竜司さんという人②
「今度の休みに写真を撮りにいきませんか?」
「え?」
朝食を食べていると、唐突に誠也さんが言った。
今日はホテルの朝食風にクロワッサンとスクランブルエッグにサラダとスープだ。
洋朝食の日は食器もお洒落にして、料理にハーブを飾り華やかな食卓にする。
【モテ料理の極意、其の六】
毎日だと疲れるけれど、時々は見た目重視の食卓を演出してセンスの良さを見せつけるべし。でも翌日は必ず味重視の和朝食にすること。
誠也さんはフライパンでさっくり焼き直したクロワッサンをサクサク言わせながら目を細めている。
「写真って何の?」
カメラが趣味だったのかと思った。
しかし……。
「結納も式もしませんでしたが、せめて写真ぐらい撮って香百合さんの両親に渡しませんか?」
「それは……」
「女性はウエディングドレスを着ないと後悔するものだと聞きました」
チクリと心が痛んだ。
誠也さんと暮らし始めて、嘘のように竜司さんへの気持ちは薄らいでいっていたが、それとは別に長年の夢だった教会での結婚式や披露宴、新婚旅行という一連の行事が叶わぬものとなったのが無念なのには変わりない。
思い出すと、どうしても怒りのような悔しい思いが胸を占める。
「僕は入らない方がいいなら、香百合さんだけでも」
黙り込んだのが自分と一緒に撮りたくないのだと思ったらしい。
「いえ。撮るなら誠也さんも一緒に」
本当なら破談の翌週にドレス合わせに行く予定だった。予約していたサロンにキャンセルする元気もなくて放ったらかしになってしまった。何度かサロンから着信があったがそれも無視してしまった。ドタキャンなんてよくあることなのか、それっきり連絡はないが、きっと破局したのだろうと察したようだ。それもまた惨めだった。
「僕も一緒に写っていいんですか?」
沈んだ様子のままの私に、誠也さんは重ねて尋ねた。
「じゃあ一つ条件をつけてもいいですか?」
私が言うと、誠也さんはどんな難題を課せられるのかと畏まった。
「なんでしょう?」
「写真を撮る時は、メガネをはずして髪もおろしてもらえますか?」
「……」
しばらく考え込んだあと、誠也さんは生真面目な顔で頷いた。
「わかりました」
その顔を見て、私はふふ、と笑っていた。
最近、誠也さんの生真面目な表情がツボだった。
ちょっと無理を言ったあとに、多少やせ我慢して見せるその顔が特におかしい。
まるで私の無念を塗り替えるように、惨めな思い出が楽しい思い出に書き換えられていく。そのたび誠也さんへの愛着も重ねられていった。




