第14話 幼い記憶〜麦わら帽子〜
7月31日。僕は遊びに来ていた二奈たちのホテルに向かった。部屋に入ってまず、僕は頭を下げていた。
「せ、先輩が、頭を下げている!?」
「し、信じられません!」
「な、何があったの?マコトっち!」
困惑する3人にこれまでの経緯を説明する。僕はイベントを成功させる為に3人に助けを求める事にした。
前の僕だったら、こんな事は絶対に思いつかなかった。知らず知らずのうちに僕も変えられていたのかもしれない。
「っと言う事でイベントなら時に、五花にはキッチンカーを、二奈にはポスターのデザインを用意して欲しい。無理を言ってるのは、わかってる。でも、俺は諦めたくない。全部やっておきたい。頼む、力を貸してくれ」
「先輩…顔をあげてください。今まで助けてもらってきたんです。このくらい、なんともないです!」
「そうだよマコトっち!私も迷惑かけてるからね!すぐに知り合いのお店に電話してくるよ!」
「………ありがとう」
親同士で勝手に決まった許嫁、だった筈なのに。この関係がただただ、楽しい。窓から見える海は輝いて見えた。
「あ、あの?真?」
「ん?なんだ四羽?」
「私は何をすれば良いですか…?」
「………。考えとく」
「〜っ!?何も考えたなかったんですか!?あーあ、私やる気になったたのになぁー?」
「わ、わかった!そうだな………四羽は、その計算力を活かしてキッチンカーの予算、ポスターの枚数とかのデータを纏めてくれないか?」
「わかりました。真、頼ってくれてありがとう!」
四羽の言葉で自分の中にあった罪悪感を消すことが出来た。1人でずっと頑張ってきた四羽だったから、こんなに心から安心したのかも知れない。
時刻は既に16時になっていた。急いで自室に戻り、今日の業務に取り掛かる。日中はイベントの準備で時間を使ってしまった。
パソコンを開いて通常業務をこなす。売り上げの確認に、レストランの発注確認。プール設備の点検依頼に、取引先からのメッセージ対応。画面に映し出される大量の文字と数字に、脳が爆発しそうだった。
ピロンっとスマホの通知音が鳴る。そういえば昨日からスマホを確認していない事を思い出す。
メールを確認すると三和から33件のメッセージが送られてきていた。慌てて返信すると、すぐに既読になった。そして怒りのメールが送られてきた。
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16:33
< 白百合三和 ☎︎
【すまん、返信出来なくて。 忙しかったんだ】
【…真、今まで何したたの?】
【だ、だから仕事を…】
【…私のメールも無視するくらい?】
【そ、それは………】
【ごめん。本当に気づかなかったんだ!】
【ふーん。じゃあ今から部屋行くね?】
【え?】
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部屋のインターホンが鳴る。恐る恐るドアを開けると、そこには練習終わりの三和が立っていた。ちょっと怖い。
「…本当に忙しそうだね。…でも、それとこれとは別。無視はひどいよ」
「ご、ごめんって。そ、その…仕事がまだ残ってて…」
「…はぁ…いいよ、手伝ってあげる。今日ちょっと早く練習終わって時間あるし」
簡単なメールの返信などを2人でこなしていく。
「はぁー、終わったー!」
「…やっぱり大変なんだね。凄いよ、これをやるだけじゃなくてイベントもやろうなんてしてるなんて」
「ああ。それなんだけど、働いてくれる人手が欲しいんだ。何か当てはないか?」
「…うーん。…私達は?うちのバレー部なら協力出来るんじゃない?」
「え?でも、練習は?」
「うーん。前に1日だけオフを設けるって監督言ってたからその日に皆んなでやれば。皆んな体力あるし、真のお願いなら聞いてくれるよ」
そんな事をして良いのか。自分の事情に彼女たちを巻き込むわけには…
「三和。」
「…え!?は、はい」
「一昨日の散歩の時はごめん。あの時は色々あって、疲れたたんだ。誰にも頼らずにまた、1人でやろうとしてた。でも、頼っても良いって皆んなが教えてくれた。だから、僕に協力して欲しい」
「……もちろんだよ!…一緒にお願いしてあげる。…でも、急にどうしたの?落ち込んだと思ったら、すごく元気だし」
「そ、それは…。昔の友達…と会ったからなんだ…」
三和に七海との事を話した。
「…そんな人が居たなんて…。…わかった、私がその人の顔にスパイクを…」
「なんで皆んなそんなに好戦的なんだよ!」
「…え?皆んな?」
「あ、いや!何でもないよ」
「…ふぅーん。でも、その人ってここのお客さんなんじゃないの?真なら調べられるんじゃない?」
「………三和、天才。確かになんで気が付かなかったんだ!今、パソコンで調べればわかるんだ!」
直ぐにホテルに泊まっている人のリストを確認する。これで彼女のことがやっとわかると思った。しかし、結果は予想とは違った。
「…七海なんて人はホテルに居ない?じゃあ、七海は一体?」
「…うーん。…泊まる必要がないとか?近くに住んでるとか、ここに何らかの関係を持ってるとか」
三和に言われて、頭の片隅から薄っすらと記憶が蘇ってくる。
確かあの日、彼女と別れる時に誰が迎えにきたんだ。祖父と誰かが彼女を探していて…。
ようやく忘れていた事を思い出した。そして、門川リゾートの過去の文献を調べる。
18時07分。彼女が何処に居るかなんてわからなかった。でも、確信があった。またここに来たら会えるんじゃないか。そう思い、売店に歩いていく。
そこには麦わら帽子を被った彼女がいた。
「…え!?真くん!?な、何でここに居るの!?」
「こんにちは、七海。いや、日朝七海さん」
「………。」
「まぁ、少し歩かないか?」