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北方域への援軍は王命により速やかに決定された。
カインディルの予想では議会等を挟み一月は掛かると思われたが実際には十日足らずで援軍はイガヤイムに到着する。
それほど今回の事態をアムストゥ国王が重く受け取った証拠である。
なにせ北方域の領主が二人、連名にて窮状を訴える前代未聞の危機。
魔王を僭称する不逞の輩も許しがたいが、それ以上に多くの人間が巻き込まれる戦に発展するのを避けたかった国王は迅速に事を進めたのだ。
人心が乱れれば魔獣の被害が加速度的に増していく。
それはやがて北方域だけに収まらなくなる。
国を蝕もうとする災厄の芽を刈り取らんと派兵した軍隊ではあったが彼等は何の役にも立たなかった。
イガヤイムに着くや戦闘が開始された。
ここで大隊規模の負傷者が発生する事となる。
戦列を組む余裕もない奇襲によるものだ。
彼等を襲ったのは怪奇的な機械の軍団。エタウィに巣食う魔王の配下である。
初めて目にする無機質な機械生命体の群れに鍛えられた軍属といえど動揺は隠せなかった。
王都から北方域までの強行軍で体力は削られており、そのせいで士気も低かったのが影響し被害は拡大していく。
このままでは全滅する。
指揮官も兵士もそう絶望しかけたとき状況は一変する。
――灼熱一閃。
戦場を赤の光が駆け抜けるや敵の機械群の多くが破壊された。
それに続いたのはイガヤイムの冒険者に衛士達。
慣れた様子で残る機械群を相手取って殲滅していくのであった。
援軍としてきたはずがとんだ足手まとい。イガヤイムの救護班に助けられながら彼等は見た。
その戦場の中心に立つまだ年若い少年の姿を。
赤龍を駆る少年の勇姿は瞬く間に王都まで伝わった。
「……赤の龍騎士、か」
エタウィとイガヤイム間におけるこの戦いはやがて北方戦線と名を付けられいまなお激しく続いている。
そして、その戦場において赤い龍を見ない日はただの一度も無いのであった。
これにて序章終わります。
次からは新章です。
引き続き読んで頂けるなら幸いです。