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許嫁ガチャは⭐︎5だらけ  作者: 我妻 ベルリ
第三章 激戦!運命の紅葉狩り編
29/75

第28話 好きじゃない方の告白〜5人と家〜

 

 「それで、ここからが本題なんすけど」

 「え?このまま話すの?」


 泣き終わった後、一華がそのまま話を続けようとする。5人は以前くっついたままだった。


 「…大丈夫だよ。…私がついてるから」

 「いや、もう大丈夫…」

 「先輩、甘えて良いんですよ?」


 三和と二奈の腕がより強く抱きしめる。

 このままじゃ色々当たってるし!って言うか………


 「いや!苦しいって!」


 ようやく5人の腕が離れる。全員で顔を真っ赤にしていると「コホンッ」と一華が話題を戻して話し出す。


 「真、今日放課後時間あるっすか?」

 「真に見せたいものがあるんです」

 

 5人の目線は真に集められ、反射的に目線を外してしまう。正直に言えばその約束は不可能だ。父からの約束では今後一切彼女達に近づくことは出来ない事になっている。

 しかし、そんな約束がもうどうでも良いと思えるくらいに彼女達の存在が、救いの光の様に輝いて見えていた。


 「わかった。放課後、下駄箱の所でいいか?」

 「はい。待ってますね」


  ○ ○ ○


 放課後、約束通りに下駄箱に向かうと既に5人が待っていた。外はオレンジ色に染まっており、6人の影が伸びて映る。

 僕はただ5人の後をついて行くしかない。いつも通る道とは反対の道を歩いて行く。

 25分程歩いていると何処にでもある中層のマンションに着いた。5階建てのマンションでレンガタイルの茶色い外壁。何故ここに連れてこられたのか今だにわからずにいると、マンションの駐車場に停まっている見慣れた車が目に入る。

 黒塗りの高級車から降りてきたのは父の門川実だった。


 「真。せっかく認め始めていたのに…お前は私を失望させるんだな」

 「な、なんで父さんがここに?」


 混乱する僕に父が静かに、低いトーンで説明し始める。


 「5人から連絡があってね。このマンションで真と共に暮らしたいとの事だ」

 「は!?」

 「破談にしたのは私だ。確かに相手方には一方的な判断をしてしまい、申し訳ない事をした。だから、お前に選ばせる事にした」

 「と、言うと?」

 

 唾を飲み込むとごくと喉が鳴る。父の鋭い視線に膝が震える。昔から父のこの目が嫌いだった。まるで人間を人間として見ない目、優しさなんて感じない完全な軽蔑の目。そんな目に圧倒される。


 「ここで選べ。後ろのご令嬢とここで暮らすか、門川に戻り会社を継ぐ事を選ぶか。ご令嬢を選んだ時点でお前が門川を継ぐ事は二度とない。そして、門川家に立ち入る事を禁止する。さあ、どうする」


 静かに怒る父から用意された2つの道は今後の僕を決めるものだ。そして、俺として生きることの出来る最後のチャンスだ。

 奥歯が、がたがたと鳴り、唇がびくびくと震える。怖いんだ。父が怖いんじゃない。反抗できない自分が怖い。でも、それと同時に後ろにいる5人が勇気をくれる。そんな気がする。

 深く息を吸って、吐き出す。そして、睨む狼を兎が睨み返す。


 「俺は…5人と暮らす」

 「………それがお前の答えなんだな?」

 「なあ、父さん。こうやって目を合わせたのはいつぶりだろうな?」

 「………さぁな。お前の選んだ道だ好きにしろ。もう2度と家は立ち入らせないからな?」

 「……ふっ。望むところだクソジジイ。誰もあんな敷居はまたがねぇよ」

 「……なんだと?」

 「え?ま、真?どうした…の?」


 心の中で何かがぷつんと音を立てて切れる。

 後ろの5人が不安そうに声を漏らす。

 父の眉間に皺が寄り、さらに鋭く睨みつける。


 「母さんが亡くなってからあんたおかしくなったよ。俺と叶をあんたは見てくれない。5人への説明も叶と使用人にさせたらしいな?仕事に逃げやがって。どうせこの5人のことも損得勘定でしか判断してないんだろ?」

 「……誰に口を聞いてるのかわかってるのか?」

 「()父親に言ってんだよ門川実さん」

 「………」


 雰囲気はまるで地獄だ。空気は冷え切っていて、5人の方が緊張する。マンションの駐車場で重苦しい緊張が空間を支配する。


 「もう限界だって言ってんだよ。こっちの方が悔いが残らず別れられるだろ?実さん?」

 「ああ、そうだな。こんな会話は無駄の様だ。時間が勿体無い、さよなら真くん」

 「ええ。お気をつけてお帰りください」


 お互いにブチギレだ。こんなに親子らしい事をしたのは初めてかもしれない。最初で最後の親子喧嘩だ。

 父を乗せた車が横切る様に去って行く。


 「マ、マコトっち〜?ど、どうしちゃったの?」

 「……元々の性格がこうなんだよ。気にするな」

 「ほ、本当の真…結婚したら亭主関白系?」

 「…私はアリだよ?」

 「まあ、先輩にもそんな一面がありますよね。それよりも、あんな別れ方で良いんですか?本当に縁切っちゃうんですか?」

 「いいんだ。反抗期も無ければ、喧嘩した事もない。ああやって本音で話したことなんて無かった。最後に言いたいこと言えて良かったよ」


 その言葉に5人は安堵した表情を見せた。ようやく自分を苦しめていた足枷を外せた気がする。星が出始めた夜空はいつもより明るい。


 「そんな事より、このマンションどうしたんだ?お金とか、そもそもどうやって暮らすんだ?」


 「このマンション全部!」と言われても冗談に聞こえない程、この5人はお金を持っている。しかし、それでも暮らして行くには安定した職が必要だ。

 それに、高校生の男女が一つ屋根の下で生活?アウトだろ!


 「借りたと言うより、私のアイドルグールプの会社が所有してるマンションっす。前から卒業したら家を出るつもりだったし、丁度一部屋空いてるって事で!」

 「で、でも…お前らが家を出る理由には………」

 「その辺は大丈夫です。私達はきちんと親を説得してきてるので!」

 「やりたくて来てるんですよ?真は直ぐに1人で何でもやろうとしてしまいますからね」

 「…将来は一緒に暮らすんだしね」

 「一緒に暮らしたいって言ってくれたじゃん!」

 

 彼女達の手には「501号室」と書かれた鍵がぶら下がっている。どうやら本当に暮らすらしい。

 でも、不思議と不安はない。これから楽しくなる、そんな気持ちになる。


 これから許嫁(非公認)との共同生活が始まる。

 しかし、それは決してラブラブで幸せなものじゃない。想像を絶する苦労を真はまだ知らない。


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