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十一夜の刻の執事  作者: 彩 夏香
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九  刻の狭間の中で

九  刻の狭間の中で



玻璃の涙は、大粒になり月の光で輝きながら次々と頬を伝います。


美しい月を見ながら玻璃は、


瑠璃

生まれた時、みんながびっくりするくらい大きい声で泣いたね

初めて立った時、すごくいい笑顔でママを見たね

初めてパパと呼んでくれた日 パパ、嬉しくて泣いてたね

初めての海も、お腹の中から波の音聞いていたからかな、全然 怖がらなかったね

メロンよりスイカが好きで、遠足のお弁当はいつもおにぎりと卵焼きと醤油で炒めたウインナー。

恥ずかしがり屋で、空想好き。パパに似て優しい子。


もっと もっと一緒にいて、もっと もっと楽しい時間を一緒に過ごしたかった。

もっと もっと色んな事を教えてあげたかった。


もうそれが叶わないなんて、、、


たった十一歳の我が子を一人ぼっちにしてしまう。


張り裂けそうな悲しみが押し寄せて、玻璃は自分の流した涙の中に沈んで行くようにただ月の光の中に立っていました。


暁は、そんな玻璃を見てその場から動く事すら出来ず

思いは玻璃と同じ。

だからこそ、慰める言葉さえ見つからない。今の玻璃には、どんな言葉も何の力も持っていない。

大切に大切に育てた我が子が、女神に会って戻って来ても もうそこには、自分も玻璃も一緒にはいない。

この世で一番愛しい二人を守ることはできないのだと

暁は心が握りつぶされていくようでした。


絶望の淵に立っているのは、刻の執事もです。

十一夜を心待ちにしていた瑠璃の気持ちは会ってすぐに伝わりました。

刻の執事の自分に会い、刻の狭間にいることをあんなにも幸せそうな笑顔ではしゃいで

赤いアミュレットグラスの輝きがとても似合って

特別な祝いの日を迎えた瑠璃。

執事は、そんな瑠璃の大切な両親を刻の狭間に置いてはいけないと、必死に頭を動かします。


(考えろ、考えろ、考えろ)


焦る気持ちが空回りさせる


(落ち着け、落ち着け、落ち着け。大切な十一夜に、悲しい別れなどあってはならない。)


玻璃の目から溢れる涙がいっそう執事を焦らせ、彼の目にも涙が浮かんできます。


(何やってるんだ、僕が泣いている場合じゃない、何やってるんだ、くそっ。考えろ、考えるんだ)



何故か絶望の中にいる三人を瑠璃が見て


「ママ達も女神様のところに行けば良いんじゃないの」


何事もないかのようにそう言います。


「ママも誕生日なんだし。今夜、私と一緒に十一夜をしたら」


瑠璃の思わぬ提案に執事が


「瑠璃さん。そうですよ、その通りです。確かにお母様も今日 誕生日の様ですが、でもそれは、女神様の所に行くのは、そんな簡単な事ではないのです。」

「そうかな。大丈夫なんじゃない」


執事は、瑠璃を諭すよに


「十一歳の子が迎えるのが、十一夜です。お母様が誕生日を今日迎えても、十一歳ではないですし、まず十一歳には見えないのでそれはできません。女神様のところにはお連れできないのですよ。」


半べそをかいて執事は訴えるように言いますが瑠璃は、母親の玻璃の方に目をやり


「それ、大丈夫。」

「えっ、どう考えたら大丈夫なんて、、、」

「だって、ママ、十一歳になってる。」


瑠璃の言葉を何を言っているんだ、と聞いている執事に 暁が


「本当だ。ママ、十一歳の頃のママに戻ってる。」


暁と瑠璃は、笑顔になって玻璃を見つめます。

執事はそんな二人を見て 驚いて振り返ると、そこには確かに十一歳の幼い少女が月を見つめて涙を浮かべて立っていました。


「え、あ、えっと、、、玻璃さんですか」


そう呼ばれて執事を見た玻璃は、確かに幼い少女になっていました。


「パパがいつも言うのわかった。私、ママにとっても似てるんだね」


瑠璃は嬉しそうに呟きます。


「ね、パパの話した通りだろ。瑠璃は、ママに良く似ているんだよ」


ニコニコと玻璃を見つめながらそう言います。

二人の会話を聞きながら、執事はまるで瑠璃が二人いる様だと。


「本当によく似て、まるで双子」


もしかしたら何とかなるかもしれない。玻璃を女神の所に連れていけるかもしれないと希望の光が見えてきた思いでした。

あとは、暁をどうにかして女神の所に連れて行ければ、、、

そう思って瑠璃と暁を見ると


「はっ」


息を飲んで


「お父様。お父様もなんだか小さくなられたような」

「へっ」


ブカブカの服を着た暁が月の光に照らされていました。



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