第32話 紅葉狩り〜出陣?〜
更衣室の誤解を解き、店を後にする。俺と三和は顔を真っ赤にさせながら俯いて歩いている。時計を見ると丁度お昼だったので、皆んなでフードコートに行く事にした。フードコートは日曜日と言うこともあって賑わっており、どのお店にも行列が出来ていた。席を確保した後、それぞれ食べたい物を選んでいた。
「お姉ちゃん、ハンバーガーにしない?」
「そうっすね。じゃあ買ってくるっす」
「じゃあ私はラーメンにします!」
「あ、私もー!」
そう言って4人は席を立ってしまう。残された三和と俺は沈黙が続く。気まずい雰囲気の中、勇気を振り絞ってご飯を誘う。
「み、三和?何か食べたいものは…ないのか?」
「………お肉」
三和はすぐそこにある牛丼屋を指さしていた。人気なのか、凄い行列になっていた。
「じゃあ、買ってくるよ!」
「…ううん、私も行く。」
荷物を置き、2人で行列に並ぶ。沈黙を何とかしようと無理矢理会話を続ける。
しかし、全く続かない。やはり先程の更衣室の事故が三和との距離を空けている。
「な、なあ三和。さっきはすまなかった。じ、事故だったんだ!け、決してやましい理由では…」
「…ううん、良いの。…別に怒ってるわけじゃないから。…ちょっとドキドキしただけ……」
三和はもじもじと体を捩り頬を紅く染める。そんな姿にこっちもドキドキしてしまう。
「そ、そうなのか。それなら……良かったよ」
「…でも、どうしたの?あんなに慌てて」
「それは…」
「次のお客様ー?ご注文お決まりですか?」
更衣室で起きた事を話そうとした時、店員さんから話しかけられ会話が途切れてしまう。牛丼のプレートをそれぞれ持って皆んなの居るテーブルに向かう。
この5人の中の誰かと中学生の時に会っていた。あの時は人との関わりを嫌い、避け続けていた。その為、人の事をよく覚えてない。もし、その時に傷つけていたとすれば、俺の事を恨んでいてもおかしく無い。その人を見つけなければこの5人との関係も崩れてしまう。
席についた後、一つの質問を5人にしてみる。
「なあ。俺達は同じ中学校だろ?この中で十花学園中学校の時に俺と写真とか撮ってないか?」
百花学園は十花中学から上がってきた生徒が殆どだ。この5人もそうだろう。写真を見せて貰えば割り出せるはずだ。俺の言葉に5人は困惑した顔をしている。
「ええっと?真?私達は全員違う学校っすよ?真の中学校には行った事ないっす」
「………ええ?」
「お姉ちゃんも私も百花学園に推薦で入りました」
「…私も違う中学。スポーツ推薦で入ってきた。」
「私は一般入試で入りましたよ?」
「私もー!」
5人の反応を見るに嘘はついていない。予想外の反応に空いた口が塞がらない。予想では同じ中学校だと思っていた。でも、違った。なら、いつ出会っているんだ?頭の上に疑問符が浮かぶ。
「…真はさっきからどうしたの?…さっきのお店からなんかおかしいよ?」
「い、いや!何でも無い!さ、さあ食べようぜ!」
「は、はい…そうですね」
「四羽ー!それ一口ちょーだい!」
「………」
皆んなが楽しく昼食をとっている中、俺だけぽつんと取り残された様に座る。問題が解決せずモヤモヤとした中、ショッピングモールでの買い物を続けた。
○ ○ ○
10月29日。修学旅行当日。ショッピングモールでの疑問を抱えたまま俺は学校へと向かう準備をしていた。
「先輩!しおり忘れてますよ?」
「お、サンキュー」
「五花!いつまで寝ぼけてるんですか?荷物持って行きますよ!」
「眠いー」
「じゃあ行くっす!二奈、寂しくなったら電話していいっすよ?」
「…うん。お土産も一杯買ってくる」
「はい!楽しみにしてます!じゃあ皆さん!行ってらっしゃい!」
玄関で二奈に見送られて、学校へと向かう。学校からバスで東京駅へと向かい、京都まで新幹線で行く。学校までの通学路で既に皆んなわくわくとしている。
学校に着くとクラスごとにバスに乗り東京駅へと出発する。窓から見る朝の都会は少し新鮮な景色だった。東京駅を降りた後、新幹線乗り場まで移動する。その途中で外国人に話しかけられている三和と五花を見つけた。明らかに会話が出来ていない。三和と五花と言う勉強苦手組じゃ不安だ。2人の元に駆け寄り英語で会話する。
「大丈夫か?」
「…真!この人が観光しにきたっぽいんだけど、なんて言ってるかわからなくて…」
「は、ハロー?す、ステーション?」
「わかった。俺が何とかしよう」
外国人を会話していると、一華と四羽も俺たちに気づいて手伝ってくれた。全員で何とか外国人を案内することができ、皆んなで安心した溜息をはく。
「今の人救えて良かったね!」
「そうですね。真の英語力に助けられました」
「…うん。五花と2人だったら間に合ってなかった」
「そんな事ない。一華が乗り場を案内してくれて、四羽が会話をサポートしてくれて、三和と五花が荷物を持ってくれなきゃ間に合わなかった。皆んなで協力したお陰だ」
こうやって協力できる様になったのも5人のお陰だ。家出しても何とかやっていけている。修学旅行も一生の思い出にしてみせる。
そう意気込んだ瞬間に五花から、耳を疑う言葉が聞こえてくる。
「あ!私たちが乗る新幹線だ!」
「え?」
五花が指差した方向を見ると、向かいのホームに停まっていた新幹線がアナウンスと共に、京都に向かって走り始めた。
5人で乗るはずだった新幹線をぼーっと立ち尽くして見送る。やってしまった。
意気込んだのに、これじゃ修学旅行終了じゃねぇか!