第19話 お祭りは何度行っても楽しい!
太陽がアスファルトを照らし、地面からの熱気が体を包む。汗が首筋に沿って流れ落ちる。
クラクラする程の暑さの中、五花の家へと急ぐ。
「あ!マコトっち!やっと助けが来たよー四羽が鬼なんだよー!」
「鬼とは何ですか!?五花がしっかりやらないからです!」
「お姉ちゃんも!早く終わらせちゃいなよ!」
「えぇー二奈、もうちょっとゆっくりでも…」
「…私も少し休憩…」
冷やされた五花の部屋で5人はそれぞれ課題に取り組んでいた。
しかし、予想はしていたが、あまり進んでいない。期末テストがあの調子だったから当然と言えば当然なんだけど。
「マコトっちも来たし、休憩がてらゲームでもしない?マコトっち何やりたい?」
「何言ってるの?課題、やるでしょ」
「…ふぇ?」
僕は机の上に持ってきた課題を叩きつける。それを見て一華、三和、五花は固まる。
「残念だったな。僕は助けなんかじゃない、四羽と同じ鬼だ!」
「そ、そんなぁ〜!」
「ちょっと!?真まで私を鬼だと言うんですか!?」
机に向かって黙々と課題を進める。しかし、15分、10分、5分と集中力が続く時間が少なくなっていく。
「やっぱり無理ー!もうやりたくなーい!」
「もうちょっと頑張れよ」
「無理!じゃあご褒美頂戴よ!」
「なんで課題やっただけでご褒美なんだよ」
「良いじゃん!無かったら出来ない!」
「そうだな……じゃあ1番早く課題をやった人にご褒美をあげようかな?」
『『!!』』
何故か僕の言葉に一華と三和が反応する。五花と一華、三和は凄い速度で課題に取り組み始める。
「一華?もうちょっとゆっくりやるんじゃなかったの?」
「三和こそ、休憩したほうがいいんじゃないっすか?」
…真からご褒美が貰えるなら何でもする!…それに、真はご褒美の内容を決めてない。
…つまり、私が望むことを何でもしてもらえる!…合宿の時は密着しただけだった…でも、今度は……!
真からのご褒美!?それは話が変わってくるっす!リゾートの時は壁ドンで終わっちゃったっすけど、次はドキドキさせてあげるっす!
「お、お姉ちゃんと三和が凄いスピードで課題を終わらせていく!?」
「す、凄い。やっぱり真は人をやる気にさせるのが上手いですね!」
「こ、これは僕関係なくないか?」
さっきまで真っ白だったノートが問題の答えで埋まっていく。ペンの書く音とページを捲る音が騒がしく聞こえる。
2人のスピードは落ちるどころか、上がっていく。バチバチと視線が火花を散らす。
この、一華と三和の目に見えない激戦はある1人の一声によって終わりを迎えるのであった。
「マコトっち!課題終わったーー!」
「え?」
「は?」
「よ、よし!五花が1番早かったな!じゃあ五花はご褒美は何が良い?」
「私、明後日の花火大会に行きたい!」
「そ、そんなー!」
「…ま、まさか五花が覚醒するなんて……」
こうして、一華と三和の思惑は砕け散り、五花の要望で花火大会へと行く事になった。
○ ○ ○
8月18日16時半。花火大会の最寄駅で待ち合わせる。
辺りには、浴衣を着た女性。お面を被って走り回る子供たち。花火大会は18時からなのに、既に多くの人で賑わっている。
人混みのせいで、空気が蒸し暑く息苦しさを感じる。
スマホを見て時間を潰していると、周りの人たちがどこかに注目しているのがわかった。皆んな誰かを見ている。スマホから目線を外して、その方を見るとそこには綺麗な5人の浴衣姿が見えた。
一華と二奈が姉妹同じの桜の花柄の浴衣。三和は白百合の花柄の浴衣。四羽は蘭の花柄の浴衣。五花は梅の花柄の浴衣。
それぞれ色鮮やかで美しい花の浴衣を着ていた。確かに、その浴衣姿には目を奪われる。
「マコトっちお待たせ!着付けに時間掛かっちゃった!」
「先輩は普通の服装なんですね?私達みたいに浴衣着ないんですか?」
