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十一夜の刻の執事  作者: 彩 夏香
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八  満月の光の中に

八   満月の光の中に



「初めまして、あの、、、刻の執事と申します」


なぜか申し訳なさそうな執事の自己紹介。

暁の顔がみるみる明るくなって


「え、え、あっ、そうなの。良かった。本当に良かった。瑠璃、良かったね。刻の執事に会えたんだね。おめでとう。願いが叶ったんだね。」


暁は、瑠璃を抱きしめて おめでとう おめでとう と、何度も繰り返します。

そして少し落ち着いて、瑠璃の顔を両手で挟むと


「あれ。えっと〜 パパ 今、瑠璃の顔を手で挟んでるね」

「そうね、パパ」

「って事は、えっと〜、あれあれ、パパ動けてるのかな?」

「そうみたい、、、ね」


瑠璃も困ったように応えると、それをさえぎるかのように玻璃が


「そうなの、瑠璃もパパも私も動いてるの」


抑え気味 でも、強くそう言うと、振り向きざまに執事に向かって。


「どう言う事でしょうか!」

「あーあー、、、本当に そう ですよね」


困りきった執事。


「僕もこんな事になるとは思ってもいなくて」


母親と執事とのやりとりを聞いていた瑠璃が


「誰か説明してくれる! ママもパパも分かってるみたいだけど、私ぜんぜん理解できてない。私だけが分かっていないみたいなんだけど」


怒ったようにそう訴えます。


「ごめん、瑠璃。そうよね。でもママ達も分かってるようで、分かってないのよ」


そして、玻璃はゆっくりと瑠璃に向かって話します。


「前にも瑠璃に話したと思うけど。

十一夜は十一歳の誕生日に、神父様から授かったアミュレットグラスが赤かった子。

そして、十一歳の誕生日の夜が満月の子。

その子のもとだけに刻の女神様から、刻の執事が遣わされる。」

「うん、ちゃんと覚えてるよ。ママに初めて聞いた時から何度も何度も 私、そうなりたいって思っていたから忘れない。」


玻璃はため息を一つ吐くと続けます。


「このお話には続きがあるそうなのよ。」

「えっ」

「瑠璃が赤いアミュレットグラスを手に入れたらわかる事だから話さなかった事が。と言うか、手に入れ子にしか理解できない出来事が起こるそうなのよ」

「起こる、、、?」

「そうよ。刻の狭間だって、きっと話を聞いただけじゃ理解できないと思う。けれど、今ここにいるから刻の狭間のこと、分かったでしょ」

「うん、分かった」


玻璃は続けて


「それは、今、ニャーが止まっているのを見たから刻の狭間の存在を理解できた。これから起こる事、女神様に会った後におこる事も瑠璃が体験して初めて理解できると思うのよ。ママが話しても分からないと思うの。」


瑠璃は、じっと見つめます。


「だからその事はまた、として。刻の狭間の事なんだけどね。」


瑠璃は、玻璃をじっと見て大きくうなずきます。


「この、周りが止まっている刻の狭間から日常に、、、つまり、いつもの時間に帰るためには、女神様に会って出してもらわないと、ずっと刻の狭間にいる事になると聞いたわ」


「え、どういう事?」


「このまま、誰もいない 何も動かない 何の音もしない 自分だけの、独りぼっちの空間に一生暮らす事になるって事」


「死ぬまで?」


瑠璃は怖々、震える声で尋ねます。


「ママにもそれは分からない」


瑠璃は急に十一夜が恐ろしくなりました。

そんな瑠璃の顔を見て暁が


「瑠璃、大丈夫だよ。瑠璃は女神様に会って自分を見つけて、そしてちゃんと帰ってこれるから。瑠璃がずっと楽しみにしていた十一夜は、怖いものじゃないからね」


「う、うん」


いつもの様に優しい暁の声にホッとした気持ちを取り戻しながらも


「じゃあ、パパとママは? パパとママはどうなるの。十一歳じゃないけど 女神様に会えるの?女神様に出してもらえるの?それとも十一夜じゃないんだもの、女神様に会えなくても刻の狭間から出られる、そう?」


暁も答えに困ります。そして


「女神様に会えるだろう、、、か? まず、どうしてパパもママも瑠璃と同じ刻の狭間にいるのかって事から考えないと。こんな事、起きるはずないんだけど」


刻の執事も自分のした事でこんな事態になってしまうなんて、今を冷静に、良く考えなくてはと。そして


「少し いいでしょうか。」


手を上げて話し出します。


「もちろん。」


玻璃はあなたのしでかした事なんだから どうにかしてちょうだいと言わんばかりで返事をし、執事はそんな気持ちを痛いほど感じて続けます。


「整理して考えてみます。本来は、今日 誕生日で赤いアミュレットグラスを持っている人だけが刻の狭間に入ります。今夜は瑠璃さん、あなただけです。」


その通りよっと玻璃も暁もうなずきます。


「それは、満月の光と赤いアミュレットグラスの力です。」


それも、その通りとうなずきます。


「今夜も何も変わりません。」


そう そう、その通りとうなずきます。


「しかし、お父様もお母様も狭間に入ってしまった。通常の十一夜とは何か違う事が今、ここにあるという事です。」


玻璃が、


「そうよ。そうじゃなければこんな事は起きな、、い、、、」


暁が、


「赤いアミュレットグラスと満月の光、、、」


そう言うと顔を見合わせて


「あーっ」


と、声をあげます。瑠璃も分かったと


「あ、あー。だから。それで。」


執事だけが理解出来ず


「あのー。どう言う事でしょう」


すると瑠璃が


「お母さんも赤いアミュレットグラスの持ち主なの。」


執事は、ハッとした顔をしますが、すぐに疑問を浮かべ


「でも、、」


瑠璃が執事の言葉をさえぎるように


「誕生日も私と同じ今日なのよ」

「えっ、そうなんですか。あっでもしかし、同じ日であっても年代は違う。それなのに」


暁が、執事に近づきこう続けます


「僕も、同じ誕生日なんだ」

「え、え、あ、じゃあ」


執事は瞬きも忘れるほど暁を見つめます。


「そうなの、ここには同じ誕生日が三人。」


瑠璃はさっきまでの暗い気持ちが嘘の様に、いたずらっぽく続けます。


「三人の誕生日が同じ人がいて。赤いアミュレットグラスが、二つあって。まぶしいくらいの満月の光が奇跡を起こしちゃったのかもね。ふふふ」


瑠璃の嬉しそうな顔を見て執事は暁と玻璃に


「同じ誕生日が、今ここに 三人、、、ですか?」


まるで念を押すかのよう


「そうだよ。瑠璃が思うように ここには、三人。」


執事は暁と玻璃をじーっと見て何かを理解したよに


「なるほど。そうですね。同じ誕生日の人が揃ったから。アミュレットグラスも二つあるから。こんな事が起こったと考えるしかないのかもしれません。」


そうだとしても何も問題の解決にはなりません。

執事も玻璃も暁もどうしたら良いのかを思い、月を見つめます。

全てを包む様に輝く月の光。

三人の悩みなど忘れさせてくれるほどの輝きが瑠璃の部屋に差し込みます。


「こんなに美しい光の夜なのに」


玻璃は、

もう刻の狭間から自分も暁も出られないのかもしれない と

瑠璃の十一夜に、娘との永遠の別れになる と

美しい光を浴びながら涙が浮かんでこぼれ落ちていきました。



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