第41話 紅葉狩り〜恋に飛び降りる〜
「…真、見てこれ。ハンドクリームなんだけど八ツ橋の匂いだって」
「なんか甘そうだな…」
夕焼けに染まる産寧坂を2人で、気になる店を片っ端から回って行く。八ツ橋を買ったり、お揃いのキーホルダーを買ったりして歩く。
横を歩く三和はさっきからずっと楽しそうだ。髪は照らされて艷がかっており、俺より高い身長と整った顔立ちは、まるでファッション雑誌の表紙を飾るトップモデルの様だった。そんな姿を見つめていると、三和がこちらに気がつきぽっと顔を赤らめる。
「…な、何?…ちょっとはしゃぎ過ぎかな?」
「いや、そんな事ないよ。せっかくの修学旅行だしもっと楽しんで良いんじゃないか?」
「…そうだね、うん!そうする!」
三和の柔らかい笑顔が咲く。桃色に染まった頬といつもは見せないその顔を見るだけで、こっちも顔が熱ってくる。
2人がデートをしているところを物陰からじっと3人が見つめていた。
「ちょっと!近づきすぎじゃないっすか!?」
「一華!声が大きいです!もっと静かに!」
「ねぇ…2人ともうるさいよ?」
一華と四羽と五花は、2人のデート姿をそっと見守る。少し前の事…。
○ ○ ○
「ちょっとそこのお姉さん、私達とお茶しないっすかー?」
「え!?一華…なんでここに…?」
「あはは…ちょっと良いですか?」
トイレから出てきた五花を、待ち伏せていた一華と四羽が捕まえる。困惑した五花に事の経緯を説明する。
「はぁ…幸せな時間も、もう終わりって事か〜」
「そう言う事っす。五花…その…ごめん。五花を利用としてた。本当にごめん」
「私も自分の事しか考えてませんでした。ごめんなさい」
「………私も人の事言えないよ。こんな事してごめん。…独り占めしようとしてごめん。本当に…ごめんね…。」
五花は頭を下げて暗い表情をしている。顔を上げると2人と目があってくすっと笑い合う。初めてぶつかり合った気がする。なんだか、深い関係になれた気がして少し嬉しかった。
「それで?私達はこの後何をするの?」
「それは…あの2人を二人きりにさせてあげませんか?ここまで振り回してしまったんです。三和も楽しんで欲しいんです」
「清水寺は三和に行ってもらいたいんす。これ以上はダメなんすよ。五花もわかるっすよね」
私は小さく顔を縦に振る。真がとられるのは、なんか嫌だ。でも、それは大切な人を傷つけてまでやる事じゃない。
それに、修学旅行のジンクスは所詮噂話だ。告白されても、その2人がくっつくとは決まってない。
でも………。やっぱり、心の隅でもやもやとした感情が蠢く。
「わかった。今日は、2人を応援するよ。罪滅ぼしさせてほしいしね」
○ ○ ○
こうして、2人のデートを見守る事にした。
けど、提案した2人が1番うるさい。
うるさい2人を宥めながら2人の後を追って行く。産寧坂を抜けて、清水寺に向かって行った。これで良いのに。これで良いのに、心がぐっと握られた様に苦しくなる。
「…真、清水寺って来たことあるの?」
「あ〜あ。どうだったからな。でも、うっすらと来たような記憶があるんだよな。あれは…小学生だったか?あんまり覚えてないんだ。」
「…小学校でも修学旅行行ったのかな?…私は初めてなんだ。…ずっと来たかったの」
石段を話しながらゆっくりと登って行く。階段を上がった先に見えた景色は、金と朱色に染まった世界だった。全ての葉が鮮やかに染まっており、その葉を夕焼けが照らして更に輝かせる。
目の前に広がる美しい景色に2人は言葉を失う程にその景色に見入る。
「す、凄いな。こんなに綺麗だなんて……」
「…うん。…想像以上だったね…」
彼の横顔を見る。夕焼けで半分照らされ、こちら側からでは影で暗くなった横顔しか見れない。
でも、その横顔は、この紅葉の景色よりも目を奪われるものだった。彼の目は真っ直ぐで、目の中には紅葉が映り込んでいる。私は、彼の目の中にある紅葉を眺める。
段々周りの観光客の騒がしい声よりも、自分の心臓の音の方が大きくなる。
どくんと脈打つたびに、彼しか見えなくなる。恋は盲目と言うがまさにその通りだ。既に紅葉はどうでも良くなっていた。
「清水の舞台から飛び降りる」と言う言葉がある。思い切った決断をすると言う意味があるらしい。既に私は落ちてしまっているんだ。
「…真、話があるんだけど………」