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――どいつもこいつもウザってえんだよ。
「オレ様がここまで来るのにどれだけ掛かったと思ってる!?」
十年間だぞ。
まだガキの頃に見た冒険者のデケエ背中に憧れて、鍛えて、努力して、第五位にまでなった。
「それをお前らはなんだ。冒険者になってすぐに第七位だぁ!? ふざけんな!!」
そんな理不尽があってたまるか。
ミネルヴァには置いていかれ、新人のメスガキに一撃でやられ、他の冒険者からは馬鹿にされる。
そんな糞みてえな現実があっていいわけがねえ。
「……お前らさえいなくなりゃあいいんだ」
そうすりゃ問題は万事解決する。
オレ様のケツ近くに目障りなゴミはいらねえんだよ。
オレ様は第五位なんて中途半端な座にいつまでもいる男じゃねえ。
オレ様こそが最強なんだ。
「ここで潰れろやカスがぁ!」
「……下衆め」
剣を持ったメスガキがオレ様に敵意を向けてきやがる。
ムカつくぜ。一度不意を突いて勝ったからって調子に乗ってんだろ。
だが、次も上手くいくとか甘ぇこと考えてんじゃねえだろうな。
だったらテメエはオレ様にゃ勝てねえ。
「オラァっ!」
地面を大きく殴り削ってやった。
雪と砂礫が広範に勢いよく飛び散る。
お前は近接戦しか能が無いとオレ様を評してるかもしれねえが舐めんなよ。
「……くっ!」
オレ様なりの中距離攻撃にメスガキが怯んだ。
お前は剣が武器だからな。オレ様と同じ近接特化だ。
近寄ってからしか攻撃出来ねえし、近寄らせなきゃ怖くもねえ。
オレ様の剛力で飛ばした雪や砂礫は当たりゃただじゃすまねえ。
物が細けえから避けにくいのも面倒だろうよ。
これでお前はオレ様に近づけねえ。定期的に地面を殴って牽制してりゃ封殺だ。
口惜しいが一度負けてるんだ。技の速さではお前に勝てねえから近づかせねえよ。
「桜花ちゃんわたしに任せて。マジカル・キューティー・ラブリーショット!」
薄桃色の閃光がオレ様に向かって飛んできやがった。
「しゃらくせぇ!!」
「嘘、直撃したのに無傷!?」
無傷じゃねえよ。多少熱いし、痛え。
「ンなもん効くかよ! ヴィンツの強化付与が無きゃ中級そこそこの攻撃魔術だろうがそんなもん。オレ様の鋼の肉体に傷がつけられると思うな!」
さすがに多勢に無勢だ。剣持ってるメスガキにかまけてると、後衛職のメスガキが魔術で攻撃してきやがる。
ただ直撃しても問題ねえ。ウゼェだけだ。
本当に問題になるのは――
「――っ、界人!」
「テメエだ!」
剣持ってるメスガキもだが、それ以上にヤバいのは黒髪のテメエだ。
昨日は驚いたぜ、絵札使って攻撃魔術使ってやがったよな。
短え式句の詠唱だけであり得ねえ威力だった。
炎の矢みてえなもんが魔獣に飛んでったかと思えば火柱が上がって魔獣は跡形もなく消し炭だ。
ヴィンツの強化付与による威力の上昇無しにそれだ。
お前に魔術は発動させねえぜ。雪と砂礫を黒髪に飛ばしたが剣を持ったメスガキが間に割って入って庇いやがった。
「大丈夫ですか界人?」
「あ、あぁ大丈夫」
結果的に攻撃は失敗したが……悪くねえ。
「おらぁ!」
地面の雪を握って雪玉にして、それを黒髪目掛けて投げてみる。
「界人、伏せてください!」
メスガキが剣を使って雪玉を防いだ。
思ったとおりの行動だ。
「なんだよこの何日かでもしやと思ってたが主従の契約でもしてんのかテメエら?」
黒髪への些細な攻撃なんて無視してオレ様を仕留めりゃいいのにメスガキはご丁寧に守りやがった。
お優しいこった。いや、過保護って言うのかこの場合?
まぁ、なんにしてもオレ様にとっちゃ好都合。
「雪遊びなんざ何年ぶりだかなぁ!」
雪も土も石も関係なく丸めて黒髪向かって投げつける。
すると、どうだ。面白いようにメスガキが割り込んで守りやがる。
剣で切ってるがそんなもん無駄だ。
オレ様の握力で圧縮して固形化してるが元は柔けえ雪に砂礫の集まり。
刀身に触れ斬られるやその衝撃で崩れ派手に弾け飛ぶ。
弾け飛んだ破片は奴ら3人に小さいながら傷をつけてる。
黒髪は頭を抱えて魔術を使う素振りもしねえし、変な式句のメスガキも似たようなもんだ。
「ハハハハ! なんだなんだぁお荷物抱えてちゃ動けねえのかよ! ザマァねぇなあ!」
こうなったらオレ様のもんだ。
剣持ってるメスガキは防戦一方。自分が盾にならなきゃ他のお荷物2人に雪玉が直撃するんだからな。
そしたら大怪我は確実でそりゃあ必死にもなるわなぁ。
至近距離で雪玉叩き切ってる自分が一番痛えし怪我もしてるのにお仲間の為に頑張るとか泣かせてくれるぜ。
でもよ、雪玉だけにかまけてるとより痛い目見るぜ。
「おら、オラ、ドラァ!!」
雪玉作りの途中に見つけた岩を三つほど投げてやる。
分かってるだろうが当たれば雪玉の比じゃねえぞ。
「…………っく!」
お前だけなら簡単に避けれたろうぜ。
岩なんて重くて的のデケエもん余裕で見切ったろうさ。
だが、テメエは避けれねえ。
避けたらお仲間に当たるからな。
後ろの2人に避けろと指示しても、後衛職の人間に俊敏な動きは期待出来ねえ。
じゃあ、どうするか?
全力で叩っ切るよなあ。
「ハァァァァア!!」
気合いの乗ったいい声の後に瞬速の斬撃が放たれた。
僅かな時間差で投げたオレ様の岩は次々細切れになる。
だがな、
「――お前の負けだぜ」
オレ様の拳がメスガキのどてっ腹に完璧に叩っ込まれた。
岩を投げたと同時に距離を詰め、メスガキが岩を斬ってる隙に殴ってやった。
お仲間を見捨ててりゃこんな結果にはならなかったろうにな。
――全力で拳を振り切ってやる。
後方にメスガキがぶっ飛んでいった。
「…………あぁ、最ッ高の気分だぜ」