子のサッカーを応援しに行く為だ。


 「真は大丈夫なんですかね?運動できるとは言っても、相手にはサッカー部の子もいるんですよね?」


 百花学園のサッカー部も女子バレー部程では無いが、地区大会では毎年優勝し、地方大会でも結果を残す程の実力がある。毎日練習している部員と、運動量ゼロの生徒会では、話にならないのではないか。四羽はそのことを心配していた。しかし、その心配は必要なかった。グラウンドの周りを観客がぐるっと囲っており、騒がしい中に放送部のアナウンスがグラウンドに響き渡る。


 「さぁ!次の試合が最後の試合です!2年5組と2年1組の試合!1組の門川くんは、これまで15得点と言うサッカー部顔負けの戦績を誇っています!」


 「マ、マコトっち……め、めちゃくちゃ勝ってんね」

 「そ、そうですね。心配は無用だった様です。本当に運動できたんですね…」

 「…あ、あそこに真が居る」


 試合前に軽い準備運動をしている真を見つけた。手首をぶらぶらとほぐしながら、首を回している姿はまるでプロ選手を彷彿とさせる気迫を放っていた。ただの準備運動している姿に、5人は目が離せないでいた。

 相手は、サッカー部のエースの梶谷(かじたに)と言う生徒を中心に勝ち上がって来たクラス。そう簡単には勝てない。

 それぞれのポジションに着き、キックオフの笛が鳴る。


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