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十一夜の刻の執事  作者: 彩 夏香
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五  紬

五   紬



瑠璃は、両手でお団子でも持っているように両手をまあるく合わせて、家までの坂道を登ります。

くねくねと曲がり 星刻町中を走る坂道。

教会から瑠璃の家までは、沢山の坂道ルートがあります。

瑠璃は巾着を手の中にそっと包み、その手からこぼれ落ちないようにしっかりと握りしめて家へと急ぎます。


(落とさないように、落とさないように)


お団子の手を顔の前に置いて、少し前屈みで、誰にも見つからないように腰を曲げてコソコソっと走ります。

瑠璃は自分の姿を想像して


(私って今、ゴマを剃って上司にペコペコしながら急いで後をついて行ってる、おじさんみたい。かっこ悪い)


そんな想像をしたらなおさら自分の姿を誰にも見て欲しくないしと思いましたし、見つかってアミュレットグラスの色を誰にも聞いて欲しくない。だから瑠璃は注意深く、沢山ある坂道ルートの中から誰もいない坂道を選んで家へと急ぎます。

星刻町人達は町の道に皆とても詳しくて、特に瑠璃は細かい道も 誰がよく使うかもわかっています。

スルスルと誰にも見つからないように家までの道を進む瑠璃。


しかし、一番の難関は、瑠璃の家の前。そこに紬の家があること。


(どうしよう。一番家の前が危ないなあ)


紬は、小さい頃から瑠璃の側にいて、あれやこれやと聞いてくることもないのに、どう言う訳かいつも瑠璃の気持ちをわかってくれます。

楽しい事があった時は、一緒に大きな声で笑ってくれる。

嫌な事があった時は、いつまでもただ黙って側にいてくれる。

瑠璃も紬の気持ちを大切にしている。


でも、いやだから今日の瑠璃は、まだ紬には会いたくありません。


(今紬に会っても何も言えない。)


だから会える気持ちになれないのです。

紬は、きっと瑠璃に会っても何も聞かないでしょう。

瑠璃にはきっと紬がそうしてくれる事が手に取るようにわかります。


小さい頃から憧れている今日という日を紬は瑠璃の気持ちと同じ様に待っていてくれたはず。

ドキドキしすぎて 巾着を開けられなくて、誰にも見つかりたくないと、坂道を選んで瑠璃は走って帰ってくると分かっているはず。

きっと紬は、瑠璃に会わないように家の中でじっとしているはずなんです。


瑠璃も分かっていて、


(家に着いた時、偶然紬が出てきたらどうしよう)


瑠璃は、悩みます


(きっと何にも聞いてこないよね)


走りながら悩みます


(何にも聞いてこない、だからって黙って家に入ったら私ってすごく嫌な奴だよね)


だからこそ、紬に会わずに家に入りたいんです。

瑠璃は、最後の角で立ち止まって


(今は、会いませんように。お願い紬〜 出て来ないで〜)


瑠璃は、大きく息を吸ってまるで海に飛び込んだ時のように息を止め、全速力で走り。

玄関を開けずに玄関脇とハナミズキの間を無理矢理通り抜けて庭にまわり縁側から家の中に。

家族にも見つからないほどの速さで階段を駆け上がって自分の二階の部屋に転がり込みます。


はあ、はあ、はあ、


走った事と何故か息を止めていた事で、いつまでも呼吸が整いません。


はあ、はあ、はあ、


(苦しいー。でも、誰にも見つからないで良かった。紬にも、、、)


額に汗が浮かんできます。首筋にも汗が光ります。

手も汗ばんでいる。

手の中に本当に金糸銀糸の巾着があるのか、手には感触はあるけど、手を開いたら無くなっているかも。巾着じゃなくてお団子が入っているかも。

瑠璃は、気持ちが震えるのがわかります。初めての感触。


(本当にあるかな)


怖いのに、なぜか気持ちが昂ぶる、心地いい。そして


(ちゃんと、巾着がありますように)


そう唱えてゆっくりと手を開きます。

「、、、あった」


いつもの部屋が、光に包まれていくようです。


「明日、ちゃんと紬に話そう」



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