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十一夜の刻の執事  作者: 彩 夏香
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四  アミュレットグラス

四   アミュレットグラス



瑠璃の十一歳の誕生日は、土曜日。

午前中 学校に行き 走って家に帰ると、お昼ご飯も食べずに 瑠璃は教会に向かいます。


「行ってきまーす」


走って、走って、教会へと続く坂道の下に立ち


(会えますように、会えますように)


自分の夢を唱えながら登る坂道で瑠璃が唱えたのは、会えますように ただそれだけ。

心の中で何度も何度も呟きながら坂道を登り始めます。


教会に続く坂道はいつもと変わらないのに、下から眺めると教会はいつもより遠くに、小さく見える。


(いつもと違う)


それでもはやる気持ちが瑠璃の背中を押して、いつもよりもはやく教会にたどり着きました。

息を切らして教会のドアを開けると、そこに 神父様が白くて淡い光の中に立っていました。胸の辺りで両手をまあるく包むように合わせていて、微笑みながら瑠璃に近づいて来ると


「瑠璃、お誕生日 おめでとう。あなたに神様のご加護が有りますように願っています」


そう言うと


「さあ、手を出して」

大きく暖かい手が瑠璃の小さな手に優しく光る巾着を授けてくれたのです。


「神父様、ありがとう。」


瑠璃は巾着をじっと見つめ


「神父様が選んでくれたの」


と尋ねました。

神父様は微笑みながら首を横に振り


「私ではありません。神様が選んでくださったのです。皆そうです。」


オランダ訛りの優しい声が答えます。


「神様が」

「そうです。だから大切にするのですよ。瑠璃を守ってくれるのですよ。」

「守って、、、うん。あ、はい。大切にします」


いつも、神父様に子供の甘えた様な話し方をしていた瑠璃ですが、急に背筋を伸ばし大人のように返事をしました。


瑠璃の手の中に金糸銀糸の小さな巾着。


神父様に返事をすると自分の手に視線を落とし じっと見つめて、そしてため息が出るような声で


「あー。本当に綺麗」


瑠璃の目にスーッと涙が浮かびます。手の中の巾着は涙がいっそうキラキラと輝かせていました。


「瑠璃」

「神父様。とても綺麗です。本当に私の手の中にある。夢みたい。」

「そうです、十一歳の瑠璃を祝うのです。綺麗なのは瑠璃の心を映しているからなのですよ」


神父様の優しい声に誘われるように、巾着を開いて 中身のアミュレットグラスの色を確認しようとして、ハッと手を止めました。


「瑠璃、見ないのですか」

「、、、はい」

「今宵は満月ですよ」

「はい。だから だからです。、、、怖くて」

「怖がる事は何もないのですよ。瑠璃のそばに神様がいる」

「神様が?」

「神様が、瑠璃の守り神として選んでくださったアミュレットグラスの色。どの色でも 瑠璃の色です。瑠璃を守ってくださる神様です。」


神父様の言葉は瑠璃の心に染み渡ります。そう、神父様の言葉の通りなのです。

それでも 小さな頃から憧れて会える事をとても楽しみにしている 刻の執事、しかも 運命のように今宵は満月。

もし、アミュレットグラスが赤くなかったら、、、十一歳の誕生日が悲しい日になってしまいそうで瑠璃は巾着を開ける事ができません。


「神父様。私、このまま帰ります。」

「そうですか。瑠璃がそうしたいのであればそうなさい。」


神父様には、瑠璃の気持ちがとても伝わりました。オランダ訛りの優しい声が


「気をつけて帰るのですよ」


まだ、少し迷ってるような瑠璃の背中をそっと押してくれます。


「はい。神父様 ありがとうございます。」


坂道を降りきって遠くにある教会を見上げると、神父様がまだ見送ってくれている。

いつもの神父様。

瑠璃もいつもの瑠璃に戻って思いっきり手を振りました。

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