九話
書いたよ
兵士は大声で味方の兵を呼ぼうとした。「した」というのも、既に彼は事切れていたのだ。彼は口を大きく開けたまま地面に崩れ落ちる。男は赤く染まった剣をそこらに放り捨て、彼女の亡骸を両手で抱え上げた。その眼中に一切の余波もなかった。
男の顔は….一周回って無表情であったが、その内面に感情の大氾濫が起こっていた。
(俺のせいだ)(嘘だろ)(これは夢だ)(兵士)(これからだろっ)
……………………………………………………….
男の脳裏に静かに......電撃がはしった。
(……嗚呼っ…こうすればいいのだ)
男は彼女の亡骸地面にそっと下ろすと、鬼神の様な風体を抱き、手を上に掲げた。
瞬く間に赤い瘴気か広がってゆく。周りの兵どもは
狼狽える。しかしただ狼狽えているのみで、なにやらもがいていたものの、彼らはすぐに生命活動を停止するに至った。
男は呟く。
「もっとストックを…..まだまだ、、、けどその前に....伝えなきゃ」
その時、男の目が青い光を放ち、天が泣いた。それは不思議な光景である。肉塊と化した兵どもは燦燦とした太陽光に照らされる反面、ただ二人の周りにのみ、雨が降り注いでいるのである。太陽光と雨水が神秘的な輝きを放つ。
二人は光のカーテンに包まれて、フェリーザが自分の足で大地に立った。
少年は言った。
「大丈夫?」
フェリーザはすこしばかり呆気に取られていたが、やがてその顔は笑みに代わった。
「N....君」
この場面でもNといっじってみせるフェリーザの明るさが少年の心を照らす。
「私は...死んだんじゃ......」
少年は明るいそぶりを見せて言う。
「俺のっ、俺の能力だよ.....!このままじゃ終わらない。約束したじゃないか.....雨はこのままだけど....ずっとこうして.....」
フェリーザはうれしくも、悲しそうな顔をしてこう返した。
「ありがとう...でも私、わかってるよ....この能力はおそらく制限があって、あくまでこの雨が降っている場合のみの蘇生...そして、ずっと雨は降らせられない.....」
少年が何かを言おうとするのを遮ってフェリーザはこう言った。
「ありがとう....本当に、本当に短かったけれど、この数十時間で一生分の幸せを得られたような気がしたよ.............................................................................あなたのことが好きです.....」
途端、雨はやみ、そこらに光が四散した。ストックが切れたのだ。
フェリーザは今生きていない。
男はその余韻に浸る時間もなく、走り出した。
もと来た道を.....
こっから暗くなる