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許嫁ガチャは⭐︎5だらけ  作者: 我妻 ベルリ
第二章 恋のトロピカルサマー編
18/75

第17話 さよなら夏の亡霊

 8月11日。日朝祭り2日目

 昨日は疲れていて、売り上げを見る事はなかったが、昨日だけでも多くの人が祭りに来てくれた。売り上げも相当な筈だ。今日も順調にお祭りを開催できる。

 そう、全て上手くいく筈だった。

 朝、身支度をしているとスマホから着信音が鳴った。相手は七海のお父さんだった。


 「おはようございます。どうかしましたか?」

 「真くん!大変だ!商店街の従業員が集団食中毒に!」

 「……っ!!!」


 昨日の夜、商店街の従業員同士でお祭りが終わった後、試食会を開いたらしい。そこに参加した商店街の従業員、約14人が食中毒になった。

 食中毒になったのが、従業員だけだったのが不幸中の幸いだ。お客さんがなっていたらお祭りはすぐに中止になっていただろう。

 それでも、日朝商店街の出店は販売中止。地域の人も楽しみにしていたのに。日朝商店街が無いのに日朝祭りと言えるのか。

 

 「僕の…せいか?」


 誰かに聞かれているわけでもないが、ぽつりと部屋で1人呟いてしまう。

 昨日、途中でバレー部に交代してしまった。管理者の僕がしっかりと仕事をしていれば阻止できたのではないか。僕は昨日、祭りを運営できたと言えるのだろうか。

 絶望的な状況で日朝祭りは2日目を迎える事になった。


 「キッチンカーやってまーす!色んなお食事ご用意してまーす!」

 

 数が半減してしまったが、残っているキッチンカーでなんとか客を集める。

 しかし、呼びかけても限界がある。やはり昨日より人が少ない。ライブもあるが、昨日よりインパクトが薄い。まさに、八方塞がりの状況だった。

 昨日の罪滅ぼしをするかの様に、仕事に没頭する。衛星チェックは隅々まで行った。集客のためにポスターを配り歩いた。パトロールも細部まで見渡した。


 「先輩!お姉ちゃんのライブ始まりますけど?…大丈夫ですか?」

 「はぁ、はぁ。大丈夫だ。よし、ライブ会場に行こう」

 「マコトっちだめだよ!少しは休まなきゃ!汗凄いよ?!」

 「真、水分は摂りましたか?この暑さです。熱中症になってしまいますよ!」

 

 五花に言われて、自分が大量の汗をかいている事に気がつく。言われてみれば、水分を摂ったのは何時間前だろう。

 でも、今はそれよりも仕事だ。やる事をやらなきゃ。これ以上はミス出来ない。

 

 「門川さん。すみません、少し来ていただけませんか?」

 「はい!わかりました!」

 「ちょっと!?先輩ダメですって!」

 「大丈夫だ!ライブ開始まで、後30分だろ?間に合わせるから」

 「そう言うことじゃ!ま、待って…」


 二奈の忠告を無視して、呼ばれた所へ向かう。僕にはもう、後がないんだ。

 頼まれた仕事を終えて一華のライブ会場に向かう。

 その時、目の前がぐらっと揺らぐ。足から力が抜けて、日光に熱された地面に倒れ込んでしまう。視界が段々と暗くなっていき、意識が遠くなる……。




 あれ?ここは?

 目を開けると、見慣れない天井が見えた。

 そこはプールの休憩用テントだった。起きあがろうとすると頭にズキンと痛みが走る。


 「起きた?真くん。」

 「あれ、七海?なんで…祭りは?」

 「何言ってんの?転んでおかしくなっちゃったの?」

 

 そうだ。僕ははしゃいでプールサイドを走っていたら、転んだんだ。ずっと七海と遊んでいたんだ。

 でも、何故か………何か大切なことを忘れている気がする。


 「真、大丈夫だよ。私がいるからね」




 目を開けると、見慣れない天井が見えた。

 そこは、休憩所のベンチだった。起きあがろうとする僕の体を手で押さえつけられる。


 「ダメだよ、真くんまだ休んでなきゃ。倒れるくらい働いてたんでしょ。」

 「な、七海?なんでここに?」

 「お父さんから食中毒の事聞いて、心配になって来たんだよ?真は頑張りすぎちゃうから。そしたら、目の前で倒れてるんだもん。」

 「…そうか。僕は倒れて…そ、そうだ!今何時!?」

 「え?えっとね、12時25分だよ?」


 12時から始まって、ライブ終了は30分。つまりあと5分。まだライブに間に合う

 僕が立ち上がって会場に行こうとするが、七海に手首を掴まれて止められてしまう。


 「言ったよね?まだ休んでなきゃって。どこに行くの?」

 「ライブが終わる前に行かないと、きっと観客は昨日より少ない。集客しなきゃ!」

 「落ち着いて。今から行っても変わらないよ。」

 「それでも!僕がやらなきゃいけないんだ!」

 「………真、大丈夫だよ。私がいるからね」


 その言葉を聞いてはっとする。その言葉はさっき…。

 七海に手を引かれながらライブ会場へと向かう。

 そこには、僕の予想を上回る観客がいた。Love Princessのファンだけじゃない、地元の観客も。


 「な、なんで?」

 「それはこれからわかるよ。じゃあ、ちょっと行ってくるね!」


 そう言うと七海はどこかに行ってしまった。

 1人でライブを観ていると、ステージで一華がマイクを持って話し始めた。


 「ここからは、急遽開催!『日朝祭り恒例!歌自慢大会』の始まりでーす!」

 

