第2話 にどめの一歩
「お前ら、来週からテスト期間だからな?勉強しとけよー?赤点なんてとったら夏休み補習だからな?よしっ。じゃあ号令」
起立 気をつけ 礼
号令の後皆んなバラバラに動き出す。部活に行く人。家に帰る人。バイトに行く人。遊びに行く人。そして何もせずに教室に残ってる僕。
昼休みの食堂で言われた言葉は僕の心に深く突き刺さった。
「質問の答えを出して、生徒会長らしい行動を示す。って何すれば良いんだろうな。」
窓から差し込む日光が机に反射して自分の暗い顔を照らす。どんな顔したんだろ。僕。
1人で考えても埒が開かない。諦めて帰ろうとした時に教室に入ってきた先生に呼び止められる。
「ここにいたのか門川。朝、倉庫の整理を頼んだろ。」
朝の話なんて聞いていなかった僕は、どうやら特別棟の使われていない倉庫の整理を頼まれていたらしい。全く聞いてなかった。
埃っぽい倉庫を1人で整理する。寂しいような気もするが、ちょうど1人の時間が欲しかったところだ。
何故、僕は質問をはぐらかしたのか。答えなら出ている。あの5人の中から選ぶしかない。それなのにどうして。弱みを握られていたからなのか?確かにあの時は冷静ではなかった。それとも、家の重圧が嫌だったのか?自分の本心がわからなくなってきた。
1人で悶々と考えていると、倉庫の棚から見慣れないものがでてきた。
桜柄の布がかけられていて、大きく、薄く、四角いもの。絵画か?中身が気になって布とってみる。それは意外すぎる物だった。
「こ、これは!ゴ、ゴッホのひまわり!!」
誰も知っているゴッホのひまわり。なんでこんなところに?そして、誰がこんなものを…
「みぃーたぁーなぁー?セ ン パ イ ?」
「ぎゃーーーーーー!!」
「あはははっ!お疲れ様です門川先輩!相変わらず面白い反応ですね!」
「二奈さん!やめてくれ!はぁーー死ぬかと思った。ふぁーふぅー」
美術部の活動が終わった二奈さんが、偶然僕を見つけてイタズラを仕掛けてきたらしい。くそっ、何度後ろから声をかけられれば良いんだ。
バクバクした心臓を落ち着かせるために深呼吸をする。
「ゲホッゲホッ!」少し騒ぎすぎて埃が舞ってしまった。締め切った窓を開けて新鮮な空気を取り込む。外はさっきまで明るかったのに、気がついたらもう日が沈みかけていた。空が夕焼けでオレンジ色?黄色?なんとも言えない色になっていた。
さっきまで薄暗く色が無かった部屋が明るく染まっていった。何故かこの空を見ているとさっきまでの悩みがスッと落ち着く感じがした。
「綺麗ですね?門川先輩。」
「ああ、そうだな。こう言う色を何色って言うんだろうな。」
「うーん。この時間なら『黄昏』色じゃないですか?ほら、黄昏時って言ったりするし。」
黄昏色。昼でも夜でもない今の自分みたいな中途半端な時間。でも、嫌な感じはしない。
「それより、なんでこんなところにゴッホのひまわりがあるんだ?」
「これ偽物ですよ?美術部の顧問が3本のひまわりのレプリカをこの倉庫にしまったとかって言ってました。桜柄の布も先生のです。」
「ま、まぁそうだよな!本物な訳ないよな!」
「あれ?もしかして本物だと思ってました?流石にわかりますよねー?」
「クッ、わ、わかっていた!当たり前だろ。あははは…」
なんでだろう。二奈さんとなら自然に話せる。僕のことを拒絶ぜすに話してくれるのは梅里さんと二奈さんくらいだ。特に二奈さんは話しやすい。
「僕はなんて答えれば良かったんだろうな。」
「え?あ、お見合いの時の話ですか?」
「いや、なんで本人に質問してるんだろうな。すまん。答えは出てるはずなのに。」
出てるはずなんだ。出てるはずなのに何故か心のどこかでそれを否定したい。
「じゃあ、その答えを教えてくださいよ。」
「え?ああ。5人の中から許嫁を決める。これしかないだろ。」
「それって、先輩の本心ですか?」
「本心」その単語が何故か耳に残る。この答えが僕の本心。でも、そうじゃないなら?
