8
「もう無理だ! モンスター召喚しようぜ!」
今日も一時間くらい歩いては休憩という体たらくを見せてた俺とシンジ。
そんななか、四回目の休憩でシンジが叫んだ。
理由は疲労と空腹らしい。
疲れたー。腹減ったー。と喚く喚く。
確かに丸一日なにも食ってないから俺もツラい。
持ってたペットボトルの水もまもなく底をついてしまう。
元々飲みかけだったのと自分達だけ飲むわけにもいかず、ミエルにも分けた結果だ。
「召喚するったってお前……どうするつもりだよ」
俺は背中に感じるズシリとした重みにうんざりする。
その正体は昨夜に召喚した【希望の龍卵】だ。
俺はダチョウの卵大のそれをボディバッグに無理くり詰め込み、朝からずっと持ち運んでいたのだった。
なんでかは知らないがシンジの召喚した【月影に踊る暗殺者】と違い、勝手に俺の後を着いてきてはくれなかったのだ。
というわけで俺のボディバッグの中身は【希望の龍卵】だけ。
俺のバトミリのデッキは入らなくなったのでシンジに預けてある。
召喚に消極的な理由もこの一件のせい。
ミエルに聞いたところ、一般的な召喚士が召喚する召喚獣は召喚士の魔力が尽きれば自然と消えるのだとか。
一晩も実体化したままなのは異常だと驚いてた。
それ故に朝は新たに召喚をしなかった。またどんな不測の事態に陥るかわかったもんじゃないしな。
「ちょっとシンジ、朝も言ったけどわたし達はこれからエタウィの町に向かうのよ。町まで早く着けるのは良くてもどうやって町の中に入れて貰おうっての? わたし達三人が乗れるような大型の召喚獣連れてじゃ絶対入れて貰えないわよ」
町の守衛に止められるそうだ。
うん、ですよね。って感じ。
町の治安を守るのが守衛だもんな。巨大なモンスター連れの不審者を入れてたら職務怠慢でクビだろうさ。
そう聞いてたのもあり召喚しないと皆で決めてただろうにシンジの奴よっぽど疲れたようだ。
聞き分けのない子供のように駄々をこねてる。
「そもそもなに召喚したって無駄だろ。バトミリのルール通りにしか動かないんだからお荷物になるだけだ」
文字通りのお荷物【希望の龍卵】を背負う俺が言うんだから説得力は人一倍ある。
と思っての発言だったがシンジは反論した。
「それはそうなんだけど一回だけ試してみたい事があるんだよ!」
何を言ってもシンジは納得せず動こうともしないので、俺とミエルは好きにさせることにした。
「オレは【月影に踊る暗殺者】を上級モンスター召喚の代償に支払って【夜を駆る悪夢の車輪】を召喚する!」
シンジが高らかに宣言すると少し離れた所にいた【月影に踊る暗殺者】が黒色の粒子に変わっていき、黒色の粒子は新たな形に変貌を遂げた。
粒子が形作ったのは禍々しいデザインの自動二輪車だ。
【カード名:夜を駆る悪夢の車輪】
【等級:上級】
【属性:闇】
【所持スロット:◆◆◆◇◇】
【種族:メタルマシン】
【戦闘力:2200】
【効果:
『高速機動(A)』
相手フィールドのモンスター全てに攻撃できる】
【オクシデンツ・スタッド】
「なにこれ荷車?」
車輪が付いてるからミエルは荷車と判断したっぽい。
言葉自体はそっけなかったものの自動二輪車なんて初めて見るんだ。
発した言葉とは裏腹に興奮した様子で観察しペタペタ触れてた。
「よっしゃ召喚は成功だ! ……さて、そこで確認なんだが界人くん」
「ん?」
なんだか勿体ぶった気持ち悪い話しかけられ方をしたせいで不快だったが返事ぐらいはしてやる。
「なんだよ気持ち悪い」
「君、こないだからバイト始めたよね」
「あぁ、始めたな」
「どこだっけ?」
「ピザ屋のデリバリー要員」
「だよねー。ってことは原付の免許もあるよな」
「そりゃあ無きゃ運転なんて出来な…………お前、まさか」
シンジの考えが読み取れ、召喚された【夜を駆る悪夢の車輪】を見る。
まるで日曜日の朝に放送されてるヒーローが乗るマシンのように、原型無く禍々しく改造されまくった自動二輪車。
その自動二輪車に乗り手はいない。
公式のカード設定集には深夜の高速道路に現れる無人の幽霊バイクとかなんとか記載されてたな。
「……冗談だろ?」
半笑いで聞いてみたがシンジの顔はいたって真剣なものだった。