誠也さんの真実①
「ではこれより死後裁判を始める」
気付くとあの円卓の真ん中に座っていた。
どうやら私は再び死後裁判にかけられているらしい。
「青翁よ。状況を説明してくれ」
赤翁に言われ、青翁はメガネの裏を読むようにして話し始めた。
「まずは被告人、戸田香百合ですが、無事一ヶ月のリベンジを終え、目的を達成出来たもようです。佐山誠也に嫁ぎ、誠心誠意尽くし、彼の信頼を得て父親の会社との合併話も予定通り進み倒産は免れました。これにより母親が自殺することはなくなり、娘を亡くした悲しみはあるものの、その死を受け止め自分の課題を乗り越えていくことでしょう。そして父親もまた、しばらく酒を飲むと号泣して手がつけられなくなりますが、やがて娘の死を受け入れ前に進んでいくことでしょう」
青翁の説明を聞いて、私はホッと胸を撫で下ろした。
「そして加瀬竜司ですが、彼は父親の会社を継いだものの事業に失敗し資産を半減させることになります。会社からも追われ人生のドン底を味わうものの、妻の戸田香蘭と親友の中山健太によって救われ深く反省し、晩年に穏やかな幸せを掴むこととなるでしょう」
竜司さんはあれだけみんなに反対されてもパチンコの事業に手を出すらしい。
周りのアドバイスも聞く耳のない人には届かないのだ。
それは経験した私が一番よく分かっている。
でも香蘭が支えていくらしい。
口は悪くとも香蘭は情に厚いところがある。
むしろ私よりも香蘭と結婚して正解だったのだろう。
そして健太も、なんだかんだ言って結局竜司さんを見捨てられなかったらしい。
苦しい時期はあるかもしれないが、精一杯生きてゆけばいずれ幸せも訪れる。
これで良かったのだと思う。
「あのそれで……誠也さんは……」
私は待ちきれずに自分から尋ねた。
「うむ。実は現在の様子を見ることが出来るが。見たいか?」
私はドキリとした。
今の誠也さん……。
私が放った言葉の数々を、誠也さんはどう受け止めただろうか。
最後に勝手にキスなんてして、怒ってないだろうか。
少し怖いけれど見たい。
今の誠也さんを。
「はい。お願いします」
やがて目の前にホログラムのような映像が映し出された。
そこは病院のようだった。
ベッドに眠る私の横に誠也さんが座っている。
「撮影スタジオで倒れたそなたは救急車で運ばれ、人工呼吸器で辛うじて命を保っておる。じゃがこの裁判の終了と共に命を終える予定じゃ」
「まだ……生きているのね……」
病院に運ばれたばかりなのか、誠也さん一人が付き添っている。
ひどくうな垂れて憔悴しているように見えた。
さすがに一ヶ月一緒に暮らした人間が目の前で倒れたのだから仕方ないだろう。
「結局彼から愛しているという言葉は引き出せなかったようじゃな、戸田香百合」
赤翁が残念そうに告げた。
「はい。愛なんて簡単に得られるものではありませんでした。甘かったのだと痛感しました。もう誠也さんと会えないのは淋しいけれど仕方ないです」
精一杯やった自分を褒めてあげよう。
ホログラムに映る誠也さんは、ただ黙って人工呼吸器やらいろんな管につながれた私を見つめている。
いつまで待っても映像は変わらない。
「佐山誠也というのは無口な男のようじゃな。やれやれ、静止画を見ているように変化がない」
翁たちがずっと変わらない映像に飽きたように愚痴っている。
私はあまりに誠也さんらしくて、ちょっと可笑しくなった。
「どれ、青翁よ。彼の心の声は聞けぬものか」
赤翁が命じると、青翁はメガネを傾けフレームを操作した。
すると不思議なことに病室の映像に重なるようにして別の映像が浮かんできた。
それは同じように病室で眠る私の映像だった。
でも少し違うように見える。
そして気付いた。
それは自殺未遂をして入院していた時の映像だ。
どうやら誠也さんの回想が映像になって浮かんでいるらしい。
「誠也さん、また来て下さったんですか? 心配かけてすみません」
お母さんが私に付き添いながら頭を下げている。
「いえ、香百合さんの様子はどうですか? まだ目が覚めませんか?」
「はい。まだ」
「そうですか……。これ、お花を持ってきました」
誠也さんは大きな花束を母に渡した。
「いつもすみません。花瓶に入れ替えますね」
まだ新しい花が入った花瓶を持って母が病室を出て行った。
病室に一人になると、誠也さんはベッドに横たわる私のそばに来て包帯の巻かれた左手をそっと持ち上げた。そして手首の傷を撫でると苦しそうに呟いた。
「僕と結婚するのが……そんなに嫌でしたか?」
その悲しそうな顔を見て、改めて自殺するという事の罪深さに気付いた。
いつも平然としていたから、誠也さんは気にしていないのだと思っていた。
誠也さんは眠ったままの私の頭を撫でて「すみません」と何度も謝っていた。
知らなかった。
誠也さんがこんな風に謝っていたなんて。
母が病室に戻ってくると、誠也さんは元の無表情に戻って「帰ります」とそっけなく言って帰って行った。
こんな誠也さんに気付く者などどこにもいなかった。




