一話
ライブ感
薄暗い山中、獣道。獣が走りゆく。猪突猛進といった様子で、ただただ駆け抜けてゆく。しかし、何かがおかしい...それは数だ。何百、なん千頭かもわからぬ。彼らの姿は闇夜に紛れ、姿は見えない、だが彼らの足音は地面を響かせている。
時間がたった。
獣らは走る、ただ走りゆき、ついには草原に出る。誰もいない草原にて、ようやく彼らの行進は止まる。月が彼らを覗き、彼らを照らす。ただ静寂の時が過ぎる。鴉の鳴き声一つやしないこの山中は時間を止めてしまったかのように、ただ暗ぐらと............................................................................................................................
......................突然、本当に突然のことである。一羽の蝶々が獣どもの上空をひらひらと飛んで行った。か弱い、ひと風吹けばその姿は向こうのほうへと飛んで行ってしまうだろう。獣らはそれを一心に見つめているようだ。そして、それは金色に輝きだしたと思えば、突然、原子爆弾の爆発かと思わんほどの光が山中に広がった。ただ音もなく、闇夜の山中は獣どもを包んだ。
...............瞬間、獣らの姿は消え去っていた...................................
「う、うわっなんだっ」
住宅街に佇む一軒家にて、どてどてと少年が飛び起きた。
「な、なあ起きてるか?、おいっ」彼は向かい側の壁を叩いてそう言った。
........................返事はない
「ヘン、なんなんだよせっかく寝てたっていうのにさぁ~ 」そういう少年の面は、意外にも笑みであった。深夜の睡眠妨害に対する憤りより、未知の事態に直面した少年心のワクワクが大きかった。
少年は再度ドアをたたく。
「返事しろって~お前もさっき感じただろ?あの光。あれでおきてねえわけねえじゃねえかよ~」
................................................................................................................
またもや返事はない。
(なんなんだ、なぜ返事をしないんだ~.....)少年はしびれをきらし、対面の部屋に突入すべく部屋の扉を抜け、対面の部屋に入らんとした。その時だった。
..............いない。
少年はびっくりした。普通、扉を開けるとそこには不機嫌なつらをした弟がベットに腰かけているはずである。
それを皮切りに少年は違和感に気づき始めた。
(なんでこんなに静かなんだ...普段は暴走族の爆音のせいで全然寝付けなかったほどなのに......)
とても不思議な感覚を抱きながら少年は、ふと、窓をのぞいた。そして驚いた。一羽の蝶々が金色の光をまとい、飛んでいるではないか。
「あ.........ああ、あああ..........」
少年は引力を感じた。少年は瞬く間に意識を失い、肉体だけがその蝶を追いかけた。少年の顔はうつろである。
蝶を追おうと少年の体は窓から飛び降りた。
『ゴキッ』 すごい音がし、少年の左足が砕けた。しかし少年の肉体はまるで何事もなかったかのように、正気を失ったまま、前進を続けるばかりである。
とある住宅街の深夜にて
町、町、町.....蝶は飛んで行く。その後ろに正気を失った人間の数々がある。少年だけではない。この小さな町の住人全員がうつろな目をして、行進が続く。群衆は少し開けたところに出た。うっすらと月が差し込み彼らを照らす。
(................. .......................... ..........................)
少年は数舜にボロボロになった体と寝間着を身に着けていた。
(.................... ........................ ......、、?)
少年はうつろな目で、数メートル先にいる人を捉えた。彼の弟である。あの出来の悪い弟もまた同じような風貌をしており、現在違うのは、弟はこちらのことを認識していない事のみである。
「..........ハッ」
何の因果か。突然少年は正気に戻った。その瞬間激しい痛みを抱き、少し悶絶する。しかしその痛みをかき消す不安と好奇心の感情の波を感じ、一周回って冷静な彼がそこにいた。
(これは__なんなんだろう....この現象、この行列は......)
少年は弟のほうを見る。
(なんでこんなところに....なんで俺は....まあ、いまはあとでいい。俺の、出来の悪い弟と合流しよう)
そして、少年のとてつもないほど不安な、後戻りのできないような感覚を、時間の経過が彼に認識させた。かれは必死の表情で、叫んだ。
「おいっ こっちにこいよ!!」
弟には聞こえない、ゾンビのような足取りで向こうへ、向こうへと進んでゆく。少年は弟の元へ走ろうとした、が、左足の痛みがそれを許さなかった。
「グググっ....ううっ.......ああっ」
少年は必死になりついに叫びながら決心を決めた。
「うわあああああああああああああああああああああああっっっ」
地面が折れた足に踏みつけられる。少年は必死に走ろうとしたが、折れた足と虚ろな群衆がそれを阻んだ。少年は転倒し、大粒の涙を地に流した。
『ガッ』 まるで壊れかけの機械のような様の群衆は少年を踏み分けることもできず、彼の上に転倒した。ドミノのように数々の者どもが彼に折り重なる。
(ううう...どけよっ、どけよっ、いってしまう....もう、戻ってこないような、二度と会えないような気がするんだ.....)
現実は無情である。折れた足で群衆をはねのけることはできなかった。その時.....
金色の蝶が天高く舞い上がり、群衆は急に動きを止めた。
蝶はひらひらとあたりを飛び回っている。少年はとてつもない悪寒に震え、体を丸めた。少年の思いの交錯は暴走した感のように思えるほど燃えている。
(弟は?)(いやだ、にげたい)(たすけて)(すこし心地よいような.....)(これは夢だ)
........................................................(弟を見なければ.....みられない、目を開いたらもう戻ってこられないような気がする......... 俺は兄失格だ......)
いつまでうずくまっていただろうか。彼は異変に気付いた。(体が...軽い?あの群衆は?弟は?)少年は目を開いた。そこには誰もいなかった。真っ暗な深夜、少年一人のみが存在していた。
少年は天に慟哭し、何度か自然に頭を叩きつけたのち、暗闇を歩いて行った。もう少年は何も考えたくなかった。唐突な出来事があまりに不可解で、大きすぎたのだ。
数十分後、少年は何かを手にして元の場に戻ってきた。その手には包丁が握られている。
(.........................................................................)
日本のどこか、一つの町が消滅した。一人の死体のみを残し.......
ただ、誰にも知られることはなかった。
第一話 完だお
見てくれたら土下座する。