第9話 今日はトクベツ④
2029年 6月28日。時刻は午後6時10分。
2人は、明日に控えた結婚式の準備を進めていた。あの日。お見合いで出会った日からもう5年の月日が流れたのだと思うと、時間と流れの速さをしみじみと実感する。そんなことを考えながらぼーっと時計を見ていると、彼女がそんな僕に気づいて心配してくれる。
「真?大丈夫?もしかして、緊張してる?」
「まぁな。人生に一度の大切な日だし。でも、もう5年も経ったことに1番驚いてるかな。」
「うん。そうだね。5年前か…。丁度そこの写真。5年前に行った、遊園地の集合写真じゃない?懐かしいね。」
額縁に入った1つの写真は、遊園地の帰りに撮ってもらったものだ。そう言えばあの時も、いろんな事があった。そう、あの時の、試着室の出来事は今でも覚えている。そう。君を引き当てた時から、僕の答えは決まっていたのかも知れない。
○ ○ ○
2024年 7月15日。時刻は午後6時29分。
お店の中でそのまま、洋服やお土産を見ていると、雨は知らぬ間に止んでいた。その後、夕食を摂るためにレストランに入った。流石は日本一の面積を持つ遊園地。様々な国の料理があり、皆んなバラバラになりそうだったのでフードコートに来た。様々な料理があり、それぞれ好きな物を食べた。
「う〜ん!美味しいです!やっぱり中華ですよ!」
「四羽はわかってないっす!フランス料理が1番っすよ!」
「この、チャモロ料理?美味しいですよ?三和食べますか?」
「…どこな料理?それ。…私は普段は体重制限してるけど今日は解禁。…ファストフード食べまくる!…真は?何食べてるの?」
「え?ああ。イタリア料理だな。この、ピザとパスタ美味しいぞ。三和にも食べてみるか?」
「…い、良いの?じゃあ貰うね?」
「あ、マコトっちと私の料理同じじゃん!やっぱ、真はわかってるねー!じゃあ、私も一口!」
「一緒なのに!?あ、ちょっ!そんなに持って行くなよ!」
少し前まで、こんな騒がしい食事をする事になるなんて思っていなかった。こんなに、うるさくて、楽しい食事はした事がなかった。
時間は午後7時35分。パレード見るために移動する。場所を確認しようとスマホを取り出すと、ポケットからあの紙が誤って落ちてしまう。
「ん?先輩、なんか落ちましたよ?…ん?これは…。」
「あ!ちょっと、み、見ないでくれ!」
二奈が紙を広げる。それは、今日のために考えてきたプラン。端の方まで、彼女達を楽しませようとするアイディアをメモ書きが、びっしりと書かれていた。
●遊園地のプラン
◯一華は頼り甲斐がある。だから、周りに目がいって楽しめない可能性アリ。十分注意する。
◯ニ奈は遠慮してしまうかも。積極的にアトラクションに誘う。
◯三和は普段から努力し過ぎるところがある。途中で疲れていないか、無理をしていないかよく確認。
◯四羽はアトラクションよりもお店やパレードの方が好きかも知れない。ゆっくりと出来る場所も考える。
◯五花は絶対にはしゃぐ。ジェットコースターなど激しい物にも一緒に乗る。
「こ、これは。…なんだ。マコトっちは最初から、しっかり私たちの事考えてくれてたんだね。」
「そうっすね。こんなに真剣に考えてくれる人他に居ないっすよ。」
「……プラン通り回らなくてごめん。でも、考えてくれただけでも、私達嬉しいよ。」
「そうです。……なんだか本当に、真に助けられてばかりですね。私達。」
「………そうだね。でも、そんな先輩だからこそ、こう言う気遣いが出来るんだと思います。どうでしたか先輩。今日は楽しかったですか?」
「………あ、ああ。み、皆んなの…お陰で、た!…楽しかったよ。」
僕の照れた顔と、普段じゃ絶対に言わない言葉を聞いて皆んなが笑う。それに釣られて、僕も恥ずかしさなんて忘れて一緒に笑う。今日だけで何回笑顔になれたのだろう。
パレードが始まり、夜空に咲き誇る花火。鮮やかに彩られたライト。クマやウサギが音楽に乗ってダンスする。全ての光景が新鮮だった。感じた事のない満足感。それを感じれた理由はこの5人だ。6月29日。お見合いをした日から、2週間程経った。許嫁候補の好感度は、どうやらカンストしているみたいだ。
「はぁー綺麗だったー!最後の花火なんてちょーデカかったね!」
「そうですね。久しぶりに来ましたけど、何度来ても楽しいものですね。」
「…うん。また皆んなで来ようよ。…真も来てくれるでしょ?」
「…そうだな。その時はちゃんとプラン通り動いてくれよ?」
「あはははっ!先輩。多分またバラバラになっちゃうと思いますよ?」
「勘弁してくれ!」
園内の出口へと歩いて行く。何故か、名残惜しさや寂しさは感じない。
「って言うか、また来る時には真が、許嫁をきめてるんじゃないっすか?」
「え。」
「た、確かにそうですね。それは考えていませんでした…。」
「…大丈夫だよ。真が許嫁を決めても、この関係は無くならない。…そうだよね、真。」
「そうだな。そうなっても皆んなで来るよ。」
「あのー!そこの仲睦まじい6人組!集合写真はどうですか?」
カメラマンさんに呼び止められる形で、皆んなの集合写真を撮った。そこには、6人の今を楽しむ姿が映っていた。
○ ○ ○
「懐かしいね。あの頃から、真は随分変わったよね。」
「そうだな。俺も大人になったって事かな。あの頃は、まさかこうして●●と許嫁になって、結婚するとは考えてなかったからな。」
昔の事を懐かしく思いながら準備を進めた。あの時はまだ、君をしっかりと意識していなかった。でも、君を選んだんだのは、偶然なんかじゃない。運任せとか、5分の1の確率では無かった。君だけだったんだ。この後の出来事がきっかけになり、俺は君と許嫁になる事を選んだんだ。
この遊園地で5人との距離はグッと近づいた。そして、これから真と5人の許嫁候補は夏休みを迎える事になる。
これにて「第一章 好感度UP作戦♡編」は完結となります。次章からは夏休みを舞台にしたお話になります!
ここまで読んで頂きありがとうございます。これからも精進して行きますので、応援よろしくお願いします!