「先輩は自由に恋愛とかしてこなかったんですよね?ゲームしちゃうくらいだし。そんな先輩に教えてあげます!」
彼女が話す瞬間に、吹き込んできた風でカーテンが大きくなびく。そして彼女の頭にカーテンがそっと乗っかった。
僕にはその姿が、まるでベールを上げたウェディング姿の花嫁に見えた。
「恋は自分が幸せになるためにするものですよ。」
頭にカーテンが乗っかったまま、少し頬を赤らめて話してくれる。そんな目の前の光景から目が離せなくなっていた。
「恋は自分のためなんです。家のためでも、弱みを握られたからするものではありません。自分が幸せになれる人を探して、自分で決めるものです。」
「そ、そうなのか?じゃ、じゃあ」
「はい!先輩の正直な気持ちを言ってもらいたいんです!多分、本心を先輩が語らないから四羽も仲良くしてくれないんです。」
僕の心の中で何かが晴れた気がした。ずっと気になっていたこと。でも、目を逸らしてきたもの。勝手に思い込んでたんだ。自分の本心。やりたいこと。
「なぁ、二奈!他の4人はまだ学校にいるよな!?」
「え!?あの、ええっと…いると、思いますよ?多分この時間なら皆んな部活とか終わって校門に…」
「よし!行こう!」
「あっ!ちょっと舞ってください!先輩!」
今ならいける。答えを出せる。
「う〜んっ!今日も疲れたー。」
「…うん。私もサーブ50本連続で打って肩痛い。」
「それは肩取れちゃうんじゃない!?」
時刻は午後7時。日が沈んで、空はピンクに染まっている。
「? 一華どうしました?そんなにソワソワして」
「いや、先に終わってるはずの二奈が見当たらないっす。いつもならもう来てるのに。」
「…あれ、2人で走ってくるの二奈じゃない?」
「え?」
三和が指差す方を見ると、二奈と真くんがこっちに走ってきていた。
「はぁはぁ。間に合った。」
「ど、どうしたっすか?二奈も真くんもそんなに走って。」
「お姉ちゃん!いや、皆んな!先輩から話があるの!しっかり聞いてあげて!」
「はぁはぁ、今日の昼休みに四羽に言われてから自分で考えて、答えを出しに来た。」
彼の真剣な眼差しが場の雰囲気をギュッと締める。昼休みとは別人のようだった。
「では、答えを聞かせて下さい。門川くん。」
「…俺はあの時、家のためだとか、弱みを握られたからって言い訳を探してた。それを本心だと思い込んでいた。」
「でも違った!本心は自分のために!幸せになるために恋愛をしたい!弱みとか、家の事なんて関係ない!」
「一華さん!二奈!三和さん!四羽さん!五花さん!俺はこの5人の中から許嫁を決めたい!」
『『『『『!!!!』』』』』
これが僕の本心だ。この思いをしっかりと正面からぶつける。これが僕の答え。
「行動で示すのはどうするのですか?」
「生徒会長らしい行動。そう言ったな?これからは自ら選んだ道を自ら行く。生徒たちのお手本となるような。もちろん校則はもう破らない。そして、目を逸らさずに目の前の問題に取り組む。そういった行動を示すと約束する。」
自分の本心はぶつけた。後は反応だが………
「うん!マコトっちかっこいい!昼休みとは大違いだよ!」
「そうっすね。確かにこんなに熱く語ってもらえると思ってなかったっす!」
「…私は、許嫁に賛成。四羽は?」
「………わかりました。私から言ったんです。許嫁に賛成します。」
「四羽さん、皆んなありがとう。」
「良かったですね?先輩!」
「ああ、二奈もさっきはありがとう。あの話がなかったら変われてないよ。」
「ええ!?あ、その、…えぇっと!どういたしまして?」
二奈の顔が真っ赤になる。それを見て一華と五花がニヤニヤしながら二奈の周りを囲む。
「おやおや?すっかり仲良くなったんだね?」
「そうっすよ。ちゃっかり呼び捨てなんて!」
「っ!!!」
2人に言われて気がついた。あれ?いつからだ!さんをつけなくなったのは!
同時に僕の顔も赤く染まる。
「まぁ…これからは呼び捨てで良いんじゃない?…その方が自然な感じする。」
「確かにそうですね。では、改めて門川真くん。よろしくお願いしますね。」
「ああ。こちらこそよろしく。」
ここからだ!許嫁を決めるための第一歩はここからスタートなんだ。