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十一夜の刻の執事  作者: 彩 夏香
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三 誕生日 前夜

三  誕生日 前夜



明日、瑠璃が 十一歳の誕生日を迎えます。


瑠璃は、周りから少し冷めた子だと見られています。

みんなが集まって楽しく騒いでいても、遠くからみんなを見ている子。

一人でいるのが平気な子。

友達と話ているよりも本を読んでいる方が楽しい子。

そんな風に思われているのです。


ですが、みんなが思っている印象とは瑠璃の思いは違っています。


瑠璃は女の子が大好きな話題で盛り上がっている時も特に積極的に話に参加しません。

でも瑠璃はワイワイとみんなが話している話題をとても楽しく聞いているんです。

女の子たちが大好きな占いだって大好き。

毎日 お父さんが聞いている朝のラジオから聞こえてくる今日の占いはいつも耳を澄まして聞いていて、今日のラッキーアイテムを持ち歩く毎日ですし、誰が誰を好きだって話なんてドキドキしながら聞いているんです。

けれど自分から話すことはほとんどしないので、女の子たちの輪の中にいるのに、あまり気づいてもらえず 瑠璃は一人でいつも遠くにいる と思われていました。


確かに一人離れて、ぼーっとしている事も多い瑠璃。

授業中でも沖の海の音に耳に澄ませ、お気に入りの自分の部屋の窓から見える海を想像しちゃいます。

船が汽笛を ボーン と鳴らした音が聞こえてきたときなど頭の中は、遠い外国に旅に出かけています。

自分のだけの世界に浸っている、それが瑠璃の幸せな時間。


特に明日は十一歳の誕生日。

だれも会ったことのな刻の執事。


それなのにシルクハットをかぶっているなんてどうしてそんなことが噂されているのだろう。

自分のことを考える時間ってどんな時間なんだろう。

将来のことを考えるって、十一歳でどうやって考えるのだろう。


わからないことだらけ。知りたいことだらけの刻の執事。


会いたい。会いたい。会って確かめたい。

ずっと待ち焦がれていた刻の執事にいよいよ会えるかもしれない。


ここ最近は、ますます瑠璃は自分の世界に入り込んでいましたし、とうとう運命の日が明日に迫った今朝は、クラスの輪から離れ、窓に張り付いて、海よりさらに遠くを見つめ、心は刻の執事に占領されていました。


だから、


「明日、十一歳の誕生日の子いるかなー」


って誰かが聞いた時、瑠璃の執事を思うレーダーがピクリと反応し


「私。私 私 私 私、明日 誕生日だよ。ついに明日なの。とうとう来たー誕生日。あーアミュレットグラス 赤でありますように。あー刻の執事様に会えますようにー」


と、振り向きざまに瑠璃が今ままで教室の中で一番と言って良いほど大きな声で答えたもですから、クラスのみんなは、ビックリしすぎて凍りついたように動きません。


「え、なに。なんで。私 変な事言った?」


みんなの反応に戸惑う瑠璃。


「瑠璃がそんなこと言うなんて、ねえ」

「そうね、ちょっと意外かも」

「刻の執事の事なんて興味ないかと」


戸惑い全開のみんなの反応の中、瑠璃の家の坂道隣に住んでいる幼馴染の(つむぎ)だけが大笑いしながら


「瑠璃はね、誰よりも刻の執事に会いたいとおもってるんだよ。」


紬は、瑠璃の前にやて来て手を胸の前で組み


「ずーっと小さい時から待ち焦がれているんです。逢いたいでーす、刻の執事様ー。ってね」


そう、ケラケラ笑って振り返ると


「瑠璃はみんなが思うよりもすんごく熱い子なんだよ。ねー瑠璃」


少しからかい気味にそう言いましたが、瑠璃の反応があまりにみんなの思いと違っていたので紬の口調に誰も応えることもなく


「へー」


と、声を出すだけ。

みんなの驚いた顔に瑠璃の方がおどろき


(そんな風にみんなが思っていたなんて。私って、みんなにどんな風に見られていたんだろう)


瑠璃は、力が抜けるような 明日の誕生日への高揚した気持ちがしぼむような感覚で椅子に沈み込むように座り込みました。

そんな瑠璃を見て紬はさらに笑いながら


「瑠璃、みんなに本当の瑠璃の姿を見せられてよかったじゃん」

「えっああ そう、、、だよね へへへ」


気のない笑顔にいっそう笑いが止まらない紬。

みんなも急に笑い出し、止まらなくなって笑顔が伝染していきます。

そんなみんなを見ているうちに、瑠璃は不思議な気持ちが湧いてきました。


(なんだか みんなからの誕生日プレゼントみたいだな)


急に自分の居場所がはっきりとできたような感覚。

自分の世界に浸るのが大好きで、夢の中にフワフワと立っていた自分の足元に硬い地面ができたような感覚が瑠璃の中に生まれたのです。

   


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