竜司さんという人③
土曜日に予約していたスタジオに二人で出かけた。
教会のセットもあって、本格的な撮影が出来る人気のスタジオだ。
誠也さんは一応コンタクトも持っているらしく、約束通りメガネをはずして前髪を下ろしている。車を運転する横顔は、思った以上に素敵だ。
ちょっとウキウキしている自分に驚いた。
しかしスタジオに行ってみると今日この場で撮影は出来ないと言われた。
考えてみれば当然だ。
ドレス選びからヘアメイクに小物まで、決めることはたくさんある。
ドレスやスタジオの空きも、メイクさんの都合も平日ならまだしも土日に全部取れるはずがなかった。
私が選んだドレスでスタジオとメイクさんの手配まで考えると、二ヶ月後しか空かないと言われた。それでは間に合わない。
私の命はあと二週間ほどだ。
「なんとか二週間以内で都合はつきませんか?」
「二週間?」
スタッフの人だけじゃなく誠也さんも聞き返した。
当然だが私が何に焦っているのか知らない。
「ど、どうしても二週間以内に撮りたいんです。一枚でもいいから」
「うーん、そう言われても……」
スタッフの人は、困ったようにパラパラとスケジュール表をめくった。
「ああ。ちょうど二週間後の土曜日なら夕方で良ければ空いています。でも前の人が押していたら待ってもらうかもしれませんよ。それでも構いませんか?」
「二週間後の土曜日……」
それは私が目覚めてからちょうど三十日目だった。
翁たちが期限と定めた日だ。
ギリギリ間に合うかどうか……一体何時まで現世にいられるのか、とても微妙な時間帯だが他に空いている日はないらしい。
一か八か賭けるしかない。
「分かりました。誠也さんは……いいですか?」
「僕は香百合さんがいいなら大丈夫ですよ」
当日はあまり時間がないので、髪形やブーケ、ポーズとアングル、フォトアルバムの種類や枚数まですべて決めてスタジオを出た。
朝から行ったのに、昼過ぎになっていた。
「お腹がすきましたね。ここから少し行ったところにアウトレットモールがありますが行ってみますか?」
車に乗り込むと誠也さんが尋ねた。
「この近くのアウトレットモール……」
それはきっと竜司さんと一度行ったことのある場所だ。
「中に大きな観覧車があるところですよね」
「ああ。ありますね。乗りたいですか?」
「いえ。そういうわけでは……」
竜司さんとのファーストキスの場所だ。
ほんの半年ぐらい前。
竜司さんが結婚しようと言ってくれた場所だ。
私達の結婚は、竜司さんの父親が一番乗り気だった。
「お前は香百合ちゃんのようなしっかりしたお嬢さんと早く身を固めた方がいい」
……と冗談のように、少し本気なように事あるごとに言っていた。
私は高校の時に許婚となってから、大学の四年まで待ち続けていた。
その間に竜司さんがたくさんの女性と付き合っていたのも知っている。
でも観覧車の中で竜司さんは「これからは香百合一筋になる」と誓ってくれたのだ。
あの日どれほど幸せだったか……。
「親父にも香百合を泣かせたら許さないと言われてる。だから他の女とは違う。きちんと真面目に付き合うから」
その言葉通り、ファーストキスのあと竜司さんが私に手出しすることはなかった。
「親父に結婚まで手も握るなって言われてる。一体いつの時代だよな。あー、くそ。ホントは今すぐ香百合の全部を俺のものにしたいのに」
イライラしたようにそう言う竜司さんが愛おしかった。
「手ぐらい握ってやる! どうせバレっこないんだよ」
そう言って照れくさそうに手を握る竜司さんが大好きだった。




