Z軸のない投稿風景【1000文字未満】
最近、この世界からZ軸がなくなった。
目の前から婆さんが歩いて来た。トロトロと芋虫のような愚鈍さ。別に怒鳴ることでもない。だからって避けられるものではない。俺達に奥行はないのだ。
ジャンプ。最近身につけた跳躍能力で、婆さんを避ける。腰にくる。跳べないからと感謝され、登校を続ける。
前の俺は間違えた。電車登校なんて選択すべきでなかった。今ならそう言える。目の前の大通りなんて地獄と一緒だ。サラリーマンがジャンプし、あるいはスライディングで股の下を通る。最初こそ、スカートの下を潜らざるを得ない状況に世は沸いた。
だが、今どきパンチラで騒ぐ奴も興奮する奴もいない。それよりもぶつからないように股を広げることが大事。俺もスライディングし、ジャンプし、進む。
床が浮遊していた。小さな回転翼がついている。Z軸がなくなり、政府が緊急で対応した物だ。これがなければ通勤や登校で何かが狂ったに違いない。人々は浮遊床に乗り継ぎ、行かねばならぬ先へ進む。俺も次々飛び乗って、地下鉄へ入り込む。
階段を悠長に降りる奴は滅多刺しにされても仕方ない。そもそも階段自体が邪魔だ。人々はそう考え、階段だったものは全て滑り台になっている。上り階段なんぞ、壁キックでどうにかしろということだ。俺はこれに賛成している。そうじゃないと詰まって動けない。
電車の前に着いた。さて、ここからどうやって乗るかだ。電車やらは、Z軸の奥にある。あれも自由に動けないようだが、俺達よりはマシだ。まるで背景のように電車が来た。降りる奴らは吐き出され、乗る奴らは吸い込まれる。椅子はない。背景になっていて座れないのだ。
目的地に着いた。吐き出され、階段を上り、出た。浮遊床を飛び越え、学校へ。
校内の階段を減らすため、浮遊床の橋によって教室にいける。プレハブがそこかしこに建てられている。Z軸がないもんだから、教室に三十人も入らないのだ。
やっと教室に着く。一限目は国語。体育のほうがよかった。グラウンドも回れないし、やることがないから。座学の授業なぞ、黒板に何も書けない。
何とかして奥行を取り戻せないものか。でも、ステージ制にされると困るな……。




