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 ヴィンツの放った火球が界人等に直撃する寸前、桜花は射線上に割って入り火球を斬った。

 出来る出来ないではなくやるしかなかった。

 魔術で構築された火の球を斬るなどという経験があるわけもなく、ぶっつけ本番の一本勝負。

 結果は見事に両断。

 界人等を灼くはずだった炎熱の奔流は左右へと拡がって無力化された。

【未完の剣】と桜花の剣技が揃わねば叶わなかった奇跡である。

「……桜花」

「桜花ちゃん」

 2人の前に飛び出し救ってくれた桜花はボロボロだった。

 ジグラーの拳撃をまともに喰らったのだから当然だ。

 雪と泥と自身の血に塗れる見た目もさることながら、見えない内側の損傷(ダメージ)の方が深刻であった。

 拳が当たった部位の肉が潰れ、骨が折れ、内臓まで傷つけていた。

「……ゴふッ」

 片膝をつき桜花が吐血した。

 気力を振り絞っての一刀は負傷した身体を更に痛めつける。

 界人とノエルが心配し声を掛けようとするが桜花はそれを聞く前に駆け出す。

 眼前に拡がる炎の壁を切り裂いてヴィンツの元を目指した。

「凄いね、桜花さん」

 偽りなく感嘆の声を漏らすヴィンツだったがその声には余裕があった。

 それもそのはず、ヴィンツからすれば桜花の無力化など容易かったからだ。

 手負いの有無は関係ない。ヴィンツが見ていたのは桜花の指である。

 細く美しい桜花の指には飾り気の無い金属製の指輪が嵌められていた。

 ヴィンツが昨日渡していた付与魔術の効果を得るための受動媒体である。

 界人、ノエル、ジグラーも同じ指輪を指に嵌めていた。

 付呪カースド・エンチャント。ヴィンツは弱体化の呪いを付与するのにもこれを利用していた。

 指輪が無くとも呪いを掛けられはするが本職の呪術士には劣り、発動速度、発動効果、そもそもの呪いの成功率が大幅に下がってしまう。

 指輪はその補助を担っていた。指輪を嵌めてさえいれば、タイムラグ無しに付呪は確実に成功するようになっていた。

「でも終わりだよ。付呪!」

 指輪の有無を確認したヴィンツは余裕綽々といった様子で付呪の発動を軽やかに宣言した。

 怪我をしてるにも拘わらず俊足で距離を詰めてくる桜花に呪いを付与する。

「残念だったね~これ以上の奇跡はさすがに無いでしょ。3人揃って仲良く冥府に――!」

 付呪の成功を確信し嘲りの言葉を垂れるヴィンツだったが異変に気付いた。

 ――桜花の動きが止まっていない。

「な、なんでだ!? か、付呪カースド・エンチャントっ!」

 今一度、付呪を試みるが桜花の俊足に衰え無し。

 それどころか、より前傾に身体を沈め速度が跳ね上がる。

「付呪、付呪、付呪、付呪、付呪、付呪ぁ!!」

 彼我の距離が2メートルを切るまでヴィンツは同じ単語を唱え続けていたが、ようやくそれがまったくの無意味と気付き別の呪文を口にしようとする。

「くっ、ファい――」

「――遅い」

 ヴィンツの呪文より速く【未完の剣】が閃いた。

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