 一華の宣言に会場が沸き上がる。

 状況が飲み込めずにいると、ステージに5人ほど一般の人が上がってきた。その中には、七海も居た。


 「では、行きましょう!最初のチャレンジャーは日朝七海さんです!」


 七海はマイクは美しい歌声を披露した。観客全員が七海の歌声に心を奪われた様に、恍惚した表情を浮かべていた。

 その後、ライブは大成功を収めた。日朝祭りの目玉企画である歌自慢大会は、ライブの始まる15分前に告知されたのにも関わらず、多くの人が集まった。

 そして17時になり、日朝祭りは無事に2日目を終えることができた。

 片付けをしようとしてが「休んでなきゃダメだ!」と叱られてしまい、仕方なくベンチで休む事にした。


 「あ、真くん。お疲れ様」

 「七海もね。まさか、あんな方法で観客を集めるとは」

 「あれはね、真が倒れて困ってた時に5人の許嫁ちゃん達が助けてくれたんだ。その時に、私が歌自慢大会を提案したんだ。」

 「え?皆んなが?」

 「そうだよ。皆んな凄い心配してたよ?それに、少しでも役に立ちたいって。だから言ったんだ。」


 僕は何も出来なかった。自分の力不足で食中毒を引き起こした。自分が倒れた事で皆んなに迷惑をかけた。自分がしっかりしていれば。


 「あ!その顔!『自分がしっかりしてれば!』って思ってるでしょ!」

 「えっ?い、いや…その」

 「やっぱり思ってたんだ!」


 正確に言い当てられて驚いてしまう。図星だ。でも、実際に僕が…


 「真が倒れたから手伝ったんじゃないよ?真の役に立ちたいから皆んな動いたんだよ」

 「!」

 「真が助けてくれたから。真が頑張ってくれたから。それに応えたいと思ったから。真の()()でじゃない、真の()()()やった事だよ。だから、落ち込まないで?真の行動、言葉に周りは充分助けられてる」


 その言葉に涙が出てくる。何も出来てないと思ってた。変わっていないと思っていた。

 「少しは自分を認めてもいいのかな」そう思えた。

 そこに、僕たちを見つけた一華が遠くから走ってくる。


 「真ー!大丈夫っすか!?倒れてから心配すぎて上手く歌えなかったっす!」

 「大丈夫だよ。心配かけてごめんね」

 「そんなのいいっす!さ、皆んなところ行くっすよ。皆んな心配してるんすから」

 「ちょっと待って!」


 僕の手を握って、皆んなところに行こうとする一華と僕を七海が呼び止める。


 「真くん。2人でまた、散歩しないかな。話したいことがあるんだ。」

 「え?まぁいいけど」

 「ダメっす」

 「え?一華?」


 一華は握っていた手を離し、僕の腕に絡みつきながら言った。


 「真は……私の許嫁っす!昔に何かあったのかもしれないっすけど、真は譲れないっす!」


 顔を真っ赤にして宣言する一華に僕も釣られて顔を赤らめてしまう。

 オレンジ色の夕陽が差し込む。


 「…ぷっ。あははは!」

 「な、何笑ってるっすか!」

 「いや、可愛いなって思って!でも、大丈夫だよ。あなたの真には何もしないから」


 一華はその言葉を聞いて渋々腕を離す。

 そして、僕と七海はあの日の様に砂浜を歩く。


 「いやー、色んなことがあったね。あの時みたいにまた楽しい夏休みになったよ」

 「僕は散々だったけどね」


 2人の笑い声が砂浜に響き渡る。オレンジに染まった砂浜に2つの足跡をつける。


 「ねぇ真くん。私の事………どう思ってる?」

 「…何もしないんじゃなかったのか?」

 「ちゃんと言ったよ?一華さんの真には何もしないって。今は、私だけの真くんだもん。」


 そう言うと、七海は歩くスピードを早めて七歩先で振り返った。


 「私は真くんが好き。私と付き合ってくれない?」


 夕陽に照らされた彼女はとても綺麗だった。風で髪がなびき、まるで絵画のようだった。

 今回、七海と出会ってなければ全て始まっていなかった。何度も助けられた。それに、昔は彼女が好きだったと思う。初恋の相手は七海だった。

 でも、僕の答えは決まっている。


 「ごめん。気持ちはありがたいけど、僕にはあの5人がいる。だから、付き合えない。」

 「うん。知ってたよ。………あれ?知ってたはずなのに…。なんで、こんな…。うぅぁっ!」


 七海の気持ちが溢れた様に涙が流れた。一粒一粒が夕陽に照らされてキラキラと光る。


 こうして、七海と僕の夏は終わりを迎えた。

 

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