第31話 紅葉狩り〜準備②〜
日曜日のショッピングモール。家族やカップルで賑わっており、多くの人が行き交う。
ここに居る人のほとんどが楽しい週末を過ごしている事だろう、俺を除いて。
「真、この服似合うと思うっすか?」
「…真、2人であっちのお店見に行こうよ」
「真、私の洋服選んでくれませんか?」
電車から30分ほど乗り継いだ所にあるショッピングモールに、修学旅行に必要な物を買いきていた。
しかし、何故か3人から洋服を選ぶよう迫られている。
店の外では二奈と五花が休憩用のソファに腰掛けている。
「マコトっち凄いモテモテだね」
「あはは…でも羨ましいです。皆んなは来週から京都かーいいなー」
「お土産買ってきてあげるよー」
ぷくっと河豚のように頬を膨らませた二奈を五花が頭を撫でて慰める。
「で?真はどの洋服が可愛いと思うっすか?」
「…一華は後。真、私の服選びに行こうよ」
「真、私の洋服を選んでくれるって言ってましたよね?」
「ええっと…お、俺なんかよりも二奈と五花の方がいいんじゃないか?ほら、女子のファッションはわからないし…」
「そんなのどうでも良いっす。真に選んで欲しいっす!」
「ええ………」
こんな時どうすればいい。正直女子のファッションセンスなんてわからない。でも、逃げ場はない…ここは!
「ぜ、全員!何を着ていても可愛いから俺には決められないよ!あははは………」
「………それは…」
やはり、適当に褒めてその場を乗り切る作戦はダメだったか。
「それは……あ、ありがとう…」
「…ま、真。急に褒めるのは反則…」
「そ、そうです!褒めれば良いってわけじゃ…」
3人は簡単な褒め言葉に顔を赤面させる。詐欺なら速攻で金を振り込んでいる事だろう。チョロすぎる。そんなんで大丈夫なのか?
洋服を選び終わった後、今度は俺の服選びの為に別の店を訪れる。そこでは、俺はトルソーのようにただ5人が持ってくる服を着ることだけする。さっきから更衣室から出てない。
「こっちの方が良いんじゃないっすか?」
「お姉ちゃんより私の方は動きやすいと思うよ?京都で歩くでしょ?」
「…やっぱりかっこいい方が真に似合ってるよ」
「もっとおしゃれな方が…」
「マコトっちは半袖半パンで良いでしょ!」
もはや一発芸みたいになっている。更衣室にただ放り投げられるコーデをひたすらに着ていると、カーテンの外から声を掛けられる。
「ちょっと良い?」
「ん?誰だ?すまん声が聞こえづらくて」
声が小さいのと、店のBGMが大きくて声が聞こえずらい。誰の声なのか判別がつかない。
「すまん。もうちょっと大きい声で喋ってくれないか?」
「ううん、良いの。真にだけ聞いて欲しいから」
その声は小さくて聞き流してしまう程だった。口調もわからないほどに。
「あの写真…見たんでしょ?」
その言葉にTシャツを脱ぐ手が止まる。
「お前なのか?俺と中学生の時に出会っているのは…」
「そうだよ。やっぱり覚えてないんだね」
その言葉が心をチクリと刺す。俺は5人のうち誰かを忘れていたと言う事実に変わりは無い。その事に罪悪感が湧く。
「なんであんな事を…それよりも誰なんだ?」
「いいの。私のことは…でも、私の事を選んだら盛大に振ってあげるね?」
「ぐっ…なぁ、忘れていた事は謝る。すまない。けど、もう昔の俺じゃない。しっかりと向き合いたい」
「………」
「だから、姿を見せてくれ。お前は誰なんだ?」
カーテンから返事はない。最後まで誰かは判別出来なかった。
持ってきてもらったシャツを着て、ジーパンに片足を突っ込んだ所でカーテンから声が聞こえる。
「…真」
「!さっきはすまない!話を聞いてくれ!お前は誰なんだ!」
「…ええ?私だよ?」
「三和?三和だったのか?話を…あ!」
カーテンを開けようとすると、履き掛けのジーパンに躓き、そのまま外に倒れ込む。
「きゃあ!?」
ばたんと音を立てて更衣室の外に倒れる。でも、不思議と痛くない。ゆっくり目を開けると柔らかい2つの物が目の前に見える。
「…ま、真!?こ、こんな所でなんて………」
「す、すまん!でも三和なんだな!?」
「…何のこと?私は洋服持ってきただかだよ?」
「え?」
よく見ると、三和の手には茶色のロングコートが握られていた。そこに、音を聞いて駆けつけた4人と合流する。
「真…?何してんすか?」
「せ、先輩!?三和とそんな関係に!?」
「真くん?そんな姿で何を?説明してくれます?」
「わぁお。マコトっち大胆!」
自分の姿を見ると、下半身はジーパンを履き方ていてパンツが丸見え。そんな姿で女の子に覆い被さっている。警察に通報されても言い訳出来ない格好だった。