第24話 毒を吐く白雪姫
10月2日。体育館に全校生徒が集まり、辺りはざわざわと騒がしい雰囲気に包まれている。
スピーチ当日。出馬する生徒のスピーチの結果で、今後の選挙活動に大きな影響が出る。
ステージの舞台袖で、小さく震えながらスピーチの台本を読んでいる四羽は、まるで弱りきった子猫の様だった。
「わ、私が……立候補…したり、り、理由は…」
「だ、大丈夫か?あんなに準備したんだ。それに…秘策もあるだろ?」
「そ、そうですけど…やっぱり不安じゃないですか!」
その場でバタバタと慌てる四羽を落ち着かせていると、白猫と南条が自信に満ちた顔でこちらに近づいて来た。
「本日はよろしくお願いします。最初のスピーチ頑張って下さいね?」
「…ええ。望むところです!」
「うふふ、会長は1番最後でしたね。落ち着いてスピーチ出来ますね?」
「そうだな。完璧なスピーチにしてみせるよ」
「ふふふ、楽しみですわ。では」
そう言うと、僕たちに背を向けて立ち去っていった。その背中はいつもより大きく見えた。
体育館の電気が消え、ステージだけが照らされる。
「お待たせしました。生徒会選挙前の立候補者スピーチを始めます。最初は2年E組蘭四羽さんです。」
「よし、行ってきます!」
「……四羽、お前は凄いやつだ」
「え?」
四羽の背中にそっと手を添える。照らされたステージには演説台とマイクが光り輝いている。
「大丈夫だ。失敗しても最後に俺が何とかする。やってこい!」
「…はい!ありがとうございます!」
そう言うと演説台に向かって歩き始める。一歩一歩を踏みしめながら。
「ん?…っ!お、おい!」
目線を落とすと、さっきまで熟読していた台本があった。忘れたのだと思い小声で呼びかけたが、少し振り返った四羽は、少し微笑んで「大丈夫」と口パクで伝えていた。
彼の言葉は安心する。この前のテストの時も、遊園地の時も私の事を助けてくれる。彼が居るだけで何とかなる気がする。
でも、彼に助けられっぱなしは良くない。せっかく用意してくれた台本も、もう私には必要ない。彼が居るだけで、焦りも、不安も消えてしまう。
「みなさん初めまして。この度、生徒会副会長に立候補する蘭四羽です。」
「あれが蘭さん?会長と噂になってる?」
「あの噂本当なの?」
例の噂のせいで四葉が話し始めると、会場が騒つく。状況は最悪だ。
「皆さんが不安がるのもわかります。…現生徒会長の門川さんとの関係についての噂でしょう。……この場でしっかりと話させていただきます」
体育館が静寂に包まれる。皆んな固唾を飲んで四羽の一言に耳を澄ませる。
「……スゥー…私は!門川真が!好きです!」
「え!?」
「あら!」
「えええええ!!??」
体育館中が驚きの声で揺れる。僕も知らない、台本にない突然の告白に皆んな目を丸くさせる。
「噂は本当です!私が副会長に立候補した理由は、彼を近くでサポートしたいからです!そんな理由で務まるのか不満に思うかもしれません。しかし、私にはどうでもいい事です!私は、彼を助けたい!それが理由です!」
ごめんね真。せっかく用意してくれた計画もめちゃくちゃにしちゃった。でも、私はこうしたい。もう迷わない。
まるで、毒リンゴを食べさせられた白雪姫が、毒を吐き出す様に私の言葉は止まらない。気持ちはもう、溢れてしまっている。もう、弱い私は此処で捨てる。
「皆さんの信頼はまだ得られないと思います。こんな理由で選ばれるとは思ってもいません。でも、これから皆さんの信頼を得ていきたいと思っています。私は、まだ未熟です…だからこそ見ていてください。必ず頼れる副会長になってみせます!以上です。ご静聴有り難うございました。」
