第37話 紅葉狩り〜お稲荷さんの神隠し〜
「おおー!すげー!」
「…本当に金色に光ってる!」
「そりゃ金閣寺だからな」
「………凄い」
な!?南条が反応を示した!?
内心驚きながらスマホで金閣寺を画角に収める。やはり画面の中で見るのと、実際に見るのとでは違う。太陽の光が金閣寺を神々しく照らしている。
「…凄いね真!…こんなに綺麗だなんて」
「ああ。最早眩しいな」
「なあ!あの人に写真撮ってもらおうぜ!」
青木は散歩していたお爺さんにスマホを手渡し、こちらに走ってくる。お爺さんの掛け声に合わせて口角を上げてポーズをとる。
「ありがとうございました!どれどれ?…ぷっ!真目瞑ってんじゃん!」
「え!嘘だろ」
「…本当だ。真だけ目瞑ってる。…変な顔」
俺の顔を見て2人が笑う。少しの恥ずかしさと面白さで笑いながら頭をぼりぼりと掻く。
「…もう少しですね…しっかりと役目を果たさなければ」
○ ○ ○
枯山水。水の無いところで岩や石を使って水の流れを表現する日本の庭園だ。龍安寺の枯山水は、かの有名なスティーブ・ジョブズも景色を眺めながら瞑想してたと言う。
金閣寺を堪能した後、龍安寺へとやって来た。京都と言ったらここの風景を思い浮かべる人もいるだろう。
「…静かで良い場所だね、真」
「そうだな…居心地良いな」
「そうか?俺にとっちゃ静か過ぎて嫌だけどな…」
4人で龍安寺の縁側の様な場所に腰掛けて、静かな時を過ごす。朗らかな日差しが4人の身体を温めて、段々と眠気がゆっくりと瞼を重くする。
「……眠くなってきた」
「確かに。そろそろ行くか。青木ー行くぞー?」
「………ぐぅ」
ほぼ90度に曲がった頭で顔は見えないが、青木の寝息が聞こえてくる。
「…寝ちゃったみたいだね」
「あの短時間で…南条、置いて行こうぜ。…南条?」
「………すぅ」
南条は目を開けながら寝ている。こんな人間初めて見た。2人で笑いを堪えながら2人の姿をカメラに収める。
○ ○ ○
龍安寺の次は伏見稲荷神社にやってきた。千本鳥居は周りの景色を遮断し、辺りを朱色に染める。まるで別世界に迷い込んだかの様に不思議な世界が広がっている。
「ずげーな。この先全部鳥居だぜ?」
「なんか不思議な感じだな」
朱色のトンネルを潜り抜けると、看板が立っており、山頂までは2つのルートに分岐するらしい。
「右と左のルート。真はどっちにする?」
「うーん。それじゃあ右かな」
「なら、私も」
『『『え???』』』
突然の南条の発言に全員驚くと言うより、最早怖い。さっきまでずっと静かだった。何処を回るか計画を立てる時も「皆さんの行きたいところで」としか言わなかった南条が、急に自分から選択をした。
全員が戸惑っていたが、俺はチャンスだと思ってそれを了承する。
「せっかく南条が選んでくれたんだ。良いよな?」
「おう、俺は良いぞ」
「…うん。…私も大丈夫だよ」
「ありがとうございます」
南条はロボットの様なお辞儀をして右のルートに進み始めた。
「三和、後でな。予定通りで大丈夫なんだろ?」
「…うん。まあ、仕方ないよ。…それじゃあ予定通りで」
三和との約束を確認してから南条を追いかけて右のルートに入る。
また朱色の世界に包まれ、目の前を歩く南条の背中を追う。
「なあ、どうして俺を選んだんだ?」
「特に理由はありません。駄目でしたか?」
「いや、ダメじゃないんだが、単純にどうしてかなって。今までは遠慮気味って言うか…自分から意見を言ったのは初めてだったから」
「…そうですね。普段は私も、もう少し我儘かも知れません」
普段は?1人で居る時と、みんながいる時では違うと言うことか。確かに南条は周りの事がよく見えていて頼りになる。でも、それは他人に気を使い過ぎてしまうのかもしれない。
一段一段踏み締めて登っていく。南条は相変わらず1人で歩いて行ってしまう。前だけをみて歩く。そのせいだ。前ばかり見ていたから、鳥居の影に隠れていた彼女の存在に気がつかなかった。
「ふぅ…。三和さん達はまだみたいですね。計画通りですね。さ、門川くん。あなたを待っている人が………。え?門川くん?」
後ろを振り向くと、そこに居たはずの門川くんの姿は無かった。さっきまで居たはずなのに………。
「ちょっと!そんな勢いで降りたら危ないだろ!?五花!」
「もうちょっとだから!早く早く!」
鳥居から急に五花が飛び出し、そのまま手を引かれて来た道を駆け降りる。訳がわからないまま1番下まで降り、膝に手をついて息を整える。ばくばくと心臓が高鳴り、空気を思いっきり吸い込む。
突然の事で理解が追いつかない。五花の行動にただ混乱する。
「ごめんね。でも、こうするしかないんだ。さあ、私について来て貰うよ」
「どうしたんだよ。急に走り出すし訳わかんないぞ?上で三和が待ってるし、戻ろうぜ?」
「ごめん。戻れない。こっちに来てよ…お願い真」
五花の真剣な眼差しが俺の事を見つめる。こんなに真面目にお願いをされたのは真面目でだった。何か重要な事がある。そう感じさせた。
「わかったよ。少しだけだぞ?その前に、皆んなに連絡を……あれ?スマホが無い…」
「え?じゃ、じゃあ私が連絡しといてあげるよ」
「お、おう。頼むよ」
五花はスマホを取り出して一華にメールを一件だけ送る
「ごめん。約束は守れそうに無い。私は………真が好き。」
一華に送られたメールはこれだけだった。