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許嫁ガチャは⭐︎5だらけ  作者: 我妻 ベルリ
第三章 激戦!運命の紅葉狩り編
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第27話 好きじゃない方の告白〜トラウマの俺〜

 父から許嫁の破談を告げられたのは昨日の夜のことだった。

 生徒会長になれなかったことで門川の名に恥じるとかなんとか言って、破談を一方的に決められた。

 正直うんざりだった。でも、5人はこんな僕に振り回される事はこれから無い。最初から無かったことにすれば良いと思ってしまった。

 俺にそんな価値は無い。俺は常に家のことを考えてしまう。親に反抗できないし、門川から逃れられない。

 カーテンの閉め切った部屋でベットに顔を埋める。まるで沼の様に体が沈み、気持ちは深海の光の届かない底の様に黒く、地に落ちる。やる気が起きず体が鉛のように重い。

 5人のことを考えると心臓が抉られるような罪悪感に苛まれる。俺は…ずっと何もできてない。


 ○ ○ ○


 真との許嫁破談の説明を受けた後、5人は放心状態で帰路に着いていた。

 使用人さんと叶ちゃんは申し訳なさそうに話してくれた。しかし、納得できない。確かに最初はお互い望んでいないお見合いだったかもしれない。でも、もう変わってしまった…真に変えられてしまったんだ。既に彼が居ない生活は考えられない。


 「…ねぇ…これからどうする?…私達と真の関係はこのままで良いの?」

 「わかんない。でも、このままなんて嫌。マコトっちがいないなんて無理だよ」

 「そうですね…あんなに助けられて来たのに、もう会えないのは納得出来ません。」

 「私も先輩ともっと居たいです!でも…これは先輩のご家族の問題…。私達はどうにも出来ないんじゃ…」


 日が沈み、肌寒い帰り道。普段は隣に彼が居た。その優しさ、温もりをもう感じることが出来ない。失って初めてその存在の大きさを知る。そして途方もない寂しさが5人に訪れる。


 「ねぇ…私少し前から考えてた事があるんすけど、皆んなでやらないっすか?」


 重い空気感の中、一華が自身の考えを話し始める。


 「え!?それ良いの!?」

 「…まぁそれなら真と一緒にいられる。けど、真はどうするだろう…」

 「やるだけやってみましょうよ!お姉ちゃん準備はよろしくね」

 「そうですね、準備が出来たら真にも話しましょう」

 「じゃあ決まりっすね!協力お願いっす!」


 5人は手を重ねて、ある作戦を開始する。今度は彼女達の番だ。


 ○ ○ ○


 10月17日の昼休み。この前まで残暑を鬱陶しく思っていたのに既に外は過ごしやすい気温に落ち着いていた。今日は特に風が冷たい。開けていたジャケットのボタンを締める。


 「屋上でぼっち飯なんて久しぶりだな。」


 誰にも聞かれることのない独り言を溢す。いつもなら皆んなと食堂で食べていた。それがいつの間にか当たり前になっていた。前まで1人でやっていたゲームもやる気が起きない。心にぽっかりと穴が空いた様な寂しさをようやく実感する。

 冷たい風に吹かれながら購買で買った焼きそばパンを頬張る。ぼーっと何をするでもなく手摺りに寄りかかりながら空を眺めていると、屋上の扉がバンと大きな音を立てて雑に開けられる。


 「やっぱり先輩居た!見つけたよー!」

 「…真!探したよ」

 「何1人で食べてるんすか。ほら、そっち寄ってくださいっす」

 「お昼それだけですか?私のメロンパン食べます?」

 「マコトっちミルクティー飲む?」


 5人が円を囲む様に突然集まる。それぞれの昼食を食べながら、何事もなかったかの様に話す姿に僕はただただ唖然とする。


 「………で、本題に入るっすけど。叶ちゃんから話は聞いたっす。破談の話も、その理由も全部。だから今度は、真のことを教えて欲しいっす」

 「私達、先輩の事知らないんです。私たちの相談は聞いてくれるのに、自分の相談しないじゃないですか」

 「…だから、今度は真の事教えて。昔の事とか苦しんでる事も全部」

 「私達はもう友達じゃありません。許嫁を選ぶと言ってくれたのはあなたです。そして、向き合うと言ったのもあなたですよ?」

 「だからマコトっち。私達に話してくれない?」


 その言葉に動かされ、自分の事を許嫁に話し始める。


 ◇ ◇ ◇


 幼い頃から自由が無かった。父の言う事に従って来た。習い事と勉強の毎日。常に使用人が側にいて、まるで鳥籠に入った小鳥だった。

 そんな当時の()は周りとの関係を避け、周りをなんの理由もなく嫌っていた。恋愛も許嫁を決めると言われて、門川だから近づいて来た女子を悉くふった。学校も何度もサボって勉強も適当になっていった。それが唯一の反抗だった。

 そんな俺を受け止めて優しくしてくれたのは母だった。昔から難病を患っており闘病生活を送っていた。そんな母はいつも叶と俺を励まし、自分の事よりも俺達を心配してくれた。人をダメにするような優しすぎる愛が俺の心の支えだった。

 中学3年生の春。母の難病が完治し、一家に幸せが訪れた。あの時は叶も、使用人さん達も、父さえも幸せそうな顔をしていた。母と平和に過ごした日々は俺を少しづつ厚生して行った。学校にも通い、勉強も習い事も少しづつやらようになった。

 中学3年生の冬。自分の部屋で受験勉強をしていた時だった。扉をものすごい勢いで開けた叶の顔と言われた一言を今も鮮明に憶えている。



 「お母さんが事故に遭った」



 母は病院で息を引き取った。

 友人と久しぶりに会う約束をしていた母は、その日嬉しそうに出かけて行った。母と友人が赤信号で待っていた交差点に、飲酒運転の車が突っ込んだ。運転手、母の友人、そして母の3人の命が失われた。

 せっかく難病を治したのに。今までの時間をとりもどそうと、遊ぶ約束を何個も立てたのに。突然、事故と言う名の理不尽に全てを奪われた。

 葬式では何故か涙が出なかった。叶の泣き叫ぶ声、沈んだ顔の父、写真の中で微笑む母。もう家族が揃うことは無い。そう実感した時だ。俺が()に変わったのは。

 今までとは人が変わったように勉強し、習い事をこなし、百花学園に合格した。そして、入学式で玄江先輩と出会って、先輩に相談したことで僕は救われた。

 母と言う支えを失った事で父への反抗心も、自分のしたい事も全て押し殺し、全て1人で為す事を為せる人間になると決めた。


 ◇ ◇ ◇


 「………これが僕の…俺の話…。悪いな…こんな辛気臭い話しちゃって…!」


 5人は無言で俺のことを抱きしめる。何も言わない。でも、彼女達の優しさが伝わってくる。


 「話してくれてありがとう」

 「先輩はもう1人じゃ無いです」

 「…大丈夫だよ」

 「私達がいますから」

 「本当の自分で良いんだよ」


 気づけば泣いていた。ちゃんと泣いたのは小学生ぶりだったかな。嗚咽が漏れる程に、涙で目の前が見えなくなる程に泣く。首、両腕、体、手を優しく抱かれ、俺はやっと母の代わりとなる支えを見つけた。


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