第11話 かわいい歌姫と孤高のキャプテン
「君だけを〜♪ 愛してる〜♪ こっちを見てくれなきゃ〜嫌っ!私だけを見て〜よ〜♪♪」
彼女達のダンスと歌を僕は体育座りで聴いている。横でマネージャーが頷いている。まるで、彼女達は売れると確信した様に。まぁ、その気持ちもわかる。確かに全員顔は整っているし、ダンスもピッタリ揃っている。そして、センターの子。かわいい歌姫担当の一華の歌唱力がチーム全体の完成度を高めている。推し活しようかな。
「ありがとうございました!どうでしたか?私たちの歌は。」
「とっても良かったです。ダンスもピッタリ揃ったましたし、歌も綺麗。皆さん美人ですし、笑顔が輝いて見えました。アイドルに興味なかったんですけど、これを機に推し活始めてみようかな。」
「えぇー!?うれしー!門川さん?でしたっけ。年齢私達と同じくらいですよね?」
「17歳です。2週間だけ、ここの運営を任されています。」
「すごーい!それにちょっと良くない?私結構アリかもー!」
「彼女居ます?もし良かったら連絡先交換しません?」
「あなた達やめなさい!困ってるでしょ?ここから10分休憩にするから。門川さん。ありがとうございました。これからもよろしくお願いします。」
「いいえ、こちらもよろしくお願いします。」
挨拶を終えてスタジオを立ち去る。廊下を歩いていると、後ろから凄い勢いで走ってくる音が聞こえる。後ろを振り向いた瞬間にドンッ!と廊下の壁に貼り付けられ、壁ドンされる。遊園地でもこんな事があったな。
「どうしました?かわいい歌姫担当の一華さん。」
「………くっ!…真くん?なんで居るのかな?」
「さっき言った通りだよ。ここの運営を任されたんだ。ここは祖父の経営するリゾート地だからな。」
「……名前が門川だったから、もしかしたらと思ったっすけど。まさか、真が来てたなんて…恥ずかしくて死ねるっす!////」
「可愛いかったよ?かわいい歌姫さん。」
「それで呼ぶなっす!!」
彼女の顔は、今までに無いくらい真っ赤になっている。プルプルと恥ずかしさを我慢していた。
「そ、その、真。この事は絶対に皆んなには言わないでくれる?」
「なんで?恥ずかしい事じゃ無いと思うけど?」
「いや、まだ駆け出しだし、歌もヘタだから…。」
「僕は一華が1番歌上手だと思っけどな。」
「………っ!!!………あ、ありがとう。////」
「一華ー?もう直ぐで練習再開するよー?って、ええー!?壁ドン!?ちょっと皆んな!一華がっ!」
さっきのスタジオから、メンバーの子が一華を呼ぼうと顔をひょっこりと覗かせた。壁ドンしている一華とされている僕を見て、メンバーの子は叫びながらスタジオに戻る。
「なっ!?こ、これは違うっすよ!?あぁ〜!もう!と、とりあえず真!内緒っすからね!約束っすよ?後で連絡するっす!」
一華は慌ててスタジオに戻る。確かに、二奈から歌が上手いとは、聞いていたが。まさか、アイドルをやってたなんて。……にしても、かわいいかったな、アイドル一華。後でCDでも買おうかな。
スタジオを後にして、僕は次に部活の合宿をしている体育館に向かった。
まぁ、どこの学校の何の部活が来ているか。何となくわかる。体育館の扉を開けると、高く張られたネット。女子部員の力強い掛け声。地面に打ち付けられるバレーボール。まぁそうだろうな。ここまで来たらもう驚かない。百花学園の女子バレー部だ。全国大家にも出場するほどの強豪。
僕の存在にバレー部の監督は驚いた顔をして近づいてくる。
「門川!何やったんだこんな所で。」
「先生、こんにちは。実は、このリゾート施設は僕の祖父が経営していて、僕は2週間だけここの運営を任されたんです。この合宿のサポートをさせて貰うので、挨拶に来ました。」
「そ、そうだったのか。確かに門川と書いてあったな。まさか、こんな偶然があるなんてな!それに、生徒会長のお前にサポートしてもらえるなら部員も安心する。よろしく頼むよ。おーい!全員集合!!」
一斉に練習がストップし、僕と監督の元に走って寄ってくる。さすが全国に進むほどの女子バレー部。60人ほどいる巨大な部活なのに、組織全体が軍隊の様にまとまっている。そして、それをまとめるのは…
「…え!?真!?…な、何でここに」
「え?あれ、生徒会長じゃない?何でいるの?」
「本当だ!ここ門川って名前だったけど、本当に会長の施設だったのかな!」
「会長がいるなら私頑張れるわー!」
