第29話 お家に帰りたい!?
10月19日土曜日。今日から本格的に6人で暮らすことになる。5人は既にマンションで生活していて、俺の荷物などを纏めるために昨日は自宅に泊まった。
マンションのエレベーターに乗り、5階のボタンを押す。両手に荷物を抱え、ぱんぱんになっているリュックの重みが肩に伝わり、今にも膝から崩れ落ちそうだった。
部屋の番号は501。エレベーターから1番遠い角部屋だ。息を切らしながらやっとの思いで部屋に辿り着く。
今日からここが我が家になる。生まれてから広い屋敷にしか居なかったから不思議な感覚がする。
チャイムを鳴らし、待っていると、四羽が玄関の扉を開けてくれる。
「いらっしゃい!ちょっと散らかったますけど…どうぞ!」
「おう。お邪魔しま………す」
そこにはちょっとなんてレベルじゃ無い汚部屋が広がっていた。
廊下には高く積まれた段ボール、リビングには散らかった服やバックで足の踏み場もない。
「なんだ…これ…」
「…あ、真来てたんっすね」
「いや〜、5人分の荷物となると服も大量に…女の子ですから!しょうがない部分もありますけど………」
「にしてもだろ!皆んなは!?」
俺の言葉に反応したのは、リビングのL字ソファでぐたぁとスライムのように寛いでいる一華だった。
「二奈と三和は部活、五花は友達とカラオケらしいっす。2人じゃ埒が開かなくて、ダラダラしてたっす」
一華の様子を見ると本当に何もしていないらしい。昨日引っ越したばかりでこんなに部屋を汚くできるものなのか?甚だ疑問だ。
「じゃあ、俺が来たから掃除を始めるぞ?ほら、この散らかった服をどうにかしろ!」
「あ!ちょっと、真!そこはダメ!?」
足元に散らばった服の山を片付けようと手を伸ばすと、水色の見慣れない物を引っ張り出してしまう。
下着だ。
ブラジャーをしっかり見たのは初めてかもしれない。それも大きい……これは一体誰の…
「ちょっと!いつまで持ってるんですか!?」
四羽に回収されてやっと正気に戻る。そうだ。俺たちは一つ屋根の下で共同生活をするのだ。こう言った配慮は必要になってくる。
今更になって顔が燃えるように熱くなる。そんな真っ赤な顔の俺に耳元で一華が小悪魔のように囁く。
「…私のならじっくり見ても大丈夫だよ?ま・こ・と」
「っ!?」
咄嗟に手で紅く染まった耳を塞ぐ。ソファから身を乗り出し、胸元を指で引っ張りチラ見せしながら俺の顔を覗き込む一華。久しぶり見る一華にいつも以上に鼓動が高鳴ってしまう。
「じゃ、じゃあ俺はあっちで段ボールを整理してるから!」
その場を逃げるように廊下に出る。まだ心臓がばくばくと鳴っている。
息を整えながら段ボールを片付けている。中には色んなものが入っていた。本にストレッチ器具。その中にアルバムがあった。名前が無く、誰のかはわからない。見てはいけないとわかっていながらもアルバムを開いてしまう。
そこには可愛らしい幼少期の写真が詰まっていた。ページを捲るたびに写真の中の彼女は成長して行く。幼稚園、小学校とページを捲り、中学校のページを見るとそこには見た事がある顔が写っていた。俺だ。俺と写真の彼女の2ショット写真が入っている。しかし、彼女の顔の部分だけ破られている。
つまり、俺と5人のうち誰かは、お見合いよりも前に出会っている。この写真に覚えはないが、この写真に写っているのは俺だ。
誰かが僕と写真を撮った後、自分の顔の部分を破り捨てた?何故?考えてもわからない。
すると、突然玄関の扉が、がちゃりと音を立てて開けられる。咄嗟にその写真をポケットにしまってしまう。
「あれ?先輩来たたんすね?散らかっててすみません」
「い、いや大丈夫だ…」
「…真!やっと一緒に暮らせるんだね」
「マコトっち?どうしたの?なんか変だよ?」
「そ、そうか?気のせいだろ!」
五花の野生の勘に動揺しつつも平然を装う。
「さ、皆んなで掃除だ!」
「え〜?今帰ってきたのに?」
「…私ちょっと用事を思い出したかも」
「それ、家に帰る時に使うんだぞ?」
「あはは……ちゃちゃっと終わらせましょうよ!」
全員で散らかりまくった部屋を片付けて行く。30分後には部屋は元の姿を取り戻していた。
片付けてわかったが、部屋は意外と広い。リビングは6人いても窮屈には感じない。しかし、寝室は別だ。二段ベットが三つ。寝れるわけがない。
「なんでー!?私の下で寝ようよーマコトっちー!」
「嫌だね!俺はソファで寝る!」
「あれー?真照れてるっすか?」
「照れてない!」
「…大丈夫だよ………何もしないから」
「その間何!?」
「私も大丈夫ですよ!先輩!」
何故か4人は強引に俺の事をベットに寝させようとする。
「いや、普通に考えて…」
「真はこんな状況になっても普通が通用すると思ってるんですか?6人で生活なんてそもそも普通じゃないんです。それに、許嫁と一緒に寝れないんですか?」
「なっ!?」
四羽がそっち側!?これは予想外………。
ほぼ強制的に寝室で寝る事が確定してしまった。既に我が家が恋しくなってきた。何で喧嘩別れしちゃったんだろ………。
「……やっぱり無い。真に写真がバレた………なら、もう終わらせるしか無い…。」