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婚姻届を出す朝に(離婚届シリーズ第二弾)  作者: 夢見るライオン


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19/60

竜司さんからの電話②

「竜司さんすげえんだぜ。バレンタインの日なんか門の前に女の子の行列が出来てんだからさ。うらやましいよな」


 少しぽっちゃりめに育った健太は、竜司さんと同じ私立の男子校だった。学年は四つ下なので竜司さんが高三で健太が中二の頃だった。


 父の協力会の集まりにはあまり行かなくなっていたが、恒例の花火大会だけは、いい場所が確保できるので参加率が高い。そして香蘭に片思いがバレバレな健太は、いつも竜司さんを誘って私達姉妹にも来るように催促さいそくする。


 私はあまり乗り気でない香蘭を強引に誘って、毎年会えるのを楽しみにしていた。


「大げさなんだよ健太は。行列なんて出来てないだろ」

「もう、謙遜けんそん、謙遜。俺もたまには謙遜してみたいよ」


「それで誰かにホワイトデーは返したんですか?」


 香蘭が竜司さんに尋ねた。


 香蘭は健太の気持ちに気付いているが、だから尚更避けるように竜司さんにばかり話しかける。


「んー、どこの誰か分かんない子がほとんどだしさ。誰にも返してないよ」


 私はほっと胸を撫で下ろした。


「えー、誰にも? 竜司さんって彼女いないの?」

「あー、うん。まあね。いないよ」


「うそっ! そんなにモテるのに?」

「まあ、ちょっと遊んだりする子はいるけどさ。本命ほんめいがいるから」


 私はドキリとして竜司さんを見つめた。そして目が合って、すぐにうつむいた。


(本命ってもしかして……ううん、そんなわけないよね。でも……)


 私はいつも竜司さんの思わせぶりな言葉に一喜一憂いっきいちゆうして、あーでもないこーでもないと思い巡らす。


「そういう香蘭ちゃんと香百合ちゃんはどうなんだよ」


 竜司さんに尋ねられ、私は間髪入れずに答える。


「彼氏なんていません!」


 ムキになって答える私に同調したように香蘭も答える。


「うん。彼氏なんていないよ。まだ中二だもん」


 香蘭の返答に健太がほっとして、あからさまに笑顔になっている。


 でも嘘だった。

 香蘭はその一ヶ月前に他校の男子生徒に通学途中声をかけられて付き合い始めたばかりだ。




「なんで嘘をついたの?」


 帰ってから私は香蘭に尋ねた。


「そんなの正直に言う必要ないでしょ? せっかくの花火大会なのに健太のテンションを下げる方が気の毒じゃない」


 そういうものなんだろうかと私には分からなかった。


「だからさあ、竜司さんも嘘だと思うよ」


 でも続けて告げられた言葉には納得出来なかった。


「そんな訳ないわよ。いないってはっきり言ってたじゃない」


「だ・か・ら。竜司さんも私と同じ気持ちだったのよ。わざわざホントの事言って、お姉ちゃんのテンションを下げたくなかったんだと思うわよ」


「そんな訳ないわ! 本命がいるって言ってたじゃない」


「リップサービスよ。竜司さんってそういうのホントにうまいわよね」


 ちょっと彼氏が出来たからって大人ぶって分かったようなことをいう香蘭に腹が立った。



「なんでこんな夢を見たんだろう……」


 ベッドの中で目覚めた私は、すっかり忘れていた昔の夢ばかり見ることに首を傾げた。


「でも香蘭の言っていたことは、あながち間違いでもないのかも……」


 あの頃はまだ高校生で、竜司さんがいずれ私を迎えに来る王子様だと信じきっていて、それを否定することは一切信じなかった。


 でも少し大人になって、信じられない破局を迎えて改めて考えてみると、あんなにモテてイケメンの竜司さんに彼女がいない方がおかしい。


 四人で会っても二人でデートしても、手馴れていてスマートで、何人もの女性と場数ばかずを踏んでなければ出来ることではないだろう。


「たとえそうでも、竜司さんの本命はずっと私だったのよ」


 許婚いいなずけと決まってから会って、最初に言われた。


「ずっと香百合ちゃんが本命だったんだ。最初から結婚するのは香百合ちゃん以外考えてなかった」


 それまで何人の彼女がいようが、どんな恋愛をしようが、結婚するのは私と決めてくれていたのだ。それだけで充分だった。


「竜司さんは、私と会って何を話すつもりだろう」


 火曜日の朝になっていた。



「あ、誠也さん。お弁当を忘れています」


 私は朝から丁寧ていねいに作った弁当を手に、玄関まで見送りに出た。


「ああ。そうでした。ありがとう」


「もし外食することになったら、このまま持って帰っていいですから」


「いえ。外食すると時間が取られるので、お弁当にしてくれると助かります」


 今日竜司さんと会う罪ほろぼしではないが、全力で弁当を作ってみた。

 旦那様を満足させる一推し弁当レシピを集めた自信作だ。


 平日の誠也さんは、相変わらずの七三分けに銀縁メガネで堅苦しいスーツを着ている。この姿になると普段より一層無口で業務連絡のような話し方になる。


 普通の新婚さんなら行ってきますのキスぐらいしてもいいところだが、私達にはそんな甘い雰囲気はまったくない。私はそれで構わないが、誠也さんはこんな結婚でいいのだろうかと思いつつ「行ってらっしゃい」と見送った。


 そして昼に出かけるために、大急ぎで掃除と洗濯を済ませ、一番お気に入りのワンピースに着替えた。



次話タイトルは「真相①」です

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― 新着の感想 ―
[一言] クズ野郎のフラグが色々立ってますね。 続きが楽しみです。
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