監督が僕の事情を話してくれる。皆んな僕の事を知っている為、驚きの声と歓声が混ざって聞こえてくる。その中で複雑な顔をしている三和が居た。
「本当に会長のリゾート地だったなんてねー!ねぇ、どんなサポートしてくれるの?」
「そ、そうだな。宿舎は綺麗で清潔にしてある。練習後のケアも完璧に備わっているし、食事もバランスの取れた…」
「そうじゃなくて!会長は?私たちに何してくれるの?」
「え?ぼ、僕は…。」
「マッサージとかぁ?私、太腿が筋肉痛なんだよねー。会長やってよー!」
「あんたそれは、流石に………アリね。」
「無しだろ!」
全体の挨拶が終わった後、休憩に入ると、僕は女子部員に囲まれて質問攻めに会う。皆んなの圧が強くて少し怖い。
「…ねぇ。ちょっと良い?合宿の事で確認したい事があるんだけど。」
「あ、ああ。」
「えぇー?行っちゃうのー?」
「それにしても、さすがキャプテン。今日もクールだよね!会長を目の前にしても動じないなんて!」
三和に付いて行き、体育館を出た所にある倉庫の中に入る。薄暗い倉庫の中は、体操用のマットやバスケットボールの入った籠などが置かれていた。
ドスッ。僕は体操用マットの上に突き飛ばされる。ガチャンと扉が閉められて、三和が僕の上に、四つん這いになるように覆い被さる。壁ドンの次は押し倒されるのか。
「……真、久しぶり。…元気そうだね。」
「み、三和?僕はなんで押し倒されてるんだ?」
「…さあ。…自分の胸に聞いてみたら?」
「……僕が、他の子と話したたから?」
「…違う。…私より先に他の子と話したから。…ずるいよ、私の方が真と話すの楽しみにしてたのに。」
「そ、それは…。」
「…だから、私の事を意識させてあげるね?」
「え?」
そう言うと、三和は僕の体に重なるように上から乗っかる。僕は三和に下敷きになる。三和の重み、フワッと香る甘い芳香剤の香り。そして密着した柔らかい感触。グッと顔が近づき、お互いの鼻息が顔にかかる。
「ちょっ!!み、三和!流石にこれはなんでも!」
「…な、何?私は、大丈夫…だよ?それとも真は恥ずかしいの?」
「…いや、三和も顔も耳も真っ赤だぞ?」
「…っ!!!」
薄暗い倉庫。体操用マットで重なり合う男女。さすがに、色々とまずい。この場をどうにかしなければ。しかし、男女顔負けの力で押さえ付けられていて、びくともしない。
「…真の力じゃ、私は退かせないよ?…私、も、もう。我慢…で、出来ない…。」
「あれー?キャプテンどこ行ったのかな?」
『『!!』』
ドアの外から声が聞こえる。まずい、今の状況を見られるのは!
「あっちかな?そろそろ休憩終わるし戻ろっか?」
「そーだね、会長も居ないし。まぁそのうち会えるか!」
「………み、三和?そろそろ戻らなきゃじゃ無いか?」
「…もうちょっとだったのに。」
部員がどこかに行った後、ようやく三和が体を起こす。僕の心臓の音はうるさい程に高鳴っていた。あまりに急な出来事で理解が追い付かない。こんな積極的だったっけ?
「…じゃあ戻るね。…また連絡する。」
それだけ言い残して三和は練習に戻って行く。倉庫に取り残された僕は、色んなものを落ち着かせてから倉庫を出る。
2人に心を乱されながらも、挨拶をし終える。特に予定も無いが、一つ確認しておきたい事ができ、スマホでメッセージを3件送る。
「やっぱり、常連客はお前達だったか。」
「ほ、本当に先輩がいるなんて…。」
「それに、真が経営を任されているなんて。明日には潰れそうですね?」
「マコトっち大丈夫なの?3倍なんて数字。素人の私でも無理だと思うんだけど。」
「まぁな。なんとかするさ。そんな事は気にしなくて良い。3人はお客様なんだからな。」
「確かにそうですね。でも、先輩も無理しないで下さいね。」
二奈、四羽、五花は、やはりうちの常連客だった。結局、全員集まることになるとは。三和と一華が来ている事は伝えなかった。一華に関しては、勝手に伝えたら殺されそうだ。
ホテルの部屋の中では、4人の笑い声が響いていた。一日で色んなことがあったが、3人と話していると、気づいた時には少し落ち着いていた。
3人とホテルで話した後、僕は自室に戻ろうと廊下を歩いていた。結局5人と同じ場所に来るなんて、どんな運命だろうか。明日からの運営が不安になる。自分の部屋に着き、ドアノブに手を掛けた時。横から声をかけられる。
「やっぱり。久しぶりだね、門川真くん。」
「!君は…!」