誠也さんの真実④
そして誠也さんの思考は一気に、私との最後のシーンに飛んだ。
「私が死んだのは病に負けたから。誠ちゃんのせいじゃないわ。だから自分を責めないで。私は天国に行って、今とても穏やかに幸せに暮らしているから」
誰の慰めの言葉も気休めにしか聞こえなかったのに、死後の世界で会ったという私の言葉は、直球で誠也さんの心に行き渡ったらしい。
今まで彼の心を縛り付けていた紐が緩まってほどけていく。
「この言葉を伝えるために一ヶ月だけもらった命だったのです」
ウエディングドレスの私が告げる。
「なのに……ごめんなさい。あなたを……愛してしまいました」
回想の中の私が告げると、病室に座る現在の誠也さんの目から涙が溢れた。
「うう……そんな……なぜ言ってくれなかったのですか……。一ヶ月しかないなんて……僕を愛していたなんて……もし知っていたなら……僕は……」
ポタポタと涙が落ちる。
私も同じように涙を流していた。
お互いに相手のために身を引いたつもりだった。
もっと早くに私が気持ちを伝えていたなら、彼はちゃんと愛していると言ってくれたかもしれない。
同情なんかじゃなく、ちゃんと本心から。
ああ、どうしてもっとちゃんと聞かなかったのだろう。
「残念じゃが、約束は約束じゃからな。この無口な男から愛しているなんて言葉を引き出すのは無理な話じゃったな」
赤翁が気の毒そうに告げる。
「では裁判の続きに戻ろう」
赤翁の言葉と共にホログラムが徐々に小さくなっていく。
「残念ながら現世に戻ることは叶わぬが、そなたが多くの気付きを得て、深く反省し周りの人々への感謝で満たされたことを高く評価しよう。最後に勝手に佐山真琴に会ったなどと嘘を並べ立てたのは、この死後世界を冒涜する行いともとれようが、それもまた佐山誠也の明るい未来への礎となったのであれば、一つの尊い愛の形であったのだと認めよう。よって地獄行きは無しとするが、よいかのう?」
赤翁が見渡すと、それぞれの翁たちがうんうんと頷いている。
「では判決を下す。主文、被告人、戸田香百合を天国行きに処する。しかるべき天界に行き、今後の生まれ変わりについて模索するがよい」
「はい」
私の返答と共にホログラムが閉じ、体がまばゆい光に包まれる。
終わったのだな……と私は目を閉じた。
悔いは多く残してしまったけれど、リベンジしなかったことを考えると充分すぎる結果だろう。
「ごめんね、誠也さん。どうか幸せになって下さい」
私以外の誰かと……。
しかしその時……。
「お待ち下さい、皆さま‼」
青翁の声が響き渡った。
その声と同時に光の中に溶け出していた私の体が元に戻っていく。
「なんじゃ、どうしたのじゃ、青翁」
赤翁が面倒そうに言いながらも、少し口角を上げている。
「たった今、佐山誠也が信じがたい言葉を漏らしました」
青翁は「余計なことを」という顔で迷惑そうにしている。
「ど、どうしたんですか?」
私は何事かと翁たちを見回した。
「ああ、なんということでしょう。あとほんの数秒だったのに。まさかこんなことになるなんて……」
青翁がもったいつけたように頭を振って嘆いている。
「どういうことじゃ。申してみよ」
「私が言うよりも、少し前に遡ってお見せしましょう」
青翁がメガネを操作して、再びホログラムの映像が広がっていく。
そこには病室で、まだ涙を流している誠也さんがいた。
相変わらず無言のまま涙を流している。
「……」
一分ほどその映像を見ていた翁たちが、しびれを切らしたように文句を言う。
「青翁殿、巻き戻し過ぎじゃろう。この男は静止画が多過ぎる」
「はい。まったく言葉足らずの無口な男です。ですが、だからこそ、そんな男の発する言葉は小さな小さな呟きであっても尊い想いを含むのではないでしょうか」
「尊い想い?」
翁たちが首を傾げるのと同時に、ようやく誠也さんが動いた。
ゆっくりと立ち上がり、ベッドに眠ったままの私の頭をいつものように撫でる。
優しく、優しく、何度も何度も撫でたあと……。
ようやくほとんど聞こえないような声で呟いた。
「僕も……愛しています、香百合さん……」
そして……そっと呼吸器をつけた私のおでこに口づけた。
「‼」
私は両手で口を覆って嗚咽を抑えていた。
絶対言ってもらえないだろうと思っていた言葉。
まさかこの最後の瞬間に聞けるだなんて……。




