第42話 紅葉狩り〜終戦〜
「…真、話があるんだけど…」
柱の影から2人を見つめる。見つめ合う2人はお似合いなのかもしれない。
けど、やっぱり………。
あの花火大会の夜から真への気持ちが変わった。これを恋というのかはわからない。でも、一華の話を聞いた時に「嫌だ」と思った。真が誰かのものになるのが嫌だった。それが恋なの?私にはわからなかった。
今、目の前の2人の姿を見ていると嫌な感情が湧き上がってくる。やっぱり嫌だ。見るのが辛くて目を瞑る。
「…あのね、真を知れて本当に良かった。…あの勉強会の時に言われた言葉が…私、本当に嬉しかったんだよ?」
「そうだったのか。特に気してなかったんだが…」
「…だと思った。…けど、私にとってあの言葉は私の全てを受け止めてもらった様な気がしたんだ…」
今もあの時の様な温かいものが胸の奥から溢れ出てくる。
「…だから真!…本当に感謝してる。…ありがとう」
「いいや、こちらこそだよ。俺も、皆んながいなかったらこんな風に家出して、誰かと遊んだりしてなかった。本当にありがとう」
「え?」
「あれ?」
「それだけ?」
陰で見守る3人は目を丸くしていた。告白だと思い込んでいた3人は予想外の告白に動揺しまくっていた。
「なんすかそれ!そんな告白しないっすよ!」
「こんなロマンチックな場所で「ありがとう」!?もしかしてジンクスのこと知らないんじゃ…」
「よ、良かった〜」
本音を漏らした五花を一華と四羽が見つめる。
「あ!いや、その…これはなんというか………」
「確かに私もそう思ったっす。」
「じ、実は私も心の中では安心してました」
2人の本音を聞いてお互いに笑い合う。2人の姿少し眺めた後に3人はその場を立ち去る。
気が付けば日は沈んでおり、空は幻想的なグラデーションに染まっており、星々が輝き始めていた。
「これからは、ライバルだね」
ぽつりと五花が独り言を漏らす。
薄暗くなった道を店の明かり、街灯が照らす。
「そうっすね。恋敵っす」
「ふふ、私は容赦しませんからね?」
京都の街を3人は歩いて帰る。まだ勝負は始まったばかりだ。
○ ○ ○
10月31日。修学旅行最終日。
最後の日は午前中に京都駅でお土産を買う時間が与えられ、それが終われば直ぐに新幹線に乗って帰ってしまう。
結局班の皆んなとは回ることができなかった。その事を誤ったが、青木や南条は白猫と班を共にしていたらしく、京都を満喫していた様で安心した。
京都駅でお土産屋を見て回ったが、昨日の産寧坂でお土産はたくさん買ったので特に何かを買う事もなく京都駅をぶらぶらと見て歩いていた。
その時、ポケットが振動する。スマホを取り出してみると五花からメールが届いていた。内容は「大階段で待ってる」としか書かれていなかった。
「あ、マコトっち遅いよー」
「3分しか経ってないだろ…。それで?なんの様だ?」
階段に着くと、そこには4人が集まっていた。三和は困惑した表情を浮かべていた。どうやら、事情がわかっていないのは、三和と俺だけの様だ。
「2人はこれを渡そうとしてたんだよね?その機会を邪魔しちゃったから…きちんと時間を取ろうと思って…。」
五花の手には、三和と買ったお守りがあった。鹿の模様が書かれたお守り。奈良公園の売店で買ったものだった。
「…なんでここに?」
「私達が持ってたんだよ。改めてごめん三和。そして、はいっ」
五花はお守りを5人にお守りを配る。一人一人色は違うが、皆んな同じのお守り。
「じゃあ、これを二奈に渡しに行かなきゃな!」
「そうっすね。1人で寂しそうにしてるはずっす。」
「…うん、京都のお土産あげなきゃ」
「それに、お話もしてあげなきゃですしね」
「じゃあ帰ろっか!」
駅のホーム。先生の案内で新幹線に乗り込む。お土産でいっぱいの鞄を持って席に着くと、窓からは何度見ても綺麗な京都の街があった。
そこで思い出した。あれは小学6年生の家族旅行だ。あの時、家族絡みで仲が良かった別の家族と旅行に来ていたんだ。あれは………一体………。
新幹線が動き出すと同時に眠気が一気に襲って気づけば眠っていた。
修学旅行は無事に終わった。しかし、許嫁と真の物語はまだまだ続いて行く。
○ ○ ○
2029年6月29日。
式場に着いて、すぐに更衣室へと向かう。用意された白いタキシードに着替え終わった後、スマホのアルバムを見ていた。
高校生時代の写真を振り返るとあの時の楽しかった日常が色を取り戻して蘇る。修学旅行の時の事は色々ありすぎて今でも稀に夢を見る。あの後、マンションに戻って、叶も読んで京都のお土産話を沢山したんだ。二奈にお守りを渡して、叶にもお土産を渡したら、あの2人は子供の様にはしゃいでいた。
本当に懐かしい。あの時は本当に5人の中から誰かを選ぶなんて考えていなかった。あの時は…
思い出を振り返っていると、ドアをノックする音が部屋に響く。
「新郎様。新婦様がお呼びでございます」