第23話 汚名と逆境は返すもの
9月27日。制服は衣替えを迎えたが、まだまだ外は暑い。
制服のジャケットを腕にかけて登校していると、後ろからドンっと強い衝撃を受ける。
「おっはよー!マコトっち!」
「ぐえっ!」
「五花!勢い強すぎだよ!先輩大丈夫ですか?」
五花の突進に、体少しよろけてつまづきそうになる。心配してくれた二奈に「大丈夫だ」と軽く返事をする。
「おはよう真。凄い顔してますね」
「ええ?ああ、四羽か。人のこと言える顔してないぞ?」
四羽の目元には黒いくまが染み付いており、虚な目をしていた。
夜な夜なスピーチの準備していたため、2人とも徹夜状態で疲労困憊していた。
「真大丈夫っすか?ちゃんと寝たいっすね」
「い、一華?だ、大丈夫だ。視界が揺らぐくらい…大したことない」
「…真それは一華じゃないよ。妹の二奈」
「あはは…あと、先輩。視界が揺らぐのは大丈夫じゃないです」
視界がはっきりとしないし、さっきからやけに太陽が眩しく感じる。それに体が燃える様に暑い。あれ?9月ってこんなに暑かった……っけ?
次の瞬間、目の前がコンセントを抜かれたテレビの様に真っ暗になる。皆んなの声が段々と遠のいていく……。
重い瞼を開けると、見慣れた天井が見えた。自宅の布団に制服のまま寝ている。額には濡れたタオルが乗っけられていて、いまいち状況が飲み込めない。
「あ、お兄ちゃん起きたんだ。体調は大丈夫?」
「か、叶?なんで僕はここに…」
「え?本気で言ってる?お兄ちゃん登校中に倒れたんだよ?許嫁の皆んながタクシーで家まで送り届けてくれたんだって。お手伝いさんが言ってた」
そうだ、朝からおかしくて…皆んなと話してた時にそのまま倒れたんだ。
時計を見ると17時になっていた。一日中眠っていたらしい。枕元には風邪薬と手紙が置かれていた。「早く良くなってね」その一言だけだったが、その言葉に少しだけ勇気づけられた。
その薬を飲んでまた眠りにつく。
○ ○ ○
9月29日。どこからか声が聞こえる。どこか安心する…優しい声が。
「……と……こと……真!」
その声で目を覚ます。そこには、心配そうにこちらを見つめる4人の姿があった。四羽の姿がない。スピーチの準備で忙しいのだろうか…。
「あ、先輩!大丈夫ですか?」
「あれ…?何でここに」
「お見舞いに来たんっす!私の事わかるっすか?」
「大丈夫だ。わかるよ三和」
「…全然ダメだよ…。もうちょっと寝てなきゃね」
そう言うと、三和?から薬とスポドリを貰う。昨日も一日中寝ていたが、熱はいっこうに下がらない。
まだ意識がはっきりしない中、起きあがろうとすると5人に押さえつけられる。
「マコトっちまだ寝てなきゃダメだよ!」
「しかし、四羽が…」
「…四羽なら大丈夫だよ。…ほら、手紙預かってきたんだ」
その手紙には「安心して休んでください」とだけ書いてあった。それは四羽の字だった。
「…じゃあ真。服、脱いで」
「………え?」
「汗かいてるっすよ?ちゃんと拭かなきゃダメっす!さぁ!ぬぐっす」
「ちょっと…待って!お、おい!勝手に引っ張るな!おいっ………」
………2人の看病で熱が少し上がった。
○ ○ ○
9月30日。時計の針は13時を指していた。
「真様、お目覚めになりましたか」
「え、ええ。……この薬。三和が持ってきたものじゃないですよね?」
薬は2種類ある。一昨日、置き手紙と共に置いてあった薬と、昨日三和が持ってきてくれた薬。一昨日貰った薬のパッケージを見ると「風邪の効き始めに」と書いてある。三和がくれたものは「速攻!高熱に効く!」と書かれている。
「なんで三和に貰った方を使わなかったんですか?」
「え?それは…金曜日に来てくださった方がこの薬を絶対に使ってくださいと…」
「………許嫁の5人でした?その人」
「いえ、白猫と言う方が…」
その名前を聞いただけで、嫌な考えが頭を過ぎる。背中を冷たい恐怖が撫でる。
その後すぐに学校へ向かう。重だるい体を無理矢理動かす。
早く気づくべきだった。何故手紙を見破れなかったのか。字体も言葉遣いも違ったろ!
息がうまく吸えない。足元がおぼつかない中、放課後の学校に辿り着く。
どこにいるのかもわからない。けど、図書室に向かう。そこなら出会える気がした。
扉を開けると、そこには俯いたまま1人座っている四羽が居た。
「ま、真?何でここに…。もう学校は終わっていますよ?」
「そんな事……どうでいい…何が………あった」
「………」
今日の昼休みにスピーチの順番決めを行ったらしい。これも金曜日に決まった事だった。
本来の予定なら、四羽の焦る癖を考慮して順番はうしろにするつもりだった。しかし、僕の居ない事を最大限利用した白猫によって、四羽は1番不利なトップバッターにさせられてしまった。
しかも、僕と四羽の関係に目をつけていた白猫が「付き合っている」と噂を流した。これによって四羽の立場が大分不安定になってしまった。
「……ごめんなさい。私が…しっかりしていないから」
「四羽は悪くない。僕が…体調管理をしっかりとしていれば…」
「……ううん。真は私のために頑張ってくれた。私がその努力を水の泡にしちゃったんだ…」
四羽はポロポロと涙を流す。一滴流れ落ちるたびに僕の不甲斐なさを痛感する。悔しい。拳をグッと握りしめる。
四羽と少しの間話した後、ふらふらとした足取りで生徒会室に向かった。
「会長!?なんでここに。お体大丈夫…」
「白猫…やってくれたな」
部屋の中には南条と白猫がいた。途方もなく息苦しい静寂の中、僕の言葉が突き刺さる
「風邪薬もわざと効き目が薄いやつにしたな?」
「…ええ。そうですわ。会長のミスを利用しない手はないです。でも、私はあなたに元気になってもらいたかった。それだけですわ」
「はい。それに、順番に関しては公平に決めさせていただきました。お気持ちはわかります。ですが、私達は公平に戦っただけです」
「嘘の噂を流しても……か?あ?」
会長の見たことがない目、口調に私も雀も動揺する。まるで、虎に睨まれた様に体が硬直する感覚がする。
私達は呼び覚ましてはいけない人を呼び覚ましたのかもしれない…。
「確かに、僕が体調を崩した。それを利用するのは当然だ。僕でもそうする。でもなぁ…嘘の噂を流して、相手を傷つけるのは違ぇよな?」
「か、会長?そ、その…口調が不良みたいに…」
「…元々こんな感じだ」
四羽は噂を流された事よりも、僕に迷惑をかける事を心配していた。そんな彼女を傷つけた事が許せなかった。
「なぁ、白猫…これだけやってくれたんだ…覚悟は出来てるよな?」
「…っ!の、望むところですわ」
「……スピーチ…楽しみだな」
会長が部屋から立ち去り、重圧から解放される。気づけば冷や汗をかき、膝は細かく震えていた。
今まであんな顔は見た事なかった。あの話し方も。普段怒らない人だからこそ、あの姿に恐怖してしまう。
2人は、一気に冷え切った不安が頭を撫でる感覚に襲われた。
「待たせたな。大丈夫か?」
「真こそ大丈夫?体調まだ良くないんでしょ?」
「ま、まぁ大丈夫だよ」
「…はぁこれからどうしようね」
下駄箱で待って貰っていた四羽と合流して、今後の予定を話す。
「まぁ、事実は変わらない。スピーチでどうにかしよう」
「そんなにうまく行くかな?」
「大丈夫だ。僕に考えがある。四羽、一緒にやっていこう」
さっきまで分厚い雲に覆われていたが、その雲の間から針の様な綺麗な日光が差し込む。
「四羽、このまま家に行っていいか?」
「………え、ええ〜!?」
南条雀年齢16歳 南条家の1人娘
身長159cm 体重53k バストサイズ Dカップ
●山を三つ持つほどの地主の南条家。昔から白猫家とは関わりがあり、紅葉とは幼馴染。
●見た目は黒髪のロングヘア。メガネをかけており、密かにファンクラブが出来ている。しかし、本人は紅葉のファンクラブに入っているので気付いていない。