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9,突然現れた殿下が輪に加わる

「リィー様の髪飾りは今日も素敵ですね。今までに見たことない品ですが、とても細やかな手仕事で作られていますね」

「お分かりになります? 故郷にはこういう細工を得意とする地域がありまして、取り寄せたんです」



「レン様、今日のお衣装はまた鮮やかな色合いですね。とてもよくお似合いです」

「この織物は我が故郷の名産品なんです。王様の妃にも好まれて、よく注文をうけているのですよ」



「シェン様、今日の菓子はまた随分と珍しい品ですね。薄膜のようなやらかい皮に、小豆で作った餡に果物が入っているのですね。果物の酸味と餡の甘みが調和して、美味しいです」

「流行りの菓子を取り寄せてみたのです。季節によって果物が変わるようですの。また近いうちに用意しますね」


「ラン様、本日の余興はまた興味深いものですね。この蛇のような絵が描かれた広い紙はなんなのですか」

「双六でございます。賽子サイコロを振って、出た目の数を進む遊びです。蛇のように見えるのは道でございます。ますで分けられ、ところどころに条件があります。順番に賽子を振って、出た目の数を進み、最初に目的地にたどり着いた人が勝つのです」

「それはまた五人一斉に遊べる面白い余興ですね。さすがラン様、楽しい遊びをお選びになる」


 ラーナは些細なことで妃候補たちを褒める。

 褒められる妃候補たちも良い気分となり、また何かを考えてくる。

 好循環の楽しい時間が過ぎてゆく。




           ◇


     


 ラーナが後宮に入って一週間後。その日も、中央の居室にて、四人の妃候補といつもと同じように、お菓子をつまみながら談話を楽しんでいた。 


「ラーナ様はいつもどのように漁をなさっていたのですか」

「小型の船に乗って海へ出ます。沖には行かず、いつも海辺が見えるところで、潜っていました」

「お一人で行かれるの」

「いいえ、傍に仕えていますミルドと共に小舟で出ています。小舟は波に揺られ、青空と海の境界線が彼方に見えます」


 目を細めて、海原の景色を語るラーナに、四人の妃候補はうっとりと聴き入る。


「そんな広い海で、たったお二人で……」

「すごいですわね。私たちは大型の旅行船しか乗ったことがありません」

「海に落ちたら大変ですものね」


「泳げないのですか」

「子どもの頃、川で泳ぐことはありましても、海となればさすがに。ねえ……」

「波と海水がどうしても、苦手ですわ」

「子どもの頃のように、自由に泳ぐことはゆるされませんしね」

「湖の端にある故郷の別荘でも、許されるかしら、ね」

「年頃の娘が、人前で肌を晒すのはよくないことなのです」


 ふうんとラーナは妃候補たちの話に耳を傾ける。

 穏やかな表情を向けられる妃候補たちは、ほんのりと嬉しそうに笑む。


 リィーが話題を変えた。


「島国ムーナは踊りが有名ですわね。ラーナ様も踊られますの」

「踊りの名手である姉から手ほどきを受けておりますが、私の場合はあまり人前で踊ることはございません」


 はたと腕に妃候補たちの目が向く。悪いことに触れてしまったという妃候補たちにラーナは微笑みかける。


「お気になさらずに。私が踊らないのは、漁の方があっているからです。私は踊りは嗜む程度。真の名手は、一の姫シーラです。今回、右の大国エラリオへ嫁いでしまいましたがね」


「では、お姉様はすでにエラリオに……」

「残念だわ。もし島国ムーナに旅行に行く機会があっても、お姉様の踊りは見ることは叶わないのね」

「しかし、四の姫は姉に似て、踊りがとても上手なので、数年後には国を代表する踊り手になるでしょう」

「やはり王族の方々は踊りがお上手な血筋なのですね」

「どうでしょう。同じ姉妹でも、向き不向きはありますよ。三の姫はとても賢い子なのですが、踊りは苦手です。私は表立って踊るには少々難があります。格別、一の姫と四の姫が踊りがとても上手いのです」


 妃候補の四人と穏やかに会話が続いていた時だった。

 部屋の入り口から、カタンと音が鳴った。


 いち早く気づいたのは、扉を正面にして妃候補の一人、ラン。彼女は、声もなく扇で顔を覆う。その急な変化に三人の妃候補が、扉側に目を向けた。


 目を向けるなり、ばっと顔を扇で覆いつくす。


 扇を持たないラーナだけが、横を向き、そのまま顔を晒していた。


「お楽しみのところ済まない。緊張しないでほしい」


 おろおろと困り顔の秀麗な男がぽつりとつぶやく。


「初めて会う者も多い。自己紹介させてもらう。

 私は、ジュノアの王太子、リャンである」


 軽く頭を垂れるやいなや、妃候補たちが一斉に殿下へと向き直り、額を床につけんばかりに平伏した。


 ラーナはゆったりと肘置きを横にずらし、居ずまいをただした。


 リャンの目線が妃候補たちの頭部を泳ぎ、ラーナを捕らえる。


「はじめまして、島国ムーナからいらした二の姫ラーナ」


 妃候補たちにならい、ラーナはこうべを垂れた。


「どうか皆、顔を上げてほしい、長らく訪問もせず、こころよりすまないと思っていた。どうか不甲斐ない私を赦してほしい」


 ラーナを含めた妃候補たちが顔をあげた。

 最年長であり、唯一殿下と面識があったリィーがまっすぐに殿下を見つめ、言った。


「ご訪問痛み入ります。リャン殿下」

「妃候補たちは仲が良いのだな。このように頻繁に会って、遊んでいるなど、知らなかったぞ」


 妃候補たちがそそとラーナの横に一人分座れる場を作る。控えていた女官が、五人の妃候補たちより細かな刺繍を施された丸椅子を置いた。


 ラーナが両目を瞬いている間に、リャンはそこに座った。


 中性的な美丈夫は、四人の妃候補を眺めてから、ラーナと向き合う。口元をほころばせ、はにかんだ。



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