第21話 生徒会長引退!?
時間が流れるのは早い。夏休みを終えて2学期に入ると、あっという間に時間は過ぎていった。
9月に入るとすぐに文化祭があった。
それぞれのクラスが自分たちの青春を詰め込んだ出し物で、大いに盛り上がった。皆んなもそれぞれ文化祭を楽しんだ。まぁ、僕は生徒会長として多忙を極め、全く楽しめなかったが…。しかし、高校2年生の文化祭はそれなりに楽しく終えることが出来た。
そして、9月24日。この日の為に僕がどれだけ努力して来たことか…!
そう!ここから2週間後に生徒会選挙があるのだ!
「あ〜そんなのあったっすね」
「忘れてましたね。それより、今度このカフェに行ってみませんか?」
「そこ知ってるよ!友達も行きたがってた!」
「……生徒会ってこんなに興味ないのか?」
「…まぁ、正直私達には関係ないからね」
放課後、なんの用事も無いのに図書室に集まる。普段からここは人が居ない。その為、図書委員長の四羽に甘えて使わせて貰っている。
図書室の中にはソファが置いてあり、意外と居心地がいい。
久しぶりに皆んな放課後が暇だったので相談してみたが、まるで興味がない。
「はぁ…必死なのは僕だけか?」
「だってマコトっち、生徒会長っぽい事してないじゃん」
「ぐっ!」
「そうですね。先輩スマホゲームしてましたもんね」
「ぐあっ!!」
「そう言えば、あれ二奈が見つけたっすよね?振り返ってみると、やっぱり生徒会長っぽい事してないっすよね」
「がはっ!!!」
3人の言葉のナイフが心に突き刺さる。確かに生徒会長らしい事は出来ていなかったかもしれない…。
「…ま、真も頑張ってるよ!バレー部の皆んなも助けてくれたでしょ?それに…それに………。…うん、真は頑張ってる!」
三和はなんとか励まそうとしてくれる。キラキラした目が逆に辛い。
1人で落ち込んでいると図書委員の仕事をしている四羽に仕事を手伝って欲しいと呼ばれる。
埃っぽい本棚の中を探していると、脚立に乗って本棚を整理している四羽が居た。
「あ、真。ここの列の本を取りたいんですけど、背が足りなくて…」
「そう言うことか、任せろ」
四羽と交代し、本棚の1番上の列に並べられた本を取っていく。大分放置されていたのか、埃が積もっており、取るたびに埃が粉雪の様に舞う。
「ゲホッ、ゲホッ!凄い埃だな」
「何年も放置されてたみたいですからね。今回、廃棄することにしたんです。でも、1人じゃ大変で…」
「そう言う事ならいつでも頼ってくれ」
窓から日が差し込み、ハリガネの様な光の線が本棚を照らし、舞った埃がスノードームの様に宙を舞う。
最後の一冊を取り終わったところで、僕は四羽から予想もしていなかった言葉を聞くことになる。
「私、生徒会選挙に出馬しようと思います」
その言葉に、最初耳を疑った。
咄嗟に四羽の顔を見る。そこには冗談ではなく、本気の目をした四羽が居た。
突然の告白に僕は体制を崩し、脚立から落ちそうになる。
「っ!!」
「真!!」
大きな物音を立てて床に倒れ込む。目を開けると天井ではなく、四羽の顔が見えた。
倒れる僕の事を、四羽が支えてくれたのだ。お姫様抱っこの様に支えられる僕に、四羽が安堵した表情を見せる。
「良かった、痛い所はありませんか?」
「あ、ああ。ありがとう」
四羽に支えられて立ち上がる。散らばった本を拾いながらさっきの話の続きを話す。
「そ、それで?生徒会選挙に出馬するって言うのは?」
「…私、生徒会長に立候補したいんです!理由は…教えられません」
「そ、それはなん」
「…真!?大丈夫?凄い音したけど…」
そこに、物音を聞きつけた三和達が駆けつける。そこで四羽との会話は途中で終わってしまう。
○ ○ ○
次の日、四羽ともう一度話をしようとするが、廊下ですれ違う時も、教室に直接会いにいっても四羽には会えなかった。いや、避けられていると表現した方が正しいだろう。
昼休み、食堂に向かっていると、購買のパンを持って歩く四羽を見つけた。
「四羽!!昨日のことで話が!」
「!!…っ!」
僕の事を見るや否や逃げる様に走り出す。それに対抗するように僕は四羽を全力で追いかける。
途中で見失ってしまうが、行き先はなんとなくわかる。廊下を走り、階段を駆け上がる。
「はぁ、はぁ…ここまで来れば…さすがの真も…」
「さすがの僕がなんだ?」
「わぁあ!?ま、真!?な、なんで?」
「勉強ばかりしている君と違って僕は運動もできるからな!さぁ!昨日の事しっかりと聞かせてもらうぞ!」
「ぐっ…!」
屋上に逃げ込んだ四羽を捕まえて、一緒に食事をとる。
青空の下でパンを頬張りながら四羽は昨日の事について話し始める。
「き、昨日言った通りです!私は生徒会長に立候補します!」
「それは聞いた。僕が聞きたいのはその理由だ。」
四羽は理由を聞いた瞬間に、口を噤いでしまう。露骨に目線を外し、顔を赤らめる。
「…はぁ、そんなに言いづらいなら言わなくても良いよ。これからは敵同士だしな」
「……………からです」
「え?」
「真に!頼って!貰い!たいからです!」
さっきまでの静寂が嘘のように、大声で叫ぶ。勢いよく立ち上がり、何かが吹っ切れた様に四羽は理由を吐き出す。
「真は、なんでもかんでも1人で背負い込む癖があります!それが嫌なんです!だから、私が真より上の立場になって頼ってもらおうと思ったんです!もう!言わせないでください!こんな事!」
四羽はおもっきり気持ちを吐き出し、顔を真っ赤にさせる。
急な事に理解が追いつかなかったが、不意に笑ってしまった。
「ふっ…ふふっ」
「な!何がおかしいんですか!」
「いや、なんか可愛いなと思って」
「〜!!からかってるんですか?!」
顔をさらに真っ赤にさせる四羽に、僕の気持ちを伝える為に立ち上がり、気持ちを話す。
「嬉しいよ、そう思ってもらえて。でも、無理だ。」
「無理って!やってみなければ」
「無理だ。生徒会長の僕が言うんだ。悪いけど、初出馬でなれる程この席は軽くないよ」
「くっ…そんな事わかってます。」
「確かに勉強も出来るし、嫌な仕事も率先してやってくれる。でも、生徒からの人望。これだけは一朝一夕で築き上げる事は出来ない」
「…」
僕が経験して来た事をそのまま伝える。門川家の為、この席に着く為に、僕がどれだけの努力を費やしてきたか。
四羽は俯いてしまう。拳を力強く握りしめているのが見える。僕のために勇気を搾り出してくれた。だから、僕もそれに応える。
「…だから、副会長として立候補してくれないか?」
「え?」
「副会長なら僕も頼らざるを得ない。勇気を振り絞ってくれた事は伝わる。だから、生徒会の右腕となって支えてくれ」
「!!…ええ、わかりました!では、私は副会長になります!」
四羽の顔に明るさが戻る。そんな顔を見るだけで、こっちも元気が湧いてくる。
「まぁ、それでも厳しいかもね」
「うぅ…私も頑張りますよ…」
「いや、今回に関しては僕も生徒会長になれるかわからない」
「え?それはどう言う事ですか?」
生徒会長を目指す者は僕以外にもう1人いる。現在の生徒会副会長。彼女がいる限り、僕が生徒会長になれる可能性は低い…。
「副会長、今回の選挙はどうなさいますか?」
「そうですわね…門川真くん。彼は潰させていただきますわ」
こうして、真と四羽は生徒会選挙なら挑む事になった。
既に選挙の火蓋は切って落とされた。