「僕はそう言うのに興味ないって言うか…」
「…真!…ゆ、浴衣どう…かな?」
「あ、ああ。似合ってるよ。とても綺麗だよ」
「ま、真!私はどうっすか?」
「一華も綺麗だよ。本当に似合ってる」
真の感想を聞いた2人の顔が徐々に熱っていく。そんな姿を見た周りの人から謎の視線を感じる。特に男からの視線が痛い。
「と、とりあえず行こうか」
「そうですね、行きましょう。屋台も巡りたいですし」
「よーし!屋台全部制覇するぞー!」
会場は、屋台が並んでいる大通りとその先にある河川敷の二つに分けられていて、どちらも多くの人で賑わっていた。
僕たちは、まず先に屋台を見て回る事にした。
「何でもありますね。あ、私りんご飴食べたいです!」
「私はチョコバナナ食べたい!お姉ちゃん買いに行こ!」
「いいっすね!あ、射的もあるっす!真!一緒にやるっす!」
「え?ああ、良い」
「…真、私と一緒にかき氷食べない?ほら、2人で行けば2つの味が楽しめるよ?…私があーんしてあげる」
「三和〜?真は私と射的するんす。1人でかき氷は食べたらどうっすか?」
「…一華こそ、射的は1人でするものでしょ?それに、二奈が居るから良いじゃん」
2人は真の腕に絡みつき、真を取り合う。真の両腕に2つの柔らかくて大きいものが、ぎゅうぎゅうと押し付けられ、体が燃える様に熱くなる。
そこに、五花が割って入り、真を連れて行く。
「私のご褒美だもん!マコトっちは私がもらって行くよー?」
「ちょ、ちょっと待てよ」
「マコトっちはついてくれば良いの!」
「あっちょっと!あんまり遠くに行くと…行っちゃったっすね」
「…一華が邪魔しなかったら上手くいったのに」
「それはこっちのセリフっす!」
「お姉ちゃんも三和も、何やってるの?」
2人で先に進むと、先程よりも人が多くなり、前が人で見えなくなる。気づいた時には真の姿は見えなくなっていた。
より一層熱が籠り、ジメジメとした暑さが辺りを漂っている。人と肩がぶつかり、まるで川の激流の様に流される。
「痛っ!ま、マコトっち!どこ!?」
人混みに流されてマコトっちと逸れてしまった。辺りを見渡しても見つからない。どうしよう。
誰かに押されて息が苦しくなる。怖い、また迷子になってしまいそうで。涙目で必死に人混みを抜けようと踠く。
その時、私が伸ばした手は力強く掴まれた。
「五花!大丈夫か!?着いてこい!」
「ま、マコトっち…」
ようやく人混みから抜けた2人は、道の端に移動して縁石に腰掛ける。
4人への電話を終えた真が帰ってくる。
「はぁ、すごい人だな。大丈夫か?」
「う、うん!大丈夫…痛っ」
「!?何処か痛めたのか?」
「さっき足を踏まれちゃったみたい…」
五花の足首を見ると少し赤く腫れていた。少し涙目になって、不安がっている五花を初めて見た。
「ちょっと待ってろ!冷やせる物持ってくる!」
そう言い残すと真は近くのコンビニに行き、氷と包帯を買ってきた。
買ってきた物で応急処置をしてくれる。氷で冷やされているのに、体は熱くなっていく。
真が私の裸足を触るたびにその熱が上がっていく。
「これでとりあえず大丈夫だな」
「ありがとうマコトっち。…皆んなは何で言ってた?」
「ああ、皆んな五花を心配してたぞ。皆んなには先に河川敷に行ってもらった」
「そっか。………ごめんね。私のせいでこんな事になっちゃった」
「まぁ、五花が1番楽しみにしてたからな。はしゃぐ気持ちもわかるよ」
「……マコトっちは優しいね。………ぐすっ」
横を向くと五花は涙を流していた。そのまま真の二の腕に顔を埋める。
「ごめんね。私のせいで逸れちゃった。逸れた時、私怖かった。また、迷子になっちゃうと思って…」
泣いている五花の頭を優しく撫でる。今の真にはそれしか出来なかった。
人で溢れかえり騒がしい中、2人は取り残された様に座る。花火開始まで残り30分を切っていた。