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婚姻届を出す朝に(離婚届シリーズ第二弾)  作者: 夢見るライオン


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誠也さんの秘密②

「じゃあ、行ってきます」


 いつものように弁当を渡して玄関まで見送りをした。


「あのっ! 誠也さんっ!」


 そのまま玄関を出ようとする誠也さんを、慌てて呼び止めた。


「?」


 忘れ物でもしたのかと振り返る誠也さんに、しどろもどろで言ってみる。


「あの……あの……行ってらっしゃいの……キ……スを……」

「え?」


 真っ赤になってうつむく私に、聞き間違えたのかと誠也さんが問い返した。


「その……見送りぐらい新婚らしくしようかと思って……」


 言いながらもどんどん顔が赤くなっていく。


「心の準備が出来たということですか?」

「えっ?」


 そういえば結婚初日に心の準備が出来るまで待ってくれと言ったのだ。


 あの時はそのまま一ヶ月乗り切るつもりで言ったのだが、改めて聞かれてみると、自分がとても恥ずかしいことを言っているような気がしてあわあわと口ごもった。


「いえ……その……とりあえず行ってらっしゃいのキスならと……」


 もう恥ずかしくて逃げ出したい。

 朝っぱらから何を言い出したのかと思っているに違いない。


「では遠慮なく」

「え?」


 誠也さんは上がりがまちまで戻ってくるとぐいっと私の頭を引き寄せた。


 ちょうど上がり框の高さ分で、目線が同じぐらいになっていた。


 自分で言い出しておきながら、誠也さんの顔が近付くと全然覚悟が出来てなかったことに気付いた。どうしていいか分からず、ぎゅっと目をつむる。


 よく考えたらファーストキスが行ってらっしゃいのキス?


 そんなウブな新婚夫婦など今の時代に絶対いないだろう。


 きゃあああ、と心の中で悲鳴を上げてしまった。


 しかし……。


 ちゅっと触れたくちびるは、口ではなくおでこだった。


「え?」


 驚いて目を開けると、誠也さんが穏やかに微笑んでいた。

 そしてポンといつものように頭を撫でられる。


「無理しなくていいんですよ。僕はあせるつもりはありませんから」


 まるで小さな子供に言い聞かせるようにして私から離れた。


「じゃあ今度こそ行ってきます」


 そう言い残して玄関を出て行ってしまった。


 私はへなへなとその場にへたり込んだ。



(完全に子供扱いされてる……)




 思い返してみれば、誠也さんはいつも恋人というよりは年の離れた妹に接するかのように優しくて、怒ることもなければ無理強いすることもない。


 十才も離れていたらそんな感じなのだろうか。


 絶対的な安心感はあるものの、妻としてはどうなんだろう。


 すべてが穏やかすぎて、愛しているなんて言葉を告げるような激しさがない。

 これは思ったよりも大変なことかもしれないと思い始めた。


 午前中家事をこなしながらあれこれ策を練っていたが、やがて一つの結論に達した。


(まずは誠也さんをもっと知らなければ!)


 そう考えるたびに、私の意識は一ヶ所に向かった。


(誠也さんの個室。ここに何か秘密が……)


 掃除しないでくれということは、入らないでくれということだろう。


 しかし、その割りに鍵がかかっているわけでもなさそうだ。

 こっそり入っても分かりっこない。


「いや、でも誠也さんってすべてを見通しているようなところがあるから、ドアに紙をはさんでおいて留守のあいだ誰も人が入ってないか確認してたりして」


 言葉に出して言ってみると、そんな気がしてきた。


 踏み台を持ってきて何か挟まってないかドアの上まで確認する。

 見たところ何も挟まっている様子はない。


「そんな探偵かぶれみたいなことしないわよね。自分の家で」


 なんだか誠也さんの部屋の前に踏み台まで持ってきてコソコソぎ回っている自分が滑稽こっけいに思えてきた。


「鍵をかけてないってことは、ちらっとのぞくぐらいはいいってことだわ」


 自分に言い聞かせて、ドアのノブを掴んだ。


「でもとんでもない秘密が出てきたらどうしよう。考えられるのは……」


 しばし考えてみたが、何も思い浮かばなかった。


 姉妹で育った私には若い男性の部屋というものが想像もつかない。

 エロ本やエロビデオぐらいなら想定内だ。それぐらいで騒ぐつもりはない。


「うん大丈夫。多少アブノーマルな趣味があっても受け入れるわ」


 その程度にはもう誠也さんを愛している。


 覚悟を決めてぐいっとノブを下げると……。


「ピンポーン」とインターホンが鳴り響いた。


 私は「わああっ!」と叫んでノブから手を離した。


 まさか私の行動に気付いて誠也さんが戻ってきた?


 切れ者の誠也さんならそれぐらいのはなわざが出来そうに思えた。


 あわてて踏み台を持ってリビングのインターホンに駆け戻った。


「はい」


 しかし応答ボタンを押すと、モニターに信じられない人が映っていた。


「え?」


 一瞬、これが現実なのかどうかも分からなくなった。なぜなら……。



 それは夢の中で見た人だから……。




「沢井桃花と言います。誠也さんの古くからの知り合いです」




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