四羽の礼に合わせて、会場から大きな拍手と歓声が湧き上がる。「逆に応援できる!」と言う意見や「恋愛の為ってこと?それっていいの?」と賛成と否定が半々だったが、四羽のスピーチは大成功と言えただろう。
「ふぅ。どうですか?私のスピーチ」
「お、お前なぁ…さっきの不安そうな目は何だったんだよ…」
彼の顔は真っ赤だった。それを見て少し嬉しいと思った。ずっと支えてくれた彼を今度は支える番だ。
「ふふ、私は有言実行させるからね?会長?」
2番目、3番目は南条と青木だった。あの2人は問題ではない。1番厄介なのは次だ。
「では続きまして、2年A組白猫紅葉さん。お願いします。」
舞台袖から出て来ただけで拍手と歓声が巻き起こる。これが彼女の1番の武器、人望だ。彼女の隔てない接し方、努力する姿に応援したくなる生徒は少なくない。
「初めまして。この度生徒会長に立候補させていただく白猫紅葉です。私はこの一年間、副会長として学校のために尽力して来ました。ですが、私がこの学校に出来たことは少ないです。ですから、私は生徒会長になり、この学校をより良いものに変えたい!皆さんのために努力したいのです!」
彼女の演説に多くの拍手が送られる。自分の事を謙虚に語り、生徒と同じ立場になる事で親しみやすくする。彼女の常套手段だ。
「凄い人気ですね…真大丈夫なの?」
「僕を誰だと思ってるんだ」
「ゲームしちゃうダメ生徒会長」
「うっ…それ今言う?」
くすっと2人に笑顔が戻る。白猫のスピーチが終わり、僕の番が来た。
「じゃあ、四羽。予定通りに頼む」
「うん。行ってらっしゃい!」
僕は照らされた演説台に立つ。横を見ると、こちらを注意深く見つめる白猫が見えた。
前には大勢の生徒が僕の演説を見守っている。
「皆さん初めまして。先程急に告白された門川真です」
その挨拶に笑いが起こり、会場の空気が緩まる。
「僕は去年、生徒会長に選ばれました。そこからこの学校に貢献してきたと思っています。しかし、実際は皆さんは生徒会に興味がなく、どんな活動をしていたのか、結果はどうなったのか知らないのではないでしょうか」
一華や二奈、五花の反応を見た時に確信した。生徒会は活動しているが、その活動を知っている者が少ない。なら、その結果を見せつければいい。
「なので、今日は生徒たちの声を聞いてみたいと思います。女子バレー部のキャプテン、白百合三和さんです」
僕の紹介に合わせて三和がステージの上でマイクを握る。
「ご紹介に預かりました。女子バレー部キャプテンの白百合三和です。バレー部では夏休みに合宿を行いました。その際に私達のサポートをしてくれたのは会長の門川君でした」
会場は実際に助けて貰ったと言う声を聞いて「やっぱり会長って凄いの?」や「しっかり仕事してたんだ」と言う声が聞こえてくる。
白猫は未熟な姿を見せて生徒の人気を得た。なら、僕は完璧を見せる。
「これからは皆さんに、理解される生徒会を作り上げたいと思っています。これからの僕を見ていてください。ご静聴有り難うございました」
体育館は拍手喝采に包まれる。舞台袖に戻ると三和と四羽が待っていた。
「…真お疲れ様。…かっこよかったよ」
「流石ですね。とりあえず無事にスピーチを終えられて良かったです!」
「そうだな。お疲れ様」
こうしてスピーチ会を成功させ、生徒会選挙へと駒を進めることができた。
青木龍之介年齢16歳 青木家の長男
身長180cm 体重75k
●ごく普通の家庭の青木家。頭は良いが、勉強嫌いで授業中はいつも寝ている。それで学年上位を獲る天才型。
●見た目は金のメッシュが一本入っている黒の短髪。性格は頼り甲斐があり、真とも仲がいい。彼女が出来ないのが悩み。