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婚姻届を出す朝に(離婚届シリーズ第二弾)  作者: 夢見るライオン


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誠也さんの秘密③

「どうぞ」


 桃花さんをリビングに通して紅茶を出した。


 彼女は慣れた様子でソファに座ってなつかしそうに庭を眺めた。


 夢で見た時は高校生だったが、今は誠也さんの二才下なら三十一才だ。


 高校の時茶髪にしていた髪は、今は落ち着いた焦げ茶色のストレートになっていた。

 化粧も洗練された雰囲気で、けばけばしくないナチュラルメイクだ。


 誰が見ても文句なく綺麗な人だった。


「急にお邪魔したりしてごめんなさい」


 妖艶ようえんに厚めの唇で微笑む顔は八才年上の余裕のようなものがあった。


「いえ。協力会にいらっしゃったんですよね。私はまだ幼くて覚えてないんですが」


「ええ。何度かバーベキューと花火大会に参加したわ。でも、ごめんなさい。私も全然覚えてないの。ただ竜ちゃんと婚約するって聞いて名前は知ってたわ」


「竜司さんと……」


 そのことを初対面でズケズケと言えてしまう桃花さんという人に警戒けいかいする。


「私は祝福していたのよ。それなのに……何がどうなって誠也さんと結婚してるの?」


 その目は攻撃の色を帯びている。少なくとも好意は感じない。

 それだけで今も桃花さんが誠也さんを好きなのだと分かった。


「どうやって誠也さんに取り入ったの? 彼はずっと結婚はしないって言ってたの」

「それは……」


 そういえば前に誠也さんも結婚するつもりはなかったと言っていた。


「私となら結婚してもいいと思ったと言われました」


 確かあの時そんな風に言ってくれたはずだ。


 しかし桃花さんは「はっ!」とバカにしたように短く笑うと、私をまじまじと見つめた。


「それで誠也さんがあなたを愛していると思ったの? 自分は特別だと?」


「せ、誠也さんは竜司さんと破談になったことを知って自分から父に頼んできたんです。私と結婚したいと」


 そうだ。私が頼んだわけではない。誠也さんが頼んだのだ。


「誠也さんらしいわ」


 桃花さんが長い脚を組んでため息をつきながらソファに座り直した。


「それはどういう……」

「同情よ」


 桃花さんは食い気味に答えた。


「分からないの? 彼はあなたが竜ちゃんに捨てられて気の毒になったのよ。それに会社の合併がっぺい話も進んでるんでしょ? だから担保たんぽ代わりにあなたを妻にしたのよ」


「な!」


 もちろん最初はそんな風に思ったこともある。


 そして私もそれを覚悟で父の会社のために誠也さんに取り入ろうと思っていた時期もある。だが、それを無関係のこの人に、なぜわざわざ家にまで来て言われなきゃならないのだろう。


 それがひどく理不尽に思えた。


「で、でも誠也さんは本当に私を大切にしてくれています。幸せを感じると言ってくれています!」


 ムキになって反論した。

 それを小バカにするように、桃花さんはふふっと笑った。


「なにが可笑おかしいんですかっ‼」


 ムカッとして叫んでいた。


「あなたは彼の本音を聞いたことがある? 当たりさわりのない言葉を並べて、上手じょうずにいい夫を演じてるんでしょ? 一日一回は妻をめる? 感謝の言葉を述べる? どんな失敗や醜態しゅうたいを見ても完璧に穏便おんびんに収める? 腹を立てて声を荒げることもないんでしょ? 彼は秘書をやとうようにあなたという妻を雇ったのよ」


「雇う?」


「そう。だから部下に対するように、妻としての報酬ほうしゅうを払い、アメとムチを使い分けて……いえ、妻にはアメだけでいいのかしら。そうやって家庭内を管理しているの。でもそれは愛情ゆえじゃないわ。彼にとっては結婚も事業の一つなの」


「事業の一つ……」


 反発する気持ちと同時に何かがに落ちた気がした。


 誠也さんの愛情は女性に対するものというよりは、妹や小さな子供に対するようなものに思える。自分は何も望まず与え続けるだけのような。


 そう。彼はいつだって私に愛情を注いでくれるけれど、決して私からの愛情を望もうとはしていない。これほど大事にされても愛されている実感が湧かないのは、一方通行の愛情だからだ。


 一方的に与えてくれるのだからいいじゃないかと思うかもしれないが、それは本当に愛していると言えるのだろうか? 


「ねえ、誠也さんはあなたを独占どくせんしようとした? 破談になった竜ちゃんに嫉妬しっとしたことがある? 自分の欲望を優先させたことがある?」


 すべてがいなだった。


「だってね、普通の男は破談になって捨てられた女をわざわざ自分からめとろうなんて思わないわよ。そうでしょ? ましてり取りみどりの誠也さんが」


 ガクガクと足が震える。

 現実を見せ付けられて立っていられない。


「それにあなた自殺未遂をしたっていうじゃない」


 私はハッと桃花さんを見た。

 こんな人にまで知られているなんて。


「そんな面倒な女、普通なら絶対結婚しようなんて思わないわよ。少し考えれば分かるじゃない」


 打ちのめされた私は、震える口を開いた。


「じ、じゃあ……どうして誠也さんは私を……」

「きっとあなたが死んだ母親に似ているからよ」


「母親……」


 あの夢に出て来た後ろ姿の……。


「顔じゃないわよ。性格よ。だって……」



 桃花さんは一呼吸置いてから、勝ち誇ったように告げた。



「誠也さんの母親も八年前に自殺したんだもの」


次話タイトルは「誠也さんの父親